見出し画像

18.湘南紳士塾でイケてるメンズを目指そうよ。

カウンセリングで教わった事をいざ実施すると、多分やり方が自分に合ってたのだとは思うが、遂行率100%とは行かないまでも、最初から80%から90%程度は遂行する事が出来た。

1ヶ月後、再び若宮先生のクリニックに訪れる。今度は最初の5分以外、先生が一方的に話し続けてカウンセリングが終わった。改めて思うんだけど、カウンセリングって傾聴が基本じゃなかったっけ?

カウンセリング後、生活習慣の管理をしてもらっている看護師さんから「すごく順調です」と言われ、相談の上「ここでもう一押ししましょう」という事で、生活習慣改善の為の塾(合宿制)に参加する事になった。

塾の名前は湘南紳士塾。湘南紳士塾とは生活習慣の乱れにより社会生活に支障を来たしている人を対象にした塾で長期の寮生活、短期の合宿などを通して、生活習慣を改善するプログラムを提供している。

現在の俺はハイエナコさんのお店や、高山の知人のショップの手伝いだけで、通常の仕事の緊張感や疲労感を浴びているわけでは無い。もっと、ちゃんとしたストレスフルで疲れる仕事をしながら、それでもキチッとした生活を出来るようにする。その為には、特に最初は強制力がある環境が望ましいというのが若宮先生(というより担当の看護師さん)の考えなのだ。

もちろん言う通りにした。寮から通う仕事場があった方が良いという事だったので、湘南紳士塾に入寮中は、寮から徒歩と電車で30分の場所にある倉庫でバイトする事にした。

翌月、最低限の荷物だけを持ち、塾のある横須賀へと向かった。「横須賀って湘南だっけ?」という疑問は俺の頭にも浮かんだ。でも、この際、そういう細かい事はどうでも良いが、やっぱり気になったので、塾の担当の方にメールで伺った。

どうやら、元々は藤沢の方で30代以上未婚のイケてない男性にイケてる男性になる為のモテ講座を開いていたのだそうだ。集まってくるイケてない男性の傾向を分析している内に、生活習慣が乱れている人が多い事に気付いたそう。生活習慣の乱れを放置出来るという事は、美的な感覚が鈍っている証拠、という塾長のコンセプトから、生活習慣の改善を軸に打ち出したところ、俺みたいな奴が殺到したそうだ。

そんな俺みたいな奴等と接しているうちに、これは通う塾だと限界があると思い、横須賀で売りに出されていた雑居ビルを買い取り、それを寮にリノベーション。やがて、イケてる男性のモテ講座はどんどん後退し、生活習慣の乱れなどが原因で社会生活や家庭生活がままならない人達を矯正する塾へと変貌していったのだそうだ。

寮の入るビルは元々店舗などが入る雑居ビルだった事もあって、1階には塾長が経営するトレーニングジムと、塾長の友達が経営する工務店が入ってる。仕事が無い人は、1階のジムや工務店か、藤沢にある塾長が経営している通販代行の会社に出勤する形になるそうだ。俺の入寮時は5人の男性が3階の長期向けの寮で生活を営んでおり、10人の男性が2階の短期合宿向けの寮で生活していた。

しかし、様々な問題を抱えた人が来ていた。熟年離婚に酒乱。犯罪にギャンブル狂。生活そのものの破綻。テレビで特集されそうなレベルのゴミ屋敷の住人。などなど。俺がマシな部類に入る程だった。

寮生活と行っても、俺の場合、いつもと変わらない。既に若宮先生の指導で生活習慣も改善していた事もあって、何か特別な矯正プログラムを受けるという事も無かった。ただ、3階の共同スペースに行くと、それこそ、洗濯物を洗濯機から取り出し、それをパンパン叩いてシャツハンガーやピンチハンガーに掛けたり挟んだりして、それを共同スペースに面するベランダに干すという事を、塾の先生が1つ1つ指導しながら、取り組んでいる。

熟年離婚がキッカケで入寮していたOさんは、食事マナーの指導から、食後の片付けの仕方を学んでいた。その手順をノートに書き留め、何度も何度も見直しながら、片付けをしていた。

俺は1日目で、「田島さんは大丈夫そうですね」と言われて、以後は先生を手伝う形で、片付けが苦手なSさんや、to doリスト通りの作業が出来ないEさんなどのサポートに回っていた。

何だろう、大学サッカー部時代を思い出す。生活に関するあれこれが苦手って人が結構いて、どれだけ教えても出来なかったりする。俺はそうではない。ただサボっているだけ。何だろう、何か分からないけど、しっかりしなきゃって思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?