安定の失敗。
投資
昨年だが、学生時代の友人、田町から「起業するから投資してくれ」って頼まれた事があった。
昼時、刺身定食を食べ終えて緑茶に葛餅を食べていたら突然電話があり、電話に出ると、何の前起きもなしに突然、「大崎(私)、俺に投資しない?」と言われた。でも驚きはしなかった。田町は元々こういう奴なのだ。
「投資? 幾ら?」
「300万」
「300万? 何に投資するの?」
「俺だよ、俺」
「どういう意味?」
「俺って人間に投資してみないかって事。だから事業とかそういうのは何にも決まってない」
「何を言ってるんだコイツ」と当然思ったけど、こういうぶっ飛んだ所が、ある意味田町の魅力ではある。
一応は、「他で借りられないの?」と聞いてみた。もちろんコイツが常識的な判断を是とする金融機関で借りられるはずが無いとは思ったけど……。
案の定、全滅だった。
金融機関はそもそも論外だったそうだ。実績も無いし、担保も無いし、人間も変だし……。
エンジェル投資家にも挑戦してみたそう。だが、コチラも論外だった。能力的にも、人間的にも、計画的にもアウト。「全部アウトだけど、その勇気だけは買います」と言われ、大笑いされたそう。
親からも即却下。「真面目に働きなさい。お前はただでさえ信頼が無いんだから」と言われた。何しろコイツは昔、母親の財布から5度も6度も金を抜いて怒られた事がある。もちろん親戚からも相手にされず、彼女からも「真面目に働きなよ」と怒られた。
そこで、俺にお願いしに来たらしい。
親や彼女や親戚に信頼が無い奴に、サッカー部で一緒だっただけの人間が貸すわけ無いと思うんだけど、一応は理由を聞いてみた。そしたら、「大崎(私)は俺のサッカーの実力認めてくれていたからさ」と返ってきた。なるほど、確かにサッカーの実力という意味では認めてはいた。でも、「それとこれとは別じゃないの?」と聞くと、「お前だったら、面白がって出してくれるんじゃ無いかなって思った。起業してそこそこ上手く行ってるらしいって聞くし、有料メルマガも結構読者いるって聞いたし……。それに何より金持ってそうだし」だってさ。
何だか変な理由だなって思ったけど、確かに、田町の挑戦と聞くと面白そうである。もちろん、田町が成功するなんて1ミリも思ってない。何しろ、コイツはサッカー以外は全てダメダメな奴で、仕事に金に女に生活にと、学生時代から延々トラブル続きな奴なのだ。でも、だからこそお金を出す価値はあると思った。
という事で、これから起こるであろうトラブルとか失敗話を聞かせてもらい、それを現在運営中の有料メルマガやSNSに書いてもOKならば「100万くらいなら出すよ」と提案したところ、「ありがとう大崎!」と大喜びしてもらえた。
失敗ネタ
田町は「大崎って起業家が出してくれた!」という実績を元に色々な人の元へ訪れ、結構な額を引き出す事に成功したみたいだ。何か「しまった」と思った。「俺がお金を出したってのをダシに使うのは禁止な!」って言っておくべきだった。何しろ俺は失敗前提で貸しているのだから。
その後、何やら色々と挑戦し始めた。まあ、俺の期待通り、失敗に失敗を重ねて沢山のネタを提供してくれた。日々、チャットワークに報告が上がるのだが、早速、上手い儲け話に騙されて100万を巻き上げられていた。だが、田町は巻き上げた相手に絡みつき、100万を取り返そうと奮闘する。あまりにしつこく絡んでくる田町に詐欺った側もついに根を上げ、田町は100万+5万(謝罪料)で105万に増やす事に成功する。
次に、どう考えてもヤバそうな自称起業家と協業(ジョイントベンチャー)して大トラブルに発展する。だが、逃げを打とうとする自称起業家の実家にまで突撃した結果、親父さんから慰謝料として10万円を頂く事に成功する。
他にも、法人設立時の書類のやり取りがいい加減過ぎて税理士さんにブチ切れられたり、俺以外のお金を借りた先輩から「返済はいいから俺の前に2度と顔を出すな」と見限られたりと、もう安定の失敗続きだった。
そんな田町の失敗ネタの一部をSNSに上げたら結構バズってくれて、お陰様で有料メルマガの会員数も増加。1年というスパンで見れば充分回収も出来ているので、もう感謝しかない。
そして何より彼が凄いのは、これだけトラブル続きなのに、凝りもせずに挑戦し続けている事だ。それも、全然失敗から学習しない。多分、変な意味でメンタルが強いから、どれだけ失敗しても反省しないんだろうね。普通はね、失敗したら、2度と同じ目に遭わないように学習するものだけど、彼の場合それが無い。
◆失敗続き
その後、常々「真面目に働きなよ」とアドバイスする彼女に「真面目に働くから」と嘘をついて、2度もお金を引きだし怪しいビジネスに投資。それが速攻でバレてブチ切れられた話。その彼女に謝罪したまでは良かったが、土下座直後に「誰か良い投資家知らない?」と質問して、超ダメ男依存系の彼女からすら「見捨てられそうだよ」という話。
セミナーで初めて会った自称起業家の口車に乗り、仮想通貨の取引システムに投資して大失敗した話。などなど。小さい失敗ネタまで含めたら切りが無いのだが、とにかく田町は失敗し続けた。
俺がお金を出してから、1年後には、「昔からの友人・知人で連絡が通じるのが、もう居ないよ! でも、それ以上に新しい変な友人・怪しい知人が増えたんだよな」と言って笑っていた。
その後も失敗し続けたにも関わらず、なぜか資金は増えていった。どこからか金づるを見つけて、なぜか金を引き出すのだ。
明らかに田町に否があるトラブルなのに慰謝料だの、見舞金だの、手切れ金だのという名目でお金を手に入れる。粘り強くトラブル相手に絡み続けるからだと思うけど、これはこれである種の才能のような気もする。俺と俺以外にお金を貸した人の総額が800万くらいらしいのだが、現在田町の通帳には1014万円あるらしい。それも、現在800万の内400万円は返済の必要も無い。(投資分+途中で見限られて返済の必要が無くなった借入金額も含む)
期待
彼だったらトラブルと失敗の連続だろうと思ってお金を貸したが、安定のトラブル・失敗続き。
迷惑を掛けた人には申し訳ないが、こういう人間が居るからこそ仕事が増える人だって居る。負の需要に対処する職業なんて特にそうだろう。
しかし、俺の期待以上の出来だ。こうして彼はずっと期待に応えてくれた。信頼(?)ってのは期待に応え続けることで高まるモノなのだ。(えっ?)
<了>
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物語内に登場する人物・場所・施設等は全てフィクションです。
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