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【掌編物語】ごく短い物語集

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掌編サイズ(大体800-2000文字程度)の物語を載せています。
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#短編物語

講演マシーンの憂鬱

仕事。 私(品川)は、3年前からフリーのライターになった。マーケティング畑の経験を活かし主にビジネス系の記事を執筆している。今回は、いつもお世話になっている湊町経済マガジンさんからの依頼で、セミナー講師の朝田さんにインタビューする事になった。 朝田さんは、元々大手コンサルティング事務所出身で、独立後に起業家支援の会社を立ち上げ、4000人以上の起業家育成に関わってきたという人(どういう計算だろう?)。現在は、主にセミナー講師として年間150本以上の講演をこなし20冊以上の

元高級ホテルの残照

出発準備 いつもは、色つき、柄もののワイシャツを選ぶのだが、今日は白無地のワイシャツに紺のネクタイを締めた。前髪は真ん中分けにし、普段は無造作に立たせる頭頂部も寝かせ、幼く見られるのが嫌だからだと、いつも1mmのバリカンで整えていた顎髭をT字のカミソリで綺麗に剃った。 そろそろ時間だ。 部屋の電気を消すろt、黒の紐付きの革靴を履き、黒の鞄を手にすると、1K8畳の家を出た。 中堅コンサルティング会社から独立して3年目。当初の予定では、独立3年目には年収2000万円を超え

威圧感と栗饅頭の味。

地雷 私(駒込)はWebプロモーション会社でディレクションを担当している。(チームリーダー) 今日は、クライアントであるC社の社長とのミーティングで、S県のK市に向かっているのだが、とにかく気が重い。プロモーション自体は及第点以上の成果を上げている。だから取引という意味では堂々としておけば良いのだが……、どうも、そんな気分にはなれない。というのも、このC社の社長というのが、とにかく威圧感があるというか、高圧的というか、要は厄介で面倒な人なのだ。 今時珍しいくらい怖いタイプ

安定の失敗。

投資 昨年だが、学生時代の友人、田町から「起業するから投資してくれ」って頼まれた事があった。 昼時、刺身定食を食べ終えて緑茶に葛餅を食べていたら突然電話があり、電話に出ると、何の前起きもなしに突然、「大崎(私)、俺に投資しない?」と言われた。でも驚きはしなかった。田町は元々こういう奴なのだ。 「投資? 幾ら?」 「300万」 「300万? 何に投資するの?」 「俺だよ、俺」 「どういう意味?」 「俺って人間に投資してみないかって事。だから事業とかそういうのは何にも決まっ

やらずに後悔する方がマシ

HMさんとは、知り合いの社長さんが主催した懇親会の会場で出会った。懇親会は主催者である社長さんの弟が経営するレストランを貸し切った上で開催されたのだが、レストランの広さに比べ参加者が少ない何だか寂しげな懇親会だった。(昨年は会場を埋め尽くすくらいの人が居た) 受付で参加費の支払いを済ませると、渡された名刺サイズの案内に従い指定された席に座った。先に隣に座っていたのがHMさんで着席するや否や俺の方から話しかけたのだが、見知らぬ人同士の会話が始まる前の微妙な間や、「これから話し

紹介

幼馴染みからの電話 看板の取り付け作業が終わり、作業用の工具箱を手に車に戻ると、ダッシュボードの上の携帯がカタカタと音を立てフロントガラス沿いに移動していた。手に取り液晶を見ると、幼馴染みの秋子からの電話だった。 「もしもし秋子」 「翔太、今大丈夫?」 「大丈夫、丁度、今仕事終わったところだよ」 工具箱を地面に置く。 「ホント。……。あのさ~、例のT川君の件だけどさ……」 「あ~。OK。今日はもう帰るから、ええと、じゃあ、喫茶店シカゴで待っててよ」 「分かった。何分くらい

キックバックで泡銭

ビジネスの世界は基本的に不公平。美味しいポジションに、いかに立つ事が出来るかで収入が一桁も二桁も変わる事がある。俺(阿部)はトーキョー特区(実験特区)では最も格式の高い会社である都倉グループで市場開拓に関わる仕事をしてきた。お陰で、とんでもなく美味しい仕組みの恩恵を受ける資格を得た。 その1つがキックバックの仕組みだ。 古巣のキックバックの仕組み。 簡単に言えば、クライアントを都倉グループに紹介し成約すると、案件により1%~5%程度のキックバックを受け取る事が出来る。

二巡目の無い整体院の謎。

私は新卒で中堅の製薬会社のMRに入社、その後、病院やクリニックの開業支援・経営支援を行うN社に転職し2年前に独立。独立後は、前職の経験を活かし、主に治療院、美容サロン、個人経営のクリニックの経営支援をしている。 独立後は、古巣のN社から流れてくる案件のお陰もあり、収入も安定しており、そろそろ、個人事業主からの法人成りを検討している頃に、ちょっと特殊な案件に関わる事になった。 その特殊な案件は古巣N社のA先輩からの紹介だった。A先輩は、在職中はもちろんだが、独立後も、古巣N