見出し画像

アンコールワットの街から船で首都プノンペンへ

 旅の醍醐味、旅の善し悪しを決めるのは案外治安とかコストパフォーマンスとかではなくて、食事だったりする。食べものさえおいしければ、どんな危険地でも汚い場所でもいい思い出になる。それを基準にすると、ボクにとってカンボジアはあまりいい旅先ではなかった。今はだいぶ変わったようだが、初めてじっくりと周ったことはまだ食事がおいしくなかったのだ。カンボジア料理はタイ料理と比較するとあまり洗練されていないと思う。すべてがまずいわけではないけれど、おいしい店とそうでない店の落差がありすぎて、ちょっときつかった。

 とはいえ、カンボジアにも見どころは少なくない。世界的に知られるのはやはりアンコールワットだ。そんなアンコールワットがあるのはシェムリアップという街で、首都プノンペンからはそこそこに遠い。そんなプノンペン-シェムリアップ間の移動は普通は国内線か、時間がある人ならバスを選ぶ。

 しかし、このふたつの場所を往来するのはなにも飛行機とバスだけではない。実は船でも行くことができる。2011年12月に乗ったことがあるのだが、カンボジアにあまりいい思い出がなかったにもかかわらず、この船旅だけは印象がよかった。

画像1

 この移動方法は結構貴重な体験だったと思う。というのは、まずチケットが高い。100人くらい乗れるそこそこに大きな船だが、ひとりあたり35米ドルはかかる。プノンペンとシェムリアップ間をバスで移動すると20ドルもかからないので、ほぼ倍だ。しかも所要時間もかなりかかるので、バスよりも利便性が低い。

 それから、1日に1便しかない。プノンペン発もたぶんそうで、シェムリアップ発は朝7時半ごろに出る便しかなく、それを逃したらもう乗れない。

 この地図で言うと、左上にトンレサップ湖があり、湖の南側に細い河が流れているのがわかる。これはトンレサップ河で、ここをさらに南下するとプノンペンに出る。

 この船は一応年間を通して乗ることができるそうだが、以前は乾季は利用できなかったはず。当時のガイドブックにはそうあったと記憶している。ボクが乗った12月もかなりギリギリの時期だったかと。このときは朝7時半ちょっと過ぎに出発して、13時半過ぎにプノンペンに到着した。大体6時間くらいだったので、それでも平均的な所要時間だったと言っていい。乾季は水深が浅くなるので、時間はもっとかかるらしい。

画像2

 船を正面から見るとこんな感じだ。シェムリアップの船着き場で撮影した。

 シェムリアップの市内からこの船着き場までも結構距離がある。しかし、チケットの35ドルにはホテルへの迎えと船着き場への送迎が含まれているので、朝7時くらいにホテルのロビーで待っていればバンが迎えに来てくれる。

画像3

 一応船内がこんな感じで、座席は結構しっかりしている。でも、ご覧のように誰も座っていないので、ガラガラだし、エアコンも効いていなかった。

 では、みんなどこにいるのか。

画像4

 みんなこうして甲板や屋根の上に座って、湖の風を感じながら船旅を楽しむ。特等席は船首だ。

 ところどころでトンレサップ河の水上集落を見かける。船と家を乗せた筏で暮らす人々だ。トンレサップは広大なので、同じ水域内における水上生活者の数は世界最大なのだとか。

画像5

 中にはこうしたレストランもある。座席数が多いが、集落だけでなく陸上の街からの客もいるのでしょう。ただ、トンレサップ湖はだだっ広いので、夜にここで食事をしてもなんにも見えないと思うが。

画像6

 こうして漁をしている人も見ることができる。聞いた話ではトンレサップ河は自然が豊かで、野生のワニも生息しているのだとか。

 上の画像は色合いがかなり悪いが、これは先ほどの船室のガラスを通しているためである。

画像7

 トンレサップ湖の中央辺りでは船も全速前進する。安全面に考慮していないので、転落したら人生も最後である。

 そして、この広さ。トンレサップ湖は乾季に水がかなり引いた状態でも琵琶湖の3倍の広さ、雨季の最も水が多いときで10倍の広さになるのだとか。こうなると風景はほぼ海である。

画像8

 トンレサップの湖畔や河の途中にある集落に船が停まる。これによって所要時間が6時間にもなるわけなのだが、街によっては物資の上げ下ろしもあって、この客船は重要な輸送機関にもなる。

 街によっては船着き場に着くし、このように渡し船が横づけすることもある。船が大きいのでそこそこに大きな桟橋がないと停泊できないので仕方がない。

画像9

 シェムリアップとプノンペンの中間辺りになると、川幅が狭くなる。こうなると高速航行はできないので、ゆっくりと進む。

画像12

 そうして約6時間ほどすると段々と川幅も広くなり、川岸の風景も都会的になってくる。建物や車の往来が多くなり、首都に到着する予感がしてくるのだ。

画像11

 こうして船はメコン河との合流地点よりやや北側の桟橋に到着する。当時は確かワットプノンの近くに船着き場があったはずだ。

画像12

 船着き場にはたくさんのトゥクトゥクの運転手が待ち構えている。基本的にはこの船は外国人が使うので、トゥクトゥクもボッタクリと心得ておくといい。

 そんな中でちゃんとしたトゥクトゥク運転手を見つける術がある。それは、降りた瞬間から話しかけてくる輩は相手にしないことだ。すると、ボッタクリ運転手はそんな旅行者を相手にせず、すぐに違うカモを狙い始める。そうしないと別の運転手に限りある客を奪われて、カモがいなくなるからだ。

 しかし、ここで離れていかない運転手がいる。こういうのは大体商売下手か、ボッタクリができない優しいヤツであることが多い。ボクはどこに行ってもこういった感じで見分けて利用し、宿に着くまでにいろいろと話してみて本当にいいヤツだったら、毎日来てもらって市内を案内をさせたりする。

 まあ、これで運転手全員がいなくなることもあるけれども。そういうときも心配はいらない。外にはいくらでもトゥクトゥクなどが走っているから、そっちで捕まえればいいだけの話である。

 船にWi-Fiはないし、乗ったら最後、プノンペンに到着するまですることもないし、なにかあっても誰にも連絡を取れない環境だった。東南アジアのとんでもない場所に6時間も拘束されるなんて、ある意味貴重な体験だった。事故などの危険性を考えると家族で乗るのは難しく、ひとり旅だったからこそできた体験だったなと振り返ってみれば思うのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?