タイの伝統料理「ナムプリック」は食べるラー油の原点?
タイ料理は日本だけでなく世界中に浸透している。20年前はどちらかというとマニアックな料理で、誰もパクチーなんて言葉を知らなかったし、クイッティアオもベトナムから輸入したフォーを代用しているケースも多かったのに、今やガパオだとかクイッティアオまでが定着しつつある。
世界的に見ても日本人の舌は特殊だと思う。これだけ多彩に他国の食文化を受け入れる国も珍しいのではないか。個人的な推測だが、和食は素材の味を重視するので味つけは薄め。だから、濃い味が多い外国の料理を受け入れやすい。逆に外国の人は他国の食文化に慣れるのに時間がかかるのではないか。
そんな豊かな舌を持った日本人の食生活の中でタイ料理が定着しているのにも関わらず、「ナムプリック」が定番化しないのが不思議で仕方がない。一時期食べるラー油が日本で流行したはずだが、まさにその原点といったものなので、日本人に好まれると思うのだが。
ナムプリックは日本の味噌汁と同じで、一言でこれとは言えないほどバリエーションがある。簡単に言えば、タイの味噌でもあるし、ディッピングソースでもあり、調味料でもある。さらにその中に味噌や食べるラー油のように水分が多いもの、ペースト状のもの、ふりかけのように乾燥しているものがある。
さらに、原材料も多種多様にある。肉類でできているものもあるし、魚介類を使っているものもある。目的や地域、店や家庭によって味が無数にあるのがナムプリックだ。
食べるラー油のようにタイ人はナムプリックだけを米に載せて食べるということはない。基本的には肉料理のディッピングソースにしたり、よく見るのは茹でた野菜をたくさんかごに載せ、ほかの料理と共にナムプリックをつけながら食べる。
東北部にもあるが、特に北部の種類は豊富なのだとか。中にはタガメで作ったナムプリックもあったりする。元々内陸の地域は魚よりも動物を食べることが多かった。そのため、肉の味つけだとか臭み消しにナムプリックが発達したとされる。
前述のように地域性もあって、南部ではナムプリックではなく、ナムチュップと呼ばれ、ガピ(小エビを発行させて作る調味料)などを入れるという。東北部はナンプラーやプラーラー(小魚を発行させて作る調味料)を使うのが特徴なのだとか。そして、北部のナムプリックは入れる材料に必ず火を通すらしい。
いずれにしても、野菜や肉を味つけなしに火を通したものにこのナムプリックをつければ、たちまち、最高のタイ家庭料理になる。
この記事を書くにあたり、ちょっと日本語で検索してみたら、ちゃんとウィキペディアにもナムプリックのページがあった。ただ、聞いたことがない話が書かれていて、今ボクは驚いている。
歴代のミス・タイは一番好きな食べ物としてナムプリックを挙げることが定法となっており、この定法を確立させたのは1965年にタイ初のミス・ユニバースに選ばれたアパサラー・ホンサクンである。
引用: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF
タイの何者かもやはりナムプリックを推し、世界に広めようとしていたわけか。しかし、そこまでしても広まらないナムプリックもまた逆にすごい。
本物のタイ料理研究家に言わせるとたぶんまったくの別物と言われるかもしれないが、ナムプリックのひとつにナムプリックパオというのもある。これは基本的にペースト状のもので、食べものにつけたりしない。
ナムプリックパオは日本のカレーでいえばルーにあたるし、味噌汁の味噌の使い方と同じでもある。つまり、スープ料理に使う。タイ料理のスープは多くがゲーンと呼ばれる。日本人に最も有名なグリーンカレーもタイ語ではゲーン・キヨウワーンだ。このグリーンカレーにもグリーンカレー用のペースト、つまりナムプリックパオが使われる。
トムヤムスープにも同様にトムヤム用のナムプリックパオが使われる。トムヤムクンなどのスープに赤いラー油のようなものが浮いているが、あれはナムプリックパオの油だ。
そういえば、生ガキを食べるとき、タイではシーフードソースを使うが、これをナムプリックパオにしてもらうとおいしい。今思いつく限りではナムプリックパオをそのまま口にする使い方の事例はこれだけかもしれない。
これは汁気の多いタイプのナムプリックだ。ナムプリック・グンシアップというのだけども、グンシアップというのはなんだろうか。小エビを串に刺す料理があるのだが、それなのかな。いずれにしても、このナムプリックは南部を中心に人気のあるタイプだ。
タイでは市場だとかにナムプリックの専門店がある。ビッグCなどの大型スーパーにもナムプリックやナムプリックパオだけを置く売り場があるので、既製品を買う場合はそういったところで購入する。この記事の上の方に専門店の画像をアップしているが、地方だとこんな感じで売っている。
これらは汁気の少ないタイプだ。画像はふりかけほどではないが、これ以上に乾燥しているタイプもある。ふりかけクラスはスーパーなどの既製品に多い気がする。
上の画像はメンダー、つまりタガメを使っているナムプリックのようだ。下の画像は先のグンシアップとショウガを使ったものだそうで。
ナムプリックで合っているのかどうかわからないが、この画像のナムプリックは湯がいた生野菜をつけて食べたりする、東北などで見るものだ。ベースはプラートゥーだったはず。プラートゥーはよくアジと訳されるが、タイ人が一般的に食べるのはサバの一種になる。ただ、日本人が食べるアジもプラートゥーの一種で、ちょっとややこしい。
ナムプリックは画像のように店で作った生のナムプリックもあるし、ビッグCなどには工場で量産したような既製品もある。やはり生で作ったものがおいしいし、一般家庭の自家製もかなりイケている。タイ人にはおふくろの味のひとつでもあるわけだ。
ホント、ナムプリックは日本でも流行っていいのではないかと思う。しかし、ナムプリックが初めて国外に輸出されたのは1974年なのだとか。ミス・タイランドがPRしているのに全然広まらないのは、海外ではナムプリックはウケないのでしょう。日本人なら好きな人が多いと思うけどな。
肉を焼いたり茹でたり、生野菜でも茹でた野菜でもなんだっていい。それにつけて食べるだけでたちまちタイ料理になるんだから、一般家庭でもウケる気がするんだけどなあ。
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