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タイには山もあることをお忘れなく【タイ第3の山チェンダオ山】

 タイの観光スポットというと海を思い浮かべる人が多いのではないか。パタヤやプーケット、サムイなど、世界的に知られたビーチリゾートもあるし、外国人も知らない砂浜も数多くある。海洋公園になっていて、国がしっかりと保護している場所も少なくないので、自然が豊かなのだ。

 しかし、タイの豊かな自然はなにも海だけとは限らない。場所は限られるが山もあるのだ。日本やベトナム、ラオスほどには山がないのだが、一方でタイ北部は山岳地帯になっているエリアが多い。タイの山の魅力は、タイの歴史を形成する民族移動の形跡などが垣間見られることだ。山岳少数民族が今も伝統的な生活をしていて、彼らの村を訪ねることもできる。

 もちろん山の自然にも魅力がある。たとえば今回クローズアップしたいチェンダオ山はタイで3番目に高い山であり、石灰でできた山なので世界的に見てもわりと珍しい種類に入るという。さらに、この山の近辺には固有種の動植物が多い。そのため、この地域は自然保護区になっているので、特別に許可を受けているガイドと一緒でなければ入ることができない。そんな山もタイにはあるのだ。

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 チェンダオはチェンマイ県の郡のひとつでもある。チェンマイ市内から北に向かい、車で1時間くらいのところにある。温泉があったり、洞窟のある寺院などもあって、これといって目立った観光地ではないが、静かでとてもいい場所だ。

 そんなチェンダオの街を見下ろすようにチェンダオ山が聳えている。タイの北部方言ではプーカオ(山)をドイという。チェンダオ山は北部ではドイ・チェンダオと呼ばれる。タイで3番目に高い山で、標高2225メートルになる。

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 自然が豊かで、固有種が多数生息する。有名なところではチェンダオのチョウが挙げられる(正確には中国の一部地域にいるらしいが)。ほかにも昆虫や動物、植物など、いろいろな生物が生息していて、バードウォッチングなどが好きな人にはたまらないところかもしれない。

 ボクは雑誌の取材で2011年12月頭にチェンダオ山に行った。すでに北部はバンコクと比べて気温が低く、山中はかなり寒かった。聞いたところでは、チェンダオの山の中は1月だと明け方に気温がマイナスになる場合もあるようで、タイも暑いだけではないということを教えてもらった。人が入れない場所には桜もあって、2月ごろに見ることができるのだとか(ただ、日本の桜とは種類が違うと思うが)。

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 ボクが取材したときのコースは2泊3日コースだった。ゆっくりとチェンダオ山に向かうコースで、途中で1泊し、チェンダオ山の手前で再度キャンプし、日の入りを山頂から眺め、日の出はまた違う山から眺める。チェンダオ山の東側に山があって、日の出が見えないためだ。日の出を見たら、数時間で一気に下山をするというコースだった。

 小学生のころ、青森の八甲田山近辺にある酸ヶ湯温泉でキャンプをしたことがある。旅館の向かいにキャンプ場があり、夏、そこで父とキャンプをしたときに眺めた星空に感動した。ボクは妻の田舎に行ってもそうなのだが、なんとかあのときの満点の星空の感動を味わいたいと空を見上げる。

 残念ながら街の明かりなのか、空気の状態なのか、タイでは見られない。このチェンダオ山のキャンプでなら見られるのではないかと思い、深夜、わざわざ目覚ましをかけて起き、テントを離れた。

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 すでにみんな寝静まっており、明かりもない。とはいえ、テントの上は木があるので、ボクはキャンプ地からひとり離れた場所に空を眺めに行った。しかし、いくら自然保護区とはいえチェンダオの街が近いからか、空は思ったよりも暗くなく、星空はきれいではあったが、満点ではなかった。

 仕方がなくボクはテントに戻り、再び寝袋にくるまって眠った。ただ寒くて寒くて、深く眠ることができない。うとうととしかけるとまた目が覚める。そのうち、なにかがボクの足にぶつかる気がした。テントの幕にボクの足が触れると、そこになにかがぶつかってくる。なんだろうか。懐かしい気がした。

 思い出したのは、小学生、あるいは中学生になったときにうちにネコが来たときのことだ。小学校低学年のころ、マンガの「ホワッツマイケル」が好きで、ネコを飼いたくて仕方がなかった。しかし、母が飼い出したのがだいぶ経ってからだった。子猫が来た日、なかなか懐いてくれなかったが、明け方、ボクの布団から飛び出た足に飛びかかってきていた。それに気がつき、嬉しく思った。テントでそんなことを思い出した。

 明け方、ガイドにその話をしたら、どうやらオオカミ(チェンダオ固有の野生の犬がいるらしいが定かではない)が我々のゴミを漁りに来ていたらしい。あの感触は気のせいではなく、オオカミがボクの足に食らいつこうとしていたのだ。ワシャ、豚足かっつうの。

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 翌朝、チェンダオ山に向かう。山の麓にテントを張り、日の入りに合わせてチェンダオ山に登った。

 チェンダオ山とその周辺は自然保護区とはいえ完全立ち入り禁止ではない。ガイドをつければトレッキングを楽しむことができる。そのため、ガイドたちは山開きになると植物にプレートをつけて説明文を置いたり、観光案内をする努力をしている。

 チェンダオ山の山頂にも看板が置いてあった。

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 山頂から日の入りを眺め、テントで夕食とガイドたちを歓談し、眠りにつく。翌朝、まだ暗い中を再び登山する。

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 タイは山がどこにでもあるわけではないので、雲海があるイメージがない。しかし、意外といろいろなところに雲海スポットがある。それもそれほど標高があるわけではないのに、だ。

 この日もチェンダオの街を雲が覆っていて、それが雲海となって我々の眼下にあった。

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 雲海と言っても、見える範囲一面というわけではなかったけれども。それでも十分に美しかった。しばらく座って眺めていた。

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 このチェンダオ山の登山コースは山に慣れた人ならここまで時間をかける必要はない。ガイドなんかは数時間で山を登り切り、走って下山するくらいだ。おそらく雨季は閉山していて、乾季になると開くのだが、その開いた直後にボクは行ったので、物資を走って運ぶ地元ガイドを何人も見かけた。

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 チェンマイ在住経験がある友人に聞いたところ、このチェンダオトレッキングコースはチェンマイ圏内のトレッキングコースの中では比較的ハードなのだとか。だから、2泊のコースなら何キロも痩せると言われた。

 しかし、自宅に戻って量ってみたら、減りもせず、増えもせず。ボクの身体にまとわりつく脂肪が鋼と呼ばれるようになった。

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