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結局のところタイに「鬼」はいるのかいないのか

 今現在は怪獣に熱が入っている息子は、以前はモンスターにハマり、怪獣とモンスターの間で一時期「鬼」に夢中だった。それまでボク自身もタイ語で鬼というのは「ヤック」だと思っていたのだが、調べるとなんだか違うような、合っているような・・・・・・。

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 一般的にはヤックを日本語訳するとき、多くの人が鬼とするだろう。ボクもそう思っていた。ヤックは日常生活のいろいろなところにも出てくる。通常とは違って、異様に大きいもの、強いものにヤックとつけられた。

 たとえると、丼をトゥアイというが、巨大なものだとトゥアイ・ヤックとか。2004年にプーケットを津波が襲ったとき、当時は津波という日本語が世界的に一般的ではなかった。プーケットの報道で津波が世界でも通じることになった。だから、タイはそもそも津波なんてない国だったので、波を意味するクルーンにヤックをつけた「クルーン・ヤック」と発生当初は呼ばれていた。

 あと、タコもそうだ。タコというのは日本や韓国、ギリシャ、あとベトナムなどの限られた地域でしか食べられないらしい。タイでも以前はタコは食べなかったので、タコ焼きが上陸したばかりのころはタコではなくイカを入れる店もときどき見られた。そのころのタコはイカと同類の扱いで、イカはプラームックなので、鬼のイカなのか大きいイカなのか、プラームック・ヤックがタコということになっていた。

 この使い方は日本の女子高生に通じるものがある。日本でも若い人がタイ人とまったく同じ意味合いで鬼を使うではないか。鬼すごいとか、タイ語でもヤックをつけると日本と同じような意味合い、用法になる。

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 日本で鬼といえば、赤鬼などの怪物、モンスターのような存在だ。中国では悪霊のような意味合いになるのだとか。要するに、伝説や昔話、怪談などに出てくるのが鬼で、そのあたりは日中で共通する。

 しかし、ヤック=鬼はタイにおいては仏教神話に出てくるものの、怪談には登場しない。ましてや、鬼の目撃談なんかもない。まあ、これは日本でもないか。だから、タイには日本的な鬼はおらず、同時に基本的には恐れられる存在というわけでもない。

 改めてヤックを調べてみると、本来は鬼ではなく「夜叉」を指すようだ。古代インド神話に出てくる護法善神の一種になる。サンスクリット語ではヤクサみたいに書くらしく、それがタイ語化してヤックになったというわけだ。

 夜叉は鬼神、という点では鬼とも言えるけれども、日本人が思い浮かべる鬼ではない。タイ人にとっても日本的な赤鬼だとかの存在ではないし、桃太郎のように退治する対象でもない。ところが、日本語と同様に、ヤックを鬼すごいなどのような感じでも使う。だから混乱してしまうのだ。

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 あるとき、ヤックにハマっていた息子に「ワット・ジェンに行きたい」と言われた。なんだそれ、と思ったら、暁の寺、ワット・アルンのことだった。

 大昔はワット・マゴークという名称だったが、その後ワット・アルン・ラーチャワラーラーム・ラーチャウォーラマハーウィハーンという正式名称が与えられた。しかし、こんなに長い名称は使えないということで、タイ人の中にはワット・アルンをワット・ジェンと呼ぶ人がいるのだ。

 ワット・アルンはアユタヤ王朝時代にはすでにあったとされるが、その後、ラマ2世が個人的に支援するまではあまり重要な拠点ではなかったようで。その後、ラマ3世の時代によく使われた手法で修復などが行われた。このときに用いられたのが陶器を使った装飾で、ワット・アルンは昔の遺跡や今の寺院とは違った雰囲気がある。

 そんなワット・アルンの敷地内に巨大なヤックがいることを知った息子が見に行きたいと言い出した。上の画像はそのときに撮ったものだ。スワナプーム国際空港にもヤックのオブジェがあるが、まあ同じくらいの大きさだろうか。

 ワット・アルンの敷地内にある廟の門前、左に緑色のヤック、右に白色のヤックが立っている。護法善神ということで、日本の寺院などに立つ仁王像とか金剛力士像と同じような存在なのでしょう。この点から見ても、タイ人の認識においてヤックが日本的な鬼とは違う存在ということがわかる。

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 ワット・アルンの対岸には涅槃像で有名なワット・ポーがある。このワット・ポーもまた名称が長い。ワット・プラチェートゥポンウィモンマンカラーラーム・ラーチャウォーラマハーウィハーンが正式名称だ。後半はワット・アルンと同じだ。

 この寺院は古式マッサージの学校が今でもあるなど、ラマ3世王の時代からはタイ初の大学と呼ばれた場所でもある。そして、この寺院もワット・アルンと同じように、陶器で装飾されるなど、ちょっと中国っぽいというか、タイらしさとは違う雰囲気の寺院になっている。

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 ワット・ポーといえば涅槃像で、正直言ってそれくらいしか思いつかないが、息子が言うには「ここにもヤックがいる」という。なんでそんなことを知っているかというと、タイのユーチューバーがこういうネタも紹介しているのだ。タイも結構ニッチなところを突いてくるユーチューバーがいるのである。

 ボクなんかは涅槃像しか知らないので、そこに連れて来たら、「違う、こっち」とスタスタと歩いていく息子。ユーチューバー、どんな紹介しているんだろうか。

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 すると、本当にヤックがあった。恐るべし、タイ人ユーチューバー。

 ちなみにタイでは小学校から仏教神話の授業があり、タイ人は大なり小なり、仏教の知識が身についていることが基本になる。息子がヤックをモンスター的に捉えているのは、たぶん何十年も前のタイのヒーロー番組から来ているのかもしれない。そのころに猿の化身であるハヌマーンがウルトラマンだか仮面ライダーのような感じで活躍するシリーズがあるので、それを見て連想したのではないか。

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 ワット・ポーは今、国籍問わず、入場無料になっているとか。去年行ったときは外国人は有料だった。ワット・アルンもそうだ。ただ、ボクの場合はタイ人家族と行ったので無料となった。タイの免許証を見せると住んでいるということ、タイ人を養っているという判断で無料になったようだ。今がこの辺りの寺院に行くチャンス、って思うけども、そもそも日本からだとタイに行くのが大変だな。

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