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企業公式SNSの「自我」

Twitterが日本人にかなり浸透してきた2010年代頃、企業公式SNSの「中の人」が前に出てくることを良しとしていた風潮があった。

その風潮自体は、Twitterの日本人ユーザーが増えてきた2010年頃にはあった。当時の文化として、Twitterはアーリーアダプターの有名人や技術者が多く使っていたし、ドラマ「SP」の映画広報もうまく使っていて、「中の人」に近付けるということにメリットを感じる人が多かったというのはある。

一番注目されたのは、SHARPがリストラの嵐になった頃、SHARPのアカウントがぽつりとその情景を漏らした時だろうか。この頃には多くの企業アカウントが「自我」を持ち始めていた。有名なところではセガ、キングジム、パイン(パインアメの会社)、あたりだろうか。
また、普段は真面目ながら年に一度関ヶ原まで車を配車するMKタクシーのようなアカウントもある。(これに関しては会社ぐるみでやっているようなので、統制はとれているようだ。)

翻って、2024年現在のXである。
SNSの種類が増えた結果、Xのアカウントにはあまり「自我」が求められなくなった。
ただでさえ相互フォローする友達のアカウントが増えたうえ、動画というより強い「自我」をみせられるツールが気軽に受信/ 発信できるようになったことで、企業のアカウントに対しては「手っ取り早く自分の好みそうなものを紹介して欲しい」という要望が強くなってきた。

インフルエンサーは顔がみえるけれど、企業公式アカウントは複数人いたら同じアカウントなのに「○号」とつくため、人間関係がわかりにくくもなる。TikTokやインスタ、Vtuberの動画を観ていて忙しいの人にとって、企業アカウントの中の人の話に大きなコストはかけられない。
もうフォーマットが古いのだろう。

現在の企業アカウントに求められる親しみやすさとは
「寒い季節になってきましたね。風邪をひかないようご注意ください。さて、弊社ではこんなポカポカになる商品を用意しています。詳しくは(URL)」
程度であり、「1号は週末に温泉に行ってきました」でも「皆さんの防寒はどうしていますか(ネタまみれの4択)」でもなくなっている。

「インターネット老人会」といわれる年代をWindows95、98頃、もしくはOS X初期あたりにインターネットを始めた世代とするなら、自我を持つ企業SNSアカウントはさしずめ「インターネット中年会」だろうか。

人は歳をとれば、相応の言動に変わっていく。
中の人はSNSアカウントを担当し始めた時点では若くとも、交代しない限りやがて歳を重ねて中年になる。ガワには変化がなくとも、リアル社会では年齢にふさわしい言動に変わるので、企業SNSアカウントも自然と「中の人」がおっさん・おばさんに変化する。

中年の何が怖いかって、10年前を「この間」だと思いがちなところであり、自分がさも先端的な広報だと思っていたら既に古かった、ということにもなり得る。

インターネットの時代の変化は早い。広報などはよりその先端にいるべきであって、10年前の「先端」から動かなければ「中年」扱いされても仕方がない。
しかも中の人が交代せず本当に「中年」となっていたら、特に若者向けの商品を扱っているほど若者からは「おっさん・おばさんに親しみなんか持てるか」という話になりかねない。

広報部門は商品開発そのものをしているわけではない。開発された商品を心地よく買ってもらうのが仕事だ。
仕事のやり方が古いな、と思ったら変えるべきだし、客の購買意欲が高まっているなら続けても良い。それを判断するのも広報の仕事となる。

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