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アイドルから何を学ぶか。

〇 アイドルってこんな感じ

10/29まで六本木ミュージアムで開催中の櫻坂46展「新せ界」に行ってきた。

この展示会の大きな特徴は、櫻坂46の楽曲や活動の裏側を、アーティスティックな観点から切り取っていることである。 

アイドル好きであれば分かるだろうが、楽曲や出演番組ごとに衣装を新調することは当たり前であり、楽曲ごとにアートディレクターやMV制作陣は大きく変わる。特に秋元康グループでは、楽曲ごとに作曲家は入れ替わりMV監督も変わる。

それはなぜかというと、各楽曲がもつ世界観が大きく異なるためだ。激しいダンスミュージックの時もあるし、ディスコ調の時もある。大きな軸はおそらく変わりはしないが、コンセプトもそれぞれ変わるため、それに応じてファンの入れ替わりも発生する。

例えば、乃木坂46も欅坂46も4枚目シングルで大きく方向性を変えている。乃木坂は「制服のマネキン」で、それまでのよくあるかわいいアイドル像から、「反アイドル」という欅坂の源流ともいえるような世界観にガラリとチェンジした。欅坂は「不協和音」を機に、一気に「革命」という激しい方向に突っ走った。これはその後の欅坂の運命を左右する、大きな出来事だったと思う。

しかし、ファンはその裏側を詳しく知ることは出来ない。コロコロと変わる衣装を間近で見ることは当然出来ないし、MVやCDジャケットに込められた意味や、構成、構図などの細かな部分は普段は隠されている。

しかし、展示会は別である。
その裏側が(見せられる範囲で)、明かされている。

そのため、こういった展示会はまたとない貴重な機会なのである。



〇 アイドルの醍醐味

僕のアイドル好きは、高校2年生の冬に、友達から乃木坂を紹介されたことに始まる。その時は、橋本奈々未の卒業と、乃木坂の名が一気に世に知れ渡った代表曲「インフルエンサー」のリリースの間だったため、今ほど乃木坂ファンは多くなかったように思う。

それまで僕はアイドルなんて、微塵も関心がなかった。好きになるわけがないと思っていた。しかし、知れば知るほど面白い存在だと思った。かわいい女の子が30人ほどの大所帯となって、ファンからの人気やそれとは関係ない大人(運営する人たち)の勝手な都合により、選抜・アンダーという目に見える形でランク分けされ、きゃぴきゃぴ踊っている。歌が上手いかと言われるとそうでもないし、ダンスも別にそうでもない。ただ、何か惹かれる。そんな感じだった。


こんな感じで調べれば調べるほど興味が湧いてきて、すっかりハマってしまった。(僕は大原櫻子を紹介したのだが空振りであった)そこからは乃木坂だけに留まらず、欅坂、けやき坂(かつて欅坂の妹分的な立ち位置)、日向坂と秋元康グループの虜になってしまった。

アイドルのメンバーの誰々が好き、というのは正直別にどうでもいい。アイドルという存在は、色々なことに通ずると思っているからだ。

まずは、人のマネジメント
あれだけの大人数をどうやってまとめているのだろうか。既にあるグループの方向性に向かって、一人一人のモチベーションを保ちつつ、それぞれのやりたいことも叶えてもらいつつ、どうやって一丸となっているのだろうか。

そして、世界観の作り方
各グループによって創り出す世界観は大きく異なる。それは、もとからあった戦略に沿う場合もあるだろうし、メンバーのパーソナリティを加味した見せ方もあるだろう。例えば、乃木坂で活躍した西野七瀬は乃木坂史上最も多くのソロ曲を歌っている。これは、西野七瀬が醸し出す「儚さ」に拠るところが大きいだろう。実際、彼女が初センターを務めた8枚目シングル「気づいたら片想い」以降、乃木坂のイメージには儚さがつくようになった。

それに、お金の稼ぎ方
アイドルビジネスは、ファンに夢や希望を売る仕事である。この部分からみると、ディズニーやUSJなどのアミューズメント施設と性格は全く変わらない。このような性格をもつビジネスは、ファンという人の心を如何に掴んで離さないか、という点が重要だ。これは、ビジネス以外にも対人関係においても同じことがいえる。

つまり、アイドルとは「人」が基軸なのだ。


〇 櫻坂46という稀有なアイドル

さて、今回のメインである「櫻坂46」というアイドルグループであるが、このグループはかなり稀有な存在である。

前身は「欅坂46」であり、2020年に改名を行い、いまの体制となった。それまでに至る経緯には、色々なことがあった。

簡単に説明すると、全作品のセンターを務めていた平手友梨奈という当時20歳にも満たない少女の動向にかなり左右されてしまった、ということができる。(ここから先は、彼女のことを悪くいうつもりは100%ない。むしろ僕は、画面を通して見る彼女のことが好きだしリスペクトしている)

彼女は活動が進むにつれ、次第にグループ内で圧倒的な存在になっていき、ファンもそれを支えて助長する構造になり、良くも悪くも「神」のような存在になってしまった。

なぜそうなったのか、というと彼女のパフォーマンスと欅坂のコンセプトである「反抗」や「革命」との相性が良すぎたためだ。

どう凄かったかは、LIVE映像などを見ていただきたいのだが、本当にすごい。アマプラではこちらのドキュメンタリー映画を観れるので興味のある方はぜひご覧いただきたい。「こんなとこ映していいの?」という部分まで赤裸々に描かれており、当時の僕は観終わったあと暫く元気が出なかった。それくらいの衝撃作である。


櫻坂46に課された宿命

さて、櫻坂46というグループは、欅坂時代の歴史も背負った上で活動している。そのため、改名したからといってそれまでのグループへのイメージがガラリと変わるかというとそうでもない。なぜなら、メンバーはほとんど同じだったためだ。

そして、最も重要な部分は、「ファンが求めてきたこととのズレ」である。

欅坂のファンは、もちろんメンバーが好きなどの動機はあっただろうが、楽曲に対する愛着も相当にあったと思う。「不協和音」や「ガラスを割れ!」、「黒い羊」などのかなり刺激的な曲を始め、ユニットによるかわいい感じの曲など、欅坂にしか出せない世界観がそこには確かに存在していた。

だから、改名したあとの方がよっぽど大変だ。名前が変わるからといって、ファンが一新される訳では無い。それまでの「欅坂ファン」が求めていたことを蔑ろにせずに考える必要があるし、がらりと方向性が変わってしまうかもしれないメンバーの想いもある。

改名当時、欅坂には1期生と2期生がいた。1期生は始めから活動しているが、2期生の多くは「欅坂が好きだから加入した」と考えていいだろう。だから2期生にとっては、「欅坂の世界観や楽曲が好きだからオーディションを受けて加入したのに、名前変わるの?これから私たちはどうなっちゃうの」という状態だったと想像出来る。


なんちゅーこっちゃ。


そんなこんなで、不安を抱えるファンが多い中、櫻坂46が出した1枚目のシングルは「Nobuddies Fault」。和訳すると、「誰のせいでもない」。

欅坂がなくなったのは誰のせいでもない。誰も悪くない。私たちは、これから新たな道を歩んでいく、という新たな強い決意を感じる、素晴らしい楽曲だったと思う。

ここから、櫻坂は「櫻坂らしさ」をファンとともに作っていくことになる。櫻坂のファンは「Buddies」と言われており、仲間という意味が込められている。

あんな大変なことがあったのに変わらず応援してくれてありがとう。これからは、Buddies含めてみんなで櫻坂を作っていきたい、みたいな想いが込められているのだろうと妄想する。


そんなこんなで櫻坂は再スタートをきった。

楽曲のセンターは、欅坂2期生である森田ひかる・山崎天・藤吉夏鈴の3名を柱に、田村保乃・守屋麗奈の5名で代わる代わる担当することで、欅坂時代のように誰かに依存しない体制に一新された。このミソは、センターがみな2期生である点と、センターを連続して担当しない点だろう。

今でも欅坂1期生は4名在籍しているが、一度もセンターを経験したことは無い。2期生がセンターを担当することで、1期生は彼女たちをサポートする側にまわり、メンバー一人一人の個性がきちんと表に出るようなグループへと変態を遂げていった。

ただ、ゆっくりであった。
櫻坂はだんだんと「らしさ」を醸し出していったのだろう。

そこに登場したのが、6枚目シングル「Start Over!」であった。


〇 展示会でしか知り得ない、「Start over! 」に隠された意図を見る

ここまで、櫻坂の歴史を振り返った。
櫻坂に関して、6枚目シングル「Start over!」抜きに語ることは出来ない。

start overとは、「やり直す」という意味であり、まさに櫻坂の大きな決意を感じる。

ここからは、展示会で購入可能な図録にも掲載されていない(おそらく出版スケジュールの関係。僕は買ってしまいました)、「Start over! 」に込められた意図などを見ることで、櫻坂をより深く知ってほしい。そして、考え方や価値観などを、様々なことに転用してほしい。


https://sakurazaka-shinsekai.com/goods/


展示会では様々なものを観てきたが、この「Start over! 」に関する展示物は群を抜いていた。

特に、MVに込められた思いだ。それは、監督の加藤ヒデジンさんの意向や、振付師TAKAHIROさんだけでなく、MVに参加したメンバーの強い想いが乗っかっているためだろう。

「Start over! 」は、櫻坂自体の存在価値を定義し直すような楽曲であると言っても過言では無い。なぜなら、今作までは「櫻坂46をどう見せるか」に焦点を当てていたのが、今作を機に「櫻坂46が日本をどう見せるか」という、日本を代表する存在への昇華を予め意図した上で、楽曲制作を行っているからだ。

つまり、櫻坂はこの楽曲をきっかけにやり直し、日本を代表するという決意表明の上で、シングル活動を行ったということだ。

そして、この大きな目標を達成するために、今作の主なコンセプトは、「Reframe」に設定された。

フレームを作り直す、ということは破壊と再構築を試みる。そして、reには繰り返すという意味もあるため、破壊と創造をこれからも繰り返し行っていくということだろう。

この世の万物は、破壊と創造が繰り返されて発展してきた。


このようなコンセプトや世界観を直感的に表現するツールとして、MVは最も重要な要素である。MVはまさに総合芸術だ。音楽、演技、ストーリー構成など、様々な要素によって構成される。

「Start over!」における主人公(センター)は藤吉夏鈴。MVでは、彼女の天真爛漫さが際立っている。なぜなら彼女が自由の象徴として描かれているからである。

MVに出てくる彼女以外のメンバーは全員、ネット監視社会における「警察」として存在している。何か悪いことをするとネット警察にあーだこーだ言われ、社会的に良いことをしても重箱の隅をつつくようなクソ警察の隠喩として、メンバーはそこに存在している。

しかし、彼女はそんなことは露知らず、オフィスの中で満面の笑みで暴れ回る。それは、現代社会に対する「反抗 」である。

MVのコンセプトは、「いいよ弾けちゃって」である。まさにそれを体現するかのような映像なのだ。

〇 Start over!を通して、欅坂と櫻坂は繋がった

さて、ここで欅坂46との関連性について述べたい。このStart Overという楽曲は、欅坂46を想起させる箇所が多い。

今作までの櫻坂46の楽曲は、サークルを組んだコンテンポラリーダンスだったり、「五月雨よ」に代表されるように優しめの曲も多かった。

対して、櫻坂の祖である欅坂は、「反抗」や「革命」をテーゼとして活動し、かなり刺激的な楽曲や演出が多かった。そのため、当時のアイドルシーンを席巻した。

しかし、欅坂から櫻坂に代わったとき、どういったコンセプトでいくかという部分に、恐らく運営会社「Seed&Flower合同会社」は頭を悩ませたに違いない。

欅坂のコンセプトは素晴らしかった。寧ろ、ハマりすぎていた、という表現が正しいだろう。しかし、それは、全作品のセンターを務めた平手友梨奈に依存する形であったため、彼女の脱退とともに欅坂はガタガタと崩れてしまっていった。

そこにコロナも重なりアイドル活動が出来なくなった欅坂は、既に確認したように櫻坂に改名することで、生まれ変わった。

「Start over!」が欅坂を意識した上で作られた証拠が、CDジャケットにある。

ジャケットは渋谷で撮影されている。渋谷といえば欅坂、欅坂といえば渋谷だ。

欅坂を一躍トップアイドルに押し上げた代表曲である1stシングル「サイレントマジョリティー」のジャケットも同じく渋谷で撮影されている。また、ユニット曲であるが「渋谷川」という曲もあり、欅坂は渋谷と繋がりが深い。

start overにはやり直すという大きな意味があるが、おそらく「原点回帰」という意味も含まれているかとも思う。

また、欅坂と櫻坂の大きな相違点として、欅坂は「現代社会における代弁者」であり、櫻坂は「現代社会における忠告者」であると考えている。各シングルの歌詞を見てみよう。

欅坂からは、「不協和音」

基本的に、欅坂の楽曲における主人公は「僕」である。これは、現代社会の様々な抑圧に対する反抗が見て取れる。


対して、櫻坂からは「流れ弾」

SNSを中心としたネット監視社会を揶揄するような、歌詞の内容である。
ここに、現代社会で抑圧され続けてきた「僕」は存在しない。

ただ、両グループとも、現代社会に生きる若者をメインの対象にしていることは間違いない。この層がファンの多くを占めており、ファン達は「自己投影」しているのだと考えられる。


〇 まとめ

改名したことで、欅坂はリセットしたかのように見えたが、この楽曲において両者はまた新たな形で混じり合うこととなった。

何かを瞬時に大きく変えることは難しい。
だが、ゆっくりでもいいから変わろうと努力し、どこかで覚悟や決意をもつことができれば、人も、グループも変わることができる

欅坂、櫻坂、ひいてはアイドルから、そんなことを学べる。

欅坂での5年、櫻坂になってからの3年。それぞれが積み重ねたものが混ざり合うことによって、新たなり魅力を兼ね備えたグループとして、今日もファンのみんなに夢や希望を与えている。


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