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サラリと父にカミングアウト。


大晦日に父に自分のセクシャリティをカミングアウトをした。高校時代にも話題に上がったことがあったが、どこの大学に願書を出すんだーだったり、このままで受験に間に合わないんじゃないかーと、受験の話をしているうちに有耶無耶になった。両親の関心は自分がゲイかどうかよりも、卒業後の進路に向いていた。いや、もしかしたら、直視したくない息子の現実を、進路という課題で誤魔化していたのかもしれない。その後無事に進路は決まった。

うちの両親は子どもたちのライフイベントにほとんど干渉してこない。高校時代にセクシャリティの話題が有耶無耶になって以降、彼女や結婚について聞かれることは無かった。姉は結婚して6年近くたち今も夫婦二人でよろしく過ごしているが、孫はまだかと催促されている様子もない。両親は内心色々思うことはあるのかもしれないが、自分たちに押し付けないよう配慮しているのだろう。

学生時代から、年末にかけてのクリスマスや年越しは友達と過ごすことが通例になっていた。気ままなフリーなメンバー同士で集まり、ケーキやチキンでテーブルを埋め尽くし、恋愛至上主義に異を唱えながら酒を飲んだ。その様子を両親にもLINEで報告していたので、この時期自分が友達と過ごしていることは両親も知っていた。

ところがひょんなことから最近彼氏ができて、生まれて初めて恋人と過ごすクリスマスってのを経験した。イブの日、父からは母と仲睦まじく地元の有名店の唐揚げを食べている報告と共に、「今年もいつもの友達とか?」と確認LINEが来た。まともに取り合わず流してもよかったのだが、初めて経験している彼氏とのクリスマスを、両親への建前ではあっても友達とのクリスマスと表現したくなかった。悩んだ末に「付き合ってる人と過ごしてるよ」と送ると、ちょっとした間を置いたのち「楽しそうだな」と返事が来た。こういう時父は詮索してこないし、多くのことを語らない。きっと母とあれこれ会話が膨らんでいるんだろうなぁと想像しながら、サンタが乗ったクリスマスケーキを食べた。

大晦日の晩にも父から報告確認LINEが来た。実家では両親と祖母が紅白を見ていたらしく、自分は彼氏と一緒に食べている鍋の写真を送った。クリスマスを恋人と過ごしていると送ったので父も察したのだろう。返信は「彼女とか?」だった。迷う。これは迷う。親とこの手の話題はほとんど交わしてこなかったので、息子からの初めての交際報告にきっと父も興味があったのだと思う。興味と共に、かつて進路の話題で有耶無耶にしてしまった息子のセクシャリティが、異性愛者であってほしいという淡い期待のようなものを感じた。

返信の色々なパターンを考えたが、やはり建前で自分の彼氏を別な存在にすることは嫌で、交際相手が男性であることを正直に伝えた。既読がついてから父からの返事が来るまでそこまでタイムラグは無かったが、永遠に感じた。父は相変わらず多くを詮索することはなく、「おー、了解」と一言だけきた。きっとこの一言を送るまでに色々な感情や言葉が駆け巡ったんだと思う。父がどんな感情や言葉を飲み込んだのかはわからないが、否定はせず、過剰に詮索せず、些細な日常の断片のようにサラリと受け止めるのは父なりの誠意なのだろう。その後特に父から彼氏について聞かれることはなく、いつも通りの日常会話が続いている。父が飲み込んだものを改めて聞く勇気はまだないが、その時が来たらきっとまた自分は恋人を建前で上塗りせずに事実を話すのだろう。

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