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愛するわが子に、つい手をあげてしまった、あの日の僕に読ませたい本

せっかく家族と生活しているのに、険悪な雰囲気になることが多々あります。子どもやパートナーが、何かのせいでイライラしていたり、トゲトゲしたりしていて、それに反応して自分もつい怒鳴ってしまって、あとから後悔することありますよね。家族で和やかに笑っていたいと思っていても、なぜかそうならない。私もよくあります。私は娘二人の父親で、妻と四人で暮らしていますが、家族じゅうで喧嘩してしまうことはしょっちゅう。それで休日が台無しになることも。そんなとき、どうすればいいのでしょうか。

私は、NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)というコミュニケーション方法に出会いました。共感や思いやりのコミュニケーションと言われたりもします。この度、NVCのことをとても分かりやすく解説した『「わかりあえない」を越える』(著:マーシャル・B・ローゼンバーグ/海士の風/2021年)という本が出版されました。この本をもとに、NVCについて紹介したいと思います。その前に私の経験からお話しさせてください。

つい手をあげてしまった…

とある平日の朝。妻の仕事は早く、バタバタと出かけていきました。残ったのは小学生と保育園児の娘二人と私。娘たちの機嫌はよくありません。朝食で好物の卵焼きをわけていて、残りは少し。二人とも食べたがるなか、私がひいきをして下の子に多めにとりわけました。下の子はペロっと完食。カッとなったのは上の子です。お箸を握りしめて立ちあがり、制止しても大きな声で怒りはおさまりません。止めに入る私。「やめて」「待って」と何度くり返しても止まりません。小柄な体を両手でつかみ、頭に血がのぼってしまった私。次の瞬間…。
学校を休むほどの大怪我をさせてしまいました。その後、怪我は治りましたが、私と娘、二人の心に大きな傷痕が残ったことは言うまでもありません。

今でこそ、自分の行動をふりかえることができます。自分にも非があったのに「この子はいつも下の子に優しくない」と決めつけ、「親の言うことが聞けない」と診断し、ほんの一瞬のうちに「そういう子には痛い目を」と懲罰的な考えが頭を支配し、実際に暴力をふるってしまったのでした。

NVCでは4つのステップを踏む

こんなときNVCではどのようなアプローチをとるのでしょうか。本書では、4つのステップを踏むことが紹介されています。

まず観察です。一切の評価を交えずに、ただ事実を捉えます。著者はこう言います。

「わたしは、相手の行動の何が気に入らないのかを伝えたいなら、こういった決めつけを入り込ませないようにしたいと考えています。決めつけを挟まずに、その人の行動そのものを直接伝えられるようにしたいのです。」(p.50)

行動を観察したら次は「感情」です。相手のふるまいを見たとき、自分の内側にどんな感情が沸き起こっているかに気づくようにします。ただ、少し難しいと思います。著者もこう述べています。

「残念ながら、多くの人は感情表現の語彙が豊かではありません。そして、そうした語彙不足の代償を、わたしはたびたび目の当たりにしてきました。」(p.58)

感情を表現できたら次は「ニーズ」を明らかにします。ニーズについて著者は次のように語っています。

「すべての人にとって普遍的な価値、大切なこと、必要とすること、欲求。特定の人々、時代、行為、物とは関連しない。」(p.61)

基本的なニーズはすべての人に共通していて、ニーズに共鳴すると、人と人は深いところでつながれるのだそうです。

「わたしは長年にわたって紛争解決やミディエーション(調停・仲裁)の仕事に取り組んできました。人々がお互いを診断し合う状況を乗り越えて、ニーズのレベルで互いの内面につながるような支援ができたとき、いつも驚くべき変化が起こるのです。それが始まれば、対立はほとんど自ずから解決するかのように動き出すのです。」(p.63)

ここまでが「自分の内面で何が息づいているか」を表現する3つのステップでした。最後の4つめのステップは「リクエスト」です。

「NVCでは、『行動を促す肯定形の言葉』でリクエストすることを提案します。つまり、相手に伝える際は、『してほしくないこと』『するのをやめてほしいこと』ではなくて、『してほしいこと』として肯定形の言葉を使う、という意味です。」(p.68)

NVCを学んでいたら、何ができたか

さきほどの私の経験に戻り、NVCを学んだ今の私なら、どう捉え、どう対応したでしょうか。

まず何より反射的に反応せずグッとこらえるのが第一歩。そのうえで「上の子が下の子に向かってお箸を振り回している」「何度言っても止まらない」などを観察したと思います。そして自分の中の「怖い」「心配」「困惑」という感情と、「危ないものから守りたい」「話を聞きたい」「親密でありたい」というニーズをことばにできたかもしれません。そしてリクエストとしては、グッとこらえながら、「嫌なことがあるならお父さんに話してほしい」「うまく言えないなら時間がかかっても待つよ」と言えればよかったのではないかと思います。

NVCを少しずつ実践することで、自分の言動も、家族との関係も少しずつ良くなっている実感があります。

大切なことは、ことばにすること

大切なことは、ことばにすることだと思います。自分の内面を見つめるときも相手に働きかけるときも、ことばの選び方次第です。とはいえ、難しいとも感じます。私たちは長い間、自分の内面をことばにするような教育を受けていません。反射的に懲罰や報酬が出てきてしまいますし、周りに迷惑をかけないことがよいこととされ、自分や相手の内面の声に、ことばを与えてきませんでした。それが長い間の癖のように沁みついています。でもだからこそ、ことばの選び方として、NVCを学び、身につける価値があると思います。

だからぜひ、この本を読んでもらいたいと思います。相手の言動を受けて、自分のなかの何かが反応して、思いがけず不本意なことをしてしまったことのある人に。子どもやパートナーを傷つけるようなことをしてしまったことのある人に。本当のところ、愛するわが子を傷つけてしまった、あの日の僕に読ませたいと、心から思える本です。

※引用文および頁数は限定サンプル本を元にしており、実際に刊行される書籍とは異なる場合があります。

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