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金沢ガイド決定版、あるいは緊急事態宣言の向こう側。

金沢との出会い


金沢という街が好きだ。思えば10年前、博報堂時代に、後に師匠と呼ぶことになる先輩に初めて連れていっていただいて以来、もうずっと毎年一月と、秋に必ず二回は通っている。師匠にご紹介をいただいたおかげで、主計町は仲乃家の桃太郎さんにお世話になっている。分かる人にはわかる。羨ましいだろう?名前を覚えていただくのに7年かかったけど。いい顔になるには時間がかかるのだ。

そして、今回ご縁があって、金沢市による金沢 NEW WORK CITY 協会に弊社The Breakthrough Company GOも参加させていただいて、市長と対談する機会までいただいた。金沢好きとしてこれほど光栄なことはないし、ただでさえ、GOとしては日本の地域を、その地域らしさを活かして元気にする仕事をしていきたいと考えている。一肌でも二肌でも脱ぎますよ。

そんな金沢好きな三浦が、金沢の好きなところをいくつかまとめてご紹介する。緊急事態宣言が明けて、みんな旅の欲求が抑えられなくなっている頃だろう。金沢を訪れていい思い出、いい出会い、いいきっかけをつくれるように。好きな街を、あなたにも好きになってもらいたい。途中珍しく食レポコーナーもある。スッキリで全くうまく食レポできていないけど、汚名返上したい。

歴史とアートの街 金沢

金沢は、江戸時代に加賀百万石と呼ばれた時代から豊かな資産や地域の力を、伝統工芸やアートに投資し続けた土地で、ある意味では世界的に増えつつあるアートシティの先駆けとも言える。

三次元なのに鮮やかな四次元を感じられる九谷焼の名人徳田八十吉(四代目はなんと女性)や、少し離れるが、現実世界ではありえないとされる数学的直線の美しさや、人体の曲線美を感じさせる輪島の漆塗りキリモトなど、実用性と芸術性を兼ね備えた日本の工芸美の極致がここにある。

また、金沢を代表する日本酒メーカー福光屋は1625年創業(徳川家光の御世!!)という歴史を重ねる中で、加賀鳶のような北陸を代表する名酒を中心に手がけながらも、酒粕を利用した化粧品や健康食品に手を伸ばし、伝統を守ることは変わらないことではなく、むしろ変わり続けることなのだと教えてくれる。金沢市内の本店には一度足を運んでみるといい。専務の福光太一郎さんは、ぼくにとって金沢の兄のような存在だ。

有名な21世紀美術館は街に開かれた美術館として設計された。現代アートは単なる知的ゲームではなく、日常を鮮やかにしてくれるものと言える。そんなことを再認識するきっかけになる場所だ。妹島和世と西沢立衛による空間は美術館というより公園のように金沢の町に調和しつつ、宇宙船のような独特の浮遊感を作り出していて素晴らしい。作品でいえば、レアンドロのプールが有名だが、ジェームズタレルの部屋も素晴らしい。単なる美しい作品ではなく、作品を通して日常や世界と触れる感覚を変えてくれるような作品だ。ちなみにぼくがいちばん好きな作品はヤンファーブルの『雲を測る男』だ。あんな風に、はるかに巨大なものと向き合って生きていきたい。

アートの視点で見るのならば、鈴木大拙館は金沢の魅力を凝縮したような場所だ。哲学者であり禅僧でもあった男の人生や思想を体験し、自身の人生について思索するためにつくられたこの空間は、外の世界とは時間の流れ方が違うような気がする。谷口吉生により手がけられた建築空間に一歩足を踏み入れるだけで、座禅を組んでいるような集中と内省、そして精神が研磨されていくような感じを受ける。

何より、金沢といえば、ぼくの世代、30代のかつてのジャンプ少年ならば誰もが一度は憧れた傾奇者前田慶次郎の出身がこの土地だ。お松さんの件で飛び出したあのシーンだ。それを知ってから金沢の中でも、江戸時代の情緒を残す主計町や、木虫籠の金沢町屋が軒を連ねる街なみを歩いていると、それだけで『無法、天に通ず』とか言って世の中に信念を貫き通せるような気がしてくるが、それは勘違いだ。気をつけろよ。信念を貫くのに必要なのはいつだって自分自身の覚悟だよな。難しい。だが、それがいい。

鮨とグルメの街 金沢

金沢といえば鮨だ。和食だ。海鮮だ。あまりにも好きな店が多いので、もちろん全部は書ききれないが、できる限り紹介したい。まずはお寿司から。

小松弥助はもはやぼくなんかが語るまでもない、圧倒的な存在だ。東の次郎、西の弥助と言われるが、こちらの大将は御年92歳を超えてなおも若手を引き連れて板場に立つ。人柄も豪快で、その姿はワンピースの白ひげを彷彿とさせる。ボッテガヴェネタのイントレチャートのような細切りを編み込んだ烏賊、海鼠腸を調味料のように使う鮪など手間暇惜しまない最高峰の握りの技術、なかなか予約を取るのは難しいが、もし味わえるなら、鮨の人間国宝のエンターテイメントショーを楽しんでほしい。ちなみに親方はギャンブル大好きで、オフはマルジェラを着こなす男前。写真にも気さくに応じてくれるので、弥助ポーズは予習しておかなくちゃ。
また、弟子のお店、志の助ももちろん弥助さんの技術と魂を継承しつつ、アップデートを重ねているので、行ってみて欲しいお店の一つ。

また、金沢の鮨を語るなら太平寿司を忘れてはいけない。名物だった粋でお洒落な親方の後を継ぐ三代目が店を背負う。ノドグロの蒸し寿司は、ぼくが人生で最後に食べたいものの一つだ。後に全国に広がるが、発祥はこの店だよ。他にも卵をシャリに混ぜて握るボタンエビや、蟹の小丼など、オリジナリティあふれる一貫ずつが手の込んだ料理のようなお寿司がいただける。

また、今は亡き太平鮨の大将のオリジナリティあふれる哲学や技術は多くの店に受け継がれている。はちやあいじなど、どちらも、金沢のお魚をオリジナリティあふれる味わいでお料理してくださるので、巡ってみるのも面白いだろう。

さらに正統派でなにを食べてもハッキリと美味しい乙女寿司や、江戸前の繊細な味わいで北陸の新鮮な魚と向き合うみつ川も素晴らしい。どこも誠実さを感じる仕事ぶりだ。同じようなネタ、同じような料理に見えるが、すべて全く違う、鮨という料理ジャンルの奥行きを学ぶのに金沢はいちばんいい土地なのかもしれない。

和食も美味しいお店がたくさんある。まだまだたくさん行きたい店があるが全然行けてない。金沢は奥が深い。深すぎる。日本料理の最高峰ともいわれる片折に未だ行ったことがないにもかかわらず、こんな文章を書いていることに罪悪感を感じないと言ったら嘘になる。それでも東山和今は推しておきたい。新しい技術をふんだんに盛り込みつつも、日本料理の精髄を感じることができる。店構えも凛として良い。あとは東京は恵比寿の予約が取れない名店、賛否両論も金沢のひがし茶屋街にお店を出した。北陸の魚は料理人にとって腕を振るいたくなる存在なのだろう。若手中心に丁寧な仕事をしてくれる。気持ちのいい店だ。

冬が来たら必ず行って欲しい鍋の店がある。寄せ鍋の太郎だ。主計町には川沿いに風情あふれる日本家屋のようなお店が並ぶ。ライトアップされる街並みに雪など降れば日本画の世界に入り込んだような気分になる。そんな場所で、お座敷でくつろぎながら、鱈や牡蠣や鯛に代表される北陸の海鮮と、金沢の野菜を鍋でいただく。魚も野菜も生気あふれるようすが肉眼で確認できるほどに新鮮だ。代々伝わるお出汁と合わせて食べれば最of高なのは言うまでもない。ぼくが日本でいちばん好きなお店のひとつだ。
そして、冬しか開かない鍋のお店がもう一つ。牡蠣鍋のみふくだ。北陸の冷たい海で身をパンパンに膨らませた牡蠣を、生姜を溶かした黄金色の味噌でいただく。謎の説明できない美味さの白滝もついて格別だ。冬はみふくを食べないと始まらないし終わらない。なかなか予約がとれないが、牡蠣が好きなら努力してみてほしい。

なお、みふく、太郎、どちらのお店についても気をつけて欲しいことがある。出来上がるまではくれぐれも、素人である我々が、迂闊な気持ちで、触るべからず。仲居さんと世間話でもしながらすべてお委ねするのが正しいやり方だ。

あとは、冬の金沢はおでんも美味い。強いてオススメするなら赤玉という店が好きだが、適当に入ってもどこでも美味い。なんかやばいものが入ってるんじゃないかと思うくらい美味い。冬しか食べられない香箱蟹のおでん、カニメンは誰もが憧れる料理だ。ちなみに香箱蟹は卵を蓄えたズワイガニのメスを全身取り出して改めて並べ替えるようにして甲羅に詰め直すというホラー映画に出てきそうな猟奇的な料理だが当たり前のように死ぬほど美味い。人間は残酷だ。最高だぞ。

ここまでお料理の話ばかりしてきたが、もちろん100キロ超えのわがままなボディを持て余すぼくが甘いもののことを忘れるはずもない。つぼみというカフェがある。どれもめちゃくちゃ奥深い味わいの和のスウィーツを出してくれる。今では日本中で食べられる葛切りや抹茶のかき氷はここのお店が発祥だ。たぶん違うけど、そんなふうに思い込んでしまうほどに美味い。でも、ぼくのオススメはやっぱり抹茶パフェなんだよな。

酒好きの師匠に連れていっていただくワインバーのシノンの話もしておきたい。ここではフランス西海岸、今なお手作業で作り続ける塩の世界的名産地、ゲランドの有塩バターとパンの付け合わせをいただけるのだが、これがどんなスウィーツよりも深夜に甘いので、ちょっと気を抜けない。

あと、肉のお店も紹介しよう。もちろんステーキのひよこだ。屋台のような店構えだが、日本最高峰のステーキのお店だ。独自の手法でマリネされたステーキ一本勝負のお店。一見するとボリュームたっぷりの280グラムのステーキはミディアムレアの焼き上がり。独自のさっぱりした和風のタレと西洋ワサビをたっぷりつけて食べると不思議なことに水のようにするすると口の中に溶けていく。表面の焦げ目と内側の生々しい肉の味わいのコントラストは他では食べたことのないフワフワした噛み心地を作り出す。これは肉好きなら絶対に食べておいて欲しい。ちなみにあまり語られないが、付け合わせの野菜と堅豆腐もドチャクソ美味い。このお店は高倉健さんが愛したことで有名だが、本物は本物を知るということだろう。ステーキ一本勝負の意味もわかる気がする。不器用ですから。

これだけ色んなお店の話をしてきたが、金沢の兄貴である福光屋の太一郎先輩によると、寿司は、はじめ、岡うまが美味いらしい。イタリアンはゴロゼット、和食は五十嵐という未知の名前が出てきた。そして金沢のお姉様のももたろうさんからは、以下の情報が。

いなさ(ワイン好きな人に)
アロス(お馴染み片町一ノリのいいマスター)
赤城(居酒屋を凝縮した店)
ジブンチ(カウンターに美女が多い)
西華房(中華、餃子はじめ何でも旨いよ、)

まだ見ぬ強豪がひしめいてる。金沢は奥が深い。深すぎる。その味わいを探る旅はまだまだ続きそうだ。定期券買おうかな。

サウナと風呂の街、金沢

歴史的な経緯もあり、お料理とアートが素晴らしい金沢だが、ここにきて新しい動きがある。サウナだ。
毎年金沢に通う中で、いつもなかなか満足のいくホテルに出会うことがないのは少しだけ不満が残った。駅前の大手資本のビッグホテルや、北陸といえばのチェーンホテルも、決して悪くはないが、アートの街金沢の宿としては心許ない。

しかし最近、愛せる金沢のホテルがようやくできた。友人であり尊敬する起業家・クリエイターの龍崎翔子が手がけたホテル香林居だ。金沢の中心部にひっそりと佇むこのホテルは見た目は細いビルだが、中に入ると驚くほど贅沢に空間が使われていて客室の一つひとつが広く感じる。


また、建物の内装全体が穏やかなグレーを基調にした色合いで、細部に至るまで丁寧に丸みや素材の風合いを活かした空間演出が施されている。作り手の感性と気合が感じられて気持ちがいい。ホテルの一階にはアロマの蒸留所があり、深呼吸することでリラックス効果を感じられる。街に面した小さな入り口から足を踏み入れると、物語の世界に迷い込んだような感覚になる。旅先でまた別の旅を味わう感じは新しい。ワクワクしながらリラックスするという矛盾を乗り越えるのがいいホテルだとぼくは思っている。その意味で香林居は、間違い無くいいホテルだ。
そして、ここにきて大切なことを書くが、香林居の最上階には街の景色を一望できる水風呂とお風呂つきのサウナがある。自分のペースであたたまり、自分のペースでロウリュし、自分のペースで金沢の街を眺めながら水風呂に入り、自分のペースでととのう。ととのうとはそもそもそういうことだったはずだ。ちなみに香林居にはなんとサウナ付きの部屋もあるという。自分のペースでととのいたいよな。わかってるよなぁ、龍崎。香林居は友人の仕事として、嫉妬するほどのクオリティだった。おれも頑張ろう。


貸切のサウナといえばリンナス金沢もある。こちらもルールトップサウナを備えており、自分のペースでととのえる。北欧のヒュッゲというリラックスの考え方を取り入れたサウナ着や加賀棒茶のアロマのロウリュなど丁寧な仕掛けがありがたい。香林居もリンナスも、貸切でしかサウナを利用できないが、最近のサウナブームの煽りで、混雑の中、順番待ちしなくてはいけないサウナに辟易としている人も多いだろう。これからのサウナ好きは貸切を求めるようになるのかもしれない。

また、一般的なサウナとしてはみんな大好きドーミーインのフラッグシップホテルである野乃金沢のサウナを忘れてはいけないだろう。ちゃんと冷たい水風呂から三段ある広さのサウナ、そして外気浴ができる露天風呂まで、圧倒的に安心できる完成度の高いサウナ空間がそこにはある。

スーパー銭湯の『ゆめの湯』や、主計町の茶屋街と川を見下ろす『くわな湯』などもあり、金沢は温浴施設が実は充実しているのだ。宿泊施設では若者向けのハッチ金沢も地元の若者との交流ができて楽しい。

次は2022年、一月七日。

これまで、アート、料理、サウナと金沢の魅力を語り尽くしてきたが、文中でも何度か書いたように金沢の街はまだまだ奥深い。緑あふれる公園と城と美術館を囲みながら、三つの花街が存在感を発揮している。とにかく色気のある街なのだ。緊急事態宣言あけた今、新幹線で3時間、新しい日本の景色を楽しみに、金沢に足を運んでみてはどうだろう。

金沢といえば多くの人が憧れるお茶屋遊び。一見さんお断りなど、敷居が高い印象だが、いわゆる紹介制のお店ということだ。西麻布にもあるだろう。ただし、おもてなしはバリアフリー、ジェンダーレスだ。現代では実はどんな人でもおもてなししてくれるお店にトランスフォームしている。お茶屋の本質は御座敷遊び以上に、この紹介制による信頼の担保にある。お茶屋で遊んだお客様は、お店が観劇・観光・食事の予約など、金沢のすべてをガイドし、体験をプロデュースしてもらえる。ある意味、旅のサブスク的なサービスともいえる。女将や芸妓さんはタレントである以上に、実はコンシェルジュなのだ。美しいだけじゃない、知性や土地の人々に愛される人間としての魅力も必要なのだ。古くて新しい観光のサブスク、お茶屋遊びに興味のある方は、三浦がお世話になっている仲乃家さんに電話してみるのもいいだろう。

076-261-3455(三浦のnoteを読んだと必ずお伝えください)

ぼくが次に金沢にいくのは予定通りなら2022年の一月七日だ。宿はもちろん香林居。朝7時に貸切サウナを押さえてある。久しぶりの裸の付き合いだ。師匠も喜んでくれるだろう。もちろん予定は未定なのだが。そろそろ『ただいま』といっても許されるだろう。ねぇ、ももたろうさん?

※文中の写真は仲乃家の桃太郎さん、TBWA\HAKUHODOの徳野さんからご提供いただきました。心より御礼申し上げます。

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