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けあらし幻想

きびしく冷えこんだお正月の早朝。朝日が射し、風もおだやか。カメラをひっつかみ車で5、6分、湯の川温泉の根崎海岸に急いだ。

そこには、けあらし(気嵐)がたちこめていた。

眼前の、波音もなく無音の光景にことばもでない。
自然が創り出した造形だ。

静寂に包まれる根崎海岸              2021


凍えるような冬の早朝、海上に白くだだよう幻想的な霧を「けあらし」という。

もともとは、北海道・留萌地方の方言であったとか。

気象用語では「蒸気霧」。
海水温と外気温の差が15℃以上あり、
風はおだやかで晴れわたった早朝に発生。

北国の冬に現れる。

光と影の一大ページェント


 この光と霧の一大ページェントにたちつくしていると、20年ほどまえ、ロンドンのナショナル・ギャラリーで観たターナーの画が浮かんだ。

雨が降りしきり水蒸気となった大気のなかを、おぼろげな色に溶けこんだ河にかかる橋を、蒸気機関車が疾走していく。
「雨、蒸気、スピード:グレート・ウエスタン鉄道」

 
重ねて、ジャズが耳にひびいた。

モダン・ジャズ・クヮルテット・MJQ「たそがれのヴェニス」。
その透明感のあるクールな名演奏は、静寂なけあらしの情景そのものだ。
 
氷点下10℃の海岸でルアーを投げていた釣り人がひとり。

サクラマスに挑戦したが粘るも、一匹も釣れなかったそう。

だが、幻想的なけあらしに出会えたのが釣果かなと一言。

けあらし 釣り人ひとり    函館・根崎海岸           2021


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