【ほめ方編】モンテッソーリ教育・レッジョエミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る自分でできる子に育つほめ方叱り方(島村華子)
「子どもをよくほめているつもりだけれど、いまいち手ごたえがないなあ」
「ほめているのに子どものチャレンジ精神やモチベーションが高まらない…」
「ほめられないと自主的に行動できないところがある」
「そもそも、『ほめる』って子どもの何をどのようにほめたらいいんだ!?」
子育てや教育に関わる私たちは、「ほめる」「叱る」と無関係ではいられません。
本書では、「自分で考え、自分で動き、未来を切り拓ける子に育ってほしい」という願いを軸に、大人のエゴのためではなく、本当に子どものためになる教育を「ほめ方」「叱り方」という二つの視点から詳しく解説しています。
私たち大人が普段何気なく言っている「ほめ方」や「叱り方」のくせに気づき、それらを意識的に少し変えるだけで、子どもとよりよくつながることができると筆者の島村さんはいいます。
今回は「ほめ方」に特化してまとめてみたいと思います。
筆者 島村華子さんってどんな人?
筆者の島村華子さんはオックスフォード大学で児童発達学の修士・博士課程を修了した、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育の研究者です。
「モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育ともに子ども一人ひとりを生まれながらに能力を持ち合わせたパワフルな学習者であるだけでなく、権利をもった一市民としてみなす」という視点から、親のスタンスの原則やほめること、叱ることの種類、問題点とそれを回避する上手なテクニックをていねいに解説してくれています。
具体例の前に原則や種類を明確にいくつか箇条書きで示してからそれぞれの項目について詳しい説明があるので、非常に読みやすく、分かりやすいです。
加えて、いくつかのケースに対して悪い例とよい例、応用例を具体的に示しているので、イメージがつかみやすいです。
まずいほめ方の種類と問題点を知ろう
ここでは、筆者の島村さんがあげるポイントと私のかつての失敗を照らし合わせて考えていきたいと思います。
まずいほめ方は大きく2つ
「すごいね」「上手だね」といった具体性に欠ける中身のない表面的な「おざなりほめ」
「やさしいね」「かわいいね」といった性格や能力、外見といった表面上の特徴を中心にほめる「人中心ほめ」
これら2つのほめ方には、
・表面的である
・具体性に欠ける
という共通点があります。
そして、これらの「ほめ方」は言葉足らずで具体性に欠けるため、評価のものさしを子どもが想像しなければなりません。他のものごとへの応用や次への教訓を得にくい、つまりは「学びにつながらない」という特徴があります。
<私の失敗>
何年も前に、体育で表現運動(音楽に合わせてグループごとに創作ダンスをする)に取り組みました。
子どもたちの体と心をほぐそうと、音楽に合わせて私の動きをまねしてもらいながら、「いいね!」「かっこいい!」「ナイス~!」と子どもたちを盛り上げました。
雰囲気も良く、和気あいあいとした様子で取り組みはじめたので、グループを回って声をかけながら見守っていました。ところが、見ているとなんだか違和感があるのです。
子どもたちは最初の私の手本の動きの順番を組み替えただけのダンスを踊っていました。しかも、その傾向は他のグループにも見られました。
「創作ダンスなのに全然創作してないじゃん!」
子どもたちはがんばっています。体を大きく動かし、表情は真剣です。
でも、どこかおもしろくなさそう。
結局グループごとの振り付けの違いもそれほどない、味気ない表現運動になってしまいました。
「おざなりほめ」と「人中心ほめ」が積み重なるとどうなってしまうの?
「おざなりほめ」と「人中心ほめ」大きく分けて4つの問題点があります。
「ほめられ依存症」になる
興味を失う
チャレンジ精神が低下する
モチベーションが低下する
<「ほめ方」という視点からの私の失敗の分析>
・授業の冒頭で具体性に欠ける表面的なほめ方をしてしまったために、子どもたちは「こうした動きをすればほめられるんだ」という認識になった
・新たな振り付けを考えようという創造的なチャレンジをしようと考える子が少なくなり、全体的に思考停止状態になってしまった
・思考停止状態のためにおもしろさに欠け、導入の段階から徐々にモチベーションが低下していった
「ほめ方」だけでなく、指示や活動の組み立て方など、検討すべきことはいくらでもありますが、ここでは「ほめ方」という観点から内省してみました。
かつての自分よ、今冷静に考えたらもう少しやりようあっただろうに。
もっと早くほめ方のノウハウ知りたかった…
どんなほめ方がいい「ほめ方」なの?
いい「ほめ方」として島村さんが示しているのが「プロセスほめ」です。
「プロセスほめ」とは、努力や過程、試行錯誤した手順を中心にほめることです。
「プロセスほめ」は「おざなりほめ」「人中心ほめ」と違って本質的・具体的であるために、子どもが
・「次の機会に応用しよう」という教訓を得られる
・「もっと創造的にやってみよう」「もっと工夫しよう」というチャレンジ精神や次へのモチベーションを得られる
というメリットがあります。
そして、その先に
この先生は「先生の指示を忠実に聞く子を評価する」ではなく「自分の頭で考えて、行動する子を評価する
と子どもが考えることに価値があると考えます。
私の失敗を改善することができたかもしれない具体的な「ほめ方」
「プロセスほめ」のポイントについて、島村さんは
成果よりもプロセスをほめる
もっと具体的にほめる
もっと質問する
の3つを挙げています。
ここで私が注目したいのは、3つ目の「もっと質問する」です。
「子どもとのボタンの掛け違えによる悪循環を回避する」という視点を1つ前の記事で書きました。
子どもをほめるときであっても、本人が本当にほめてほしい部分に気づかず、他のどうでもいい部分を「おざなりほめ」されたら、意欲がなくなります。
そこで、子どもの言動の事実を挙げ、その言動に込められた意図や思いを聞くのです。
「さっきすごく集中してたけど(事実)、どんな風に考えたの?(意図や思い)」
「さっき○○君が大きな声で「わかった!」って叫んでたけど(事実)、どんなアドバイスをしたの?(意図や思い)」
これは、「プロセスほめ」をしたいけれど、プロセスを見ていない時(例えば子どもが一人でやった宿題を見るときや、学校で作った作品を持ちかえってきたときなど)も使うことができます。
「いつもよりていねいに漢字練習をしたんだね。一番うまくいった漢字はどれかな?」
「これ」
「これか!ここの何がうまくいった?」
「右払いを長くした」
「ほんとだ!右払いが長くて全体のバランスがいいもんね」
「こりゃまた大きい作品を作ったね。この作品で一番大変だったのってどこ?」
「ここの尻尾のところにね、くぎをいっぱい打ったとこ」
「わ!小さい穴がいっぱい空いてるけど、何度もやり直したんじゃないの。あきらめないでがんばったんだねえ」
こうすることで、その子の意図や思いに寄り添った上で、努力や工夫に直接アプローチ(ほめる)ができます。
ボタンの掛け違えを防ぎつつ、その子の工夫や創造性を言語化して整理させ、学びを得られるような「ほめ方」になります。
<私の失敗を改善する具体的な「プロセスほめ」の例>
もっと質問する
「他の人たちとは違う動きを『あえて』してたよね。あれ、何を表現していたの?」
「友達とたくさんアイデアを出してたけど、どうしてそんなにアイデアが出るの?」
「さっきの発表と全然違ったけど、リーダーのあなたが何かアドバイスしたんじゃないの?何言ったの?」
成果よりもプロセスをほめる
「友達とアイデアをたくさん出し合って、試していたよね。見た感じ10パターンくらい試してなかった?がんばるねえ」
「何度もやり直していたけど、すごいこだわりだよね。4人がそうやってこだわって取り組んでるからいいものができそうだね」
もっと具体的にほめる
「指先の曲げ方や歩き方にも意図があったよね。見てる人に気持ちが伝わったと思うよ」
「5人ともよくタイミングを合わせられたよね。相当練習したんじゃないの」
こんな感じでしょうか。
本当にすごいと思ったら「すごい!」もOK
「すごい!」
私が3歳の娘やクラスの子どもたちについつい言ってしまう口ぐせの1つです。
その「すごい!」が、子どもの行動をコントロールしようという意図があったとしたら、子どもにはわざとらしく、白々しいものに聞こえてしまうでしょう。
しかし、心から感心して出てくる自然発生的な「すごい!」にまで蓋をすることはないと島村さんも書いています。(少しほっとした)
ここまで「ほめ方」についてまとめてきましたが、素直な感情を押し殺したり、全ての言動に注意深く思考を張り巡らせたりする必要はありません。
子どもをコントロールしすぎないということは、完璧主義的な価値観を脱いで、大人も子どもも楽になる道でもあります。
まとめ:ほめるときの口ぐせを少しだけ変えてみよう
「ほめる」という多くの人が肯定的なイメージをもつ手立ての中にも大人の価値観を押し付け、子どもをコントロールする側面があるということ、安易なほめ方が子どもたちの主体性や意欲を損ねてしまうことがあるということを知り、何気なく使ってきた言葉を見直してみようと思いました。
特に、授業実践のなかでは教師がもつクラスの中の権力のようなものを強めることにもなりかねないと感じました。的確な指示や子どもがイキイキと活動するために必要な要素でもあるのですが、一方で強すぎる権力は子どもたちを委縮させ、創造性のない思考停止な子どもを生んでしまいます。
そこで、私にもできる小さな具体アクションを考えてみました。
(できるだけ小さなステップにし、加えて宣言しないと続かないので)
もし共感するところがあれば、私と一緒に取り組んでみましょう!
私の小さな具体アクション1
我が子やクラスの子をほめるときの自分の口ぐせがどんなものか、もう一度確かめる。
「すごい」「速い」「頭いい」「やさしい」「上手」「えらい」・・・
私の具体アクション2
把握した口ぐせの言葉を使う回数を減らし、言い換えてみる。
まずは「すごい」をできるだけ封印して、具体性のある言葉に言い換えてみようと思います。
私の具体アクション3
子どもの行為行動の意図を勝手に決めつけ、ボタンの掛け違えを防ぐために、子どもに質問する。
いかがでしたでしょうか。
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(昨日の記事でスキが6つ押されただけでうれしくなっているNOTE初心者)
次回はこの本で論じられた「叱り方」についてまとめてみようと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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