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話題の大著、弘中惇一郎『生涯弁護人』

昨年の暮れに講談社から発売された『生涯弁護人』。

弘中惇一郎先生ご自身が手がけられた著名事件について、余すところなく書かれたもので、法曹関係者の中でも話題になっています。

1巻、2巻はそれぞれ517ページ、463ページに及ぶ大部となっていますので、まだ1巻しか読めていません。
まずは1巻の感想のみ書いておきます。

弘中惇一郎先生は、巷間では刑事弁護人や有名人の名誉毀損事件の代理人として著名ですが、この本では、刑事事件だけでなく、行政訴訟や、薬害訴訟、医療過誤訴訟の訴訟代理人としての活動についても詳述されています。

もちろん、表紙の写真の村木厚子氏、小沢一郎氏、鈴木宗男氏、故三浦和義氏の話も面白いです。

鈴木宗男氏の話は、騒動をリアルでは知らないであろう20代以下の人には、なんでそんな騒がれ方をしたんだろうかと思ってしまうかもしれません。

1巻には、憲法が試験科目に含まれる資格試験・公務員試験で、外国人の人権享有主体性の論点で必ず出てくるマクリーン事件、司法試験受験生や警察官ならば必ず勉強するであろう、刑事訴訟法の有名判例である、任意捜査としての所持品検査の限界についての米子銀行強盗事件についても書かれています。

それぞれの事件について具体的にどのような戦略・戦術を組み立てて裁判で闘ったかが記されており、一般の方には、弁護士の頭の中を垣間見ることができるという点で面白いですし、法曹関係者にも感心する点や勉強になる点が多々あるのではないでしょうか。
少なくとも、私は、そのように感じています。

また、当時と今の裁判所の訴訟の進め方や世の中の仕組みがどう変わったか、以前と現在のそれぞれの良い面と悪い面についても言及されており、以前の仕組みを知る人の視点というものもまた勉強になります。

ところどころ、思わず笑ってしまうエピソードもありました。マクリーン事件の報酬の話もそう。

私が特に笑ったのは、とある民事訴訟の証人尋問で、原告・被告それぞれの代理人や、裁判官も居眠りしてしまった事件のエピソード。

左陪席の裁判官に

「たまたま共通の知人の結婚式で会ったので」「苦情を言ったところ、『だって眠くなりますよ、あの尋問は』と言われてしまった。」(弘中惇一郎『生涯弁護人 事件ファイル 1』p.332)

というくだり。この女性裁判官は、後に、名古屋高裁の長官にもなった方です。

2巻もかなり分厚いですが、引き続き読んでいきたいと思います。


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