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バーニーの企業戦略論 事業戦略編に学ぶ

2021年12月に出た、アメリカの著名な経営学者、バーニーの企業戦略論の新版。早速、全3巻購入し、既に1月末までに下巻まで読了しました。

今回は、中巻を紹介します。

中巻には、事業戦略・全社戦略のうちの事業戦略について、具体的には、コスト・リーダーシップ戦略、製品差別化戦略のほか、複数の戦略の選択肢から1つを選ぶことができる状態である戦略的柔軟性、競合度を緩和させる共謀について書かれています。

面白い視点がいくつかありました。

第1に、市場シェアの獲得自体を目標として邁進する考え方がありますが、これについては否定的です。

市場シェアと企業パフォーマンスの研究について、

「企業は価値の高い戦略を追求し、より多くの顧客を獲得することにより、必然的に大きな市場シェアを確保する。」(ジェイ・B・バーニーほか『企業戦略論【中】事業戦略編 戦略経営と競争優位』p.20)

というのが大方の見解であり、大きな市場シェアの獲得自体を経営目標にすべきではないとします。

第2に、製品差別化の効能については

「製品差別化を実現した企業は、外部環境に存在するあらゆる種類の脅威に対処できるようになる。」(同p.68)

と指摘しています。

製品差別化を実現した企業は、新規参入の脅威を減らせ、代替品の脅威も減らせ、サプライヤーの脅威も減らせるし、顧客ロイヤルティが高い可能性があり、影響力のある買い手の脅威も減少させる、というのです。

もっとも、

「希少かつ模倣コストの高い企業の強みと結びついていなければ持続的な競争優位をもたらさない」(同p.75)

とも論じています。差別化が持続的な競争優位がもたらされるかどうかは

「企業がどれほどの創造性を発揮して差別化を追求しているか」(同p.75)

さらに、

「ある差別化要因がどれほど模倣困難かは、どのような経営資源やケイパビリティを活用したものか」(同p.77)

によって決まるとしています。

第3に、コスト・リーダーシップ戦略と製品差別化戦略の同時追求は可能かという観点について、不可能とする見解と可能とする見解があり、後者の見解の実例として、マクドナルドが挙げられています。

マクドナルドは、

「差別化戦略を用いてファストフード業界の市場シェア・リーダーになった」(同p.95)

といえるからです。

第4に、戦略的柔軟性の視点も勉強になりました。

戦略的柔軟性とは、

「複数の戦略の選択肢から1つを選ぶことができる状態」(同p.109)

であり、金融オプションに似た戦略オプションという考え方は勉強になりました。

本書ではNetflixの例が挙げられています。

Netflixは、当初はDVDの郵送レンタル事業を営みつつ、動画配信事業というオプションを残し、ブロードバンドの普及により動画配信事業というオプションの価値の不確実性が解消された時点で初めて動画配信事業をスタートさせたというものです。

第5に、「企業倫理と戦略」というコラムも本書の特徴であり、一読の価値があります。

安い労働力の追求は、国際的な底辺への競争を生んでいるが、かつての低コスト拠点はさらにコストを下げるしか対抗手段がなくなり、コストの低減にやる劣悪な労働環境と低賃金を招く、さらに、先進国への不法入国者が非合法的な搾取工場で働かされるなど実質的に現代の奴隷労働とも言えるような状況が生まれてしまうとしています。

さらに、従業員を柔軟な資産として扱うことの影響と題したコラムでは、すべての従業員を契約社員や派遣社員のように扱うことについて、

「従業員が支払う代償はあまりに大きい。解雇されることが、さまざまな精神的・身体的悪影響をもたらすことは調査を通じて明らかになっている。」(同p.139)

と論じています。安い労働力を追求することや従業員を柔軟な資産として扱うことがどのような帰結をもたらすのか、CSRという言葉は20年近く前から声高に言われ続けていますが、経営戦略が倫理的(エシカル)であるかどうかも結果的に競争力の源泉になるのではないのかと感じざるを得ません。

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