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石垣島ひとり旅 〈おまけのお間抜け話〉

おまけからおまを抜いたら毛が残るってわけで、このオレには朗報だ。が、そんなことはどうでもいい。5日目、最終日のフライト前の話。

帰りの関西空港行きANA13時便に乗る45分前に、空港内でケータイを落としたことに気づいた。異常に焦る。(フ…、こんなことあるんかね)、と自嘲的に笑う余裕すらない。

ジーンズの前後ろポケット、シャツのポケットを何度も探る。二度探ろうと三度探ろうと同じことだ。マジシャンじゃあるまいし、一度探ったところから次の探りで出てくるはずもない。

なのに、やめられない癖のように、ポケットを探ってばかりの人間になってしまっている。不安におののき、切羽詰まった半泣きの顔を人目に曝け出し、フロアを全力でキョロキョロする。異常に焦る自分ばかりが目に入り、肝心の周りが目に入らない最悪の状態に陥る。

「空港インフォメーション」の人間に対応をお願いするも、「iPhoneを探す」ことに関しては全くといっていいほど何もできないという。プロであり、テキパキと何でも対応できるが、「iPhoneを探す」ことに関しては石垣島の牛ほどに手助けにならないのだ。

「今のところまだ届け出がありません」そんなにすぐ届けられんだろう。今さっき落としたばかりなのだ。「何時の便ですか?」「13時です」オレの焦りが伝わり、気の毒そうな表情を浮かべ、何か手助にならないかと思案してみせるが、彼らは役に立たない。しかし、その真剣さを見るに、善良な人たちであることはわかる。

「まず飛行機に乗ってください。もしも届けられたら、あとでスマホを発送することはできます」いや、今すぐ願いたい。きっとジーンズの後ろポケットから落としたのだろう。オレはうどんを食べたテーブル、さっきまでいた幾つかのお土産物屋などを駆け回るが、見つからない。

トイレに行くと、4つある〈大〉のうち3つのトビラが閉まっていて捜索もできない。空いているのは1つだが、そこにはない。もう終わりだ。たぶん見つからないだろう。自暴自棄になったこんな状態で、飛行機にも乗りたくない。とてもじゃないが、リラックスできないだろう。

だからと言ってここで駄々をこねるわけにも行かず、また空港インフォメーションに戻り、ブース内の電話から、オレのスマホに電話をしてもらうことにする。「意味がありますか?」「着信音が鳴れば、誰かが気づいて拾ってくれるかもしれない」とオレが説明すると、「なるほど!」とインフォメーションの人が言う。相談した側のオレが教えてあげたのだ。しばらくコール音を待った後で、「留守番電話になりました」目の前が真っ黒になる。

「トイレに行かれましたか?トイレに置き忘れる方が多くいらっしゃいます」「確かトイレに行ったと思います(覚えていないのだ)。さっきトイレを探しましたが、一つしか空いてなかったので、もう一度見てきます」とオレ。すると、食事テーブルとショップの間を、一人のオジサンが、オレのスマホ(一瞬でわかる)を持ってインフォメーションのある方向へと歩いてゆくではないか!(この時、フライトの30分前だった)

…案の定、トイレの〈大〉に置き忘れていたらしい。「着信音に気づいてね」とオジサン。ほら、オレが「インフォメーション」の人間に教えてあげた方法が解決に繋がった。留守電になった時に絶望したが、考えてみれば、見ず知らずの人間が電話を取るはずがない。不安におののく男にはそんなことすら想像できないのだ。

そして後から思えば、むしろこのオジサンが〈大〉に入っておらず空き状態であれば最初に探した時に見つかっていたかもしれない。が、その時はそんな考えなど微塵も及ばず、神様に会ったように何度も頭を下げた。
悪質な人間ならスマホを盗んでいただろうから、頭を下げる価値は十二分にある。
「ありました!」とインフォメーションの人に言いに行く。彼らも、ホッと胸を撫で下ろしているみたいだ。

オジサン、ありがとう。
そしてマヌケめ、このオレよ。

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