時代を先取り⁉ 相手を誘う弱者のための“非常識”継投策 北大津・宮崎裕也監督(現彦根総合)

 絶対的なエースがいないうえに、球数制限。

 これに夏の異常な暑さも加わり、近年の高校野球は公立高校や弱者が勝ち上がるには厳しい状況になっている。だが、あきらめたら何も生まれない。並の投手しかいなくても、何とかして勝ち上がる方法はないか。そこで参考にしたいのが、2012年夏に滋賀県代表になった北大津だ。

 背番号1の桜井裕介、背番号10の則本佳樹、背番号11の竹本卓弘の3人の投手をつないだ。3人はすべて右の上手投げ。140キロは出ない。継投する場合、横手投げやサウスポーがいるのが理想だが、いないなら、いる人間でやりくりするしかない。ちなみに、この年の北大津打線は決して強力ではなく、打線でカバーしたわけではない。今からふりかえってみれば、時代を先取りしたともいえる継投策。どのように勝ち上がったのか。宮崎裕也監督(当時、現彦根総合監督)による独特の継投策を紹介する。

 3投手の滋賀大会の成績、試合ごとのリレーは以下のとおりだ。

   試合 回数 被安打 奪三振 四死球 失点
則本  6 26  16  20  13  4
桜井  5 13   8  10   4  2
竹本  4 10   6   8   7  2

1回戦
北大津 005 004 1 10
守山北 010 001 0 2
桜井2回3分の2→竹本2回3分の1→則本2回(7回コールド)

2回戦
長 浜 000 100 0 1
北大津 000 107 × 8
桜井3回→竹本3回→則本1回(7回コールド)

3回戦
瀬田工 000 000 10 1
北大津 000 020 15 8
則本4回→竹本2回3分の2→桜井1回3分の1(8回コールド)
※竹本は無安打で交代

準々決勝
近 江 000 000 000 0
北大津 000 100 00× 1
則本9回5安打完封

準決勝
八幡商 000 000 100 1
北大津 000 200 02× 4
桜井3回→竹本2回→則本4回
※桜井は3回無安打で交代

決勝
野 洲 010 010 010 3
北大津 000 020 101 4
則本6回→桜井3回

 なんと、0対0、さらには無安打に抑えているにもかかわらず交代したのが2度もある。それも、控え投手から絶対的エースに代えるのではない。普通(?)の監督には怖くてできない継投だ。なぜ、こんな継投ができたのか。宮崎監督の考えを聞いた。

――大会に入るにあたり、継投で勝負しようと考えたきっかけを教えてください。

宮崎 見てのとおりのチームでしょ(この年の6月に会ったとき、「夏、期待してます」と言ったら、「まぁ、無理やな」と言っていた(笑)。秋春ともに県大会は初戦敗退で周囲から「史上最弱」といわれるほど力のないチームだった)。やるべきことは全部やろうと思ったんですよ。勝つためにすべてやろうと。

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