奈良県|公立高校入試統計問題2023
累積相対度数の折れ線グラフという,ほかの都道府県入試ではなかなかお目にかかれないグラフです。
そして,選択肢の中にも判断に迷うシビアなものもあります。一つ一つ見てみましょう。
ア 中央値
中央値は小さい順に並べたときに中央にある値のことです。累積度数でいうと0.5の位置にあるということになります。
1年生が10分以上15分未満,3年生が15分以上20分未満の区間に含まれていますので,この選択肢は間違い。
イ ある区間に含まれるデータの割合
20分のところを見てみると,
1年生の相対度数は0.66,3年生の相対度数は0.52と読み取れます。ということは,20分未満の区間には,どちらの学年とも半分以上いるといえます。
ウ 相対度数と人数
通学時間が25分未満の生徒のところのグラフが重なっているので,正解…といってしまいたいところですが,このグラフは累積相対度数。そして問題文をよく読むと,1年生と3年生の人数は異なります。
ということは,同じ76%のように見えても,割合が同じ,ということですから,人数は違うはずです。正しくない。
エ 相対度数と人数 その2
通学時間が25分以上30分未満の生徒は,このグラフではその区間に増えた分にあたります。
1年生は全体の約0.04の割合が増えただけに対して,3年生は全体の約0.14の割合だけ増えています。もともと1年生より3年生の方が人数が多いのですから,75×0.04よりも90×0.14の方が明らかに大きくなりますね。ですから,この選択肢は正しい。
全体の傾向・・・?
「全体の傾向として」をどうとらえるか。25分未満のところ,全体の76%のところまでは,グラフは常に1年生の方が上で,確かに1年生の方が3年生よりも通学時間が短い。
しかしこれを超えると,94%のところまで20%弱の区間でグラフは逆転されているので,これを「全体の傾向として」と言い切ってしまってよいのかどうか。数学の問題として正誤の判定をさせるのは,正直厳しいのでは,と思います。
県教委の示す解答ではこの選択肢は「正しい」としています。
答
累積相対度数までは学ぶことになっているので,あとはそれをおなじみの折れ線グラフにしただけ,といわれればそうですが,他都道府県で出題がほとんどないのは,教科書の扱いが違うからだと考えられます。
出題時点とは異なりますが,現在(2021年度以降)使用されている教科書で,累積相対度数の折れ線グラフについては,
○本文で扱っている
学校図書:例「累積相対度数を度数折れ線に表すと,右の図のようになります」
大日本図書:本文「累積相対度数をグラフに表すと,ある階級までの相対度数が増えていく様子がわかります。」→問題で中央値が含まれる階級の読み取り
○コラムで扱っている
啓林館→「自分から学ぼう編」での扱い。「けいたさんは,相対度数と累積相対度数をグラフに表すことにしました」としてグラフを掲載して,コラム「参考 累積相対度数を表すグラフ」で「累積相対度数をグラフに表すと,様々なことが読み取れます」。
数研出版→本文で累積度数のグラフ,
コラム「相対累積度数と中央値」で,グラフと中央値が含まれる階級について
教育出版→コラム「累積相対度数を表すグラフ」,グラフ上80%について読み取り問題
日本文教→コラム「累積相対度数を折れ線グラフで表すと」,グラフ上の中央値言及無し
○扱いなし
東京書籍(ただし相対度数の折れ線グラフはあり,累積度数のヒストグラムは無し)
ということで,教科書の冊数としては2:4:1。ただし県内の採用状況にもよるのでしょうが,シェア第2位では扱いがない,というのは気をつけなければいけません。以上を踏まえ,初見のタイプのグラフの読み解きになる可能性があり,公立高校入試としては厳しい,というところです。
さらにこの問題でいうと,日本語レベルで迷わされる選択肢が混じっているので,練習問題として採録するのもちょっと不適当と思います。
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