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体操競技を知らない方たちへ

※注意
この記事は2021年6月、東京五輪以前に書かれたものです。
現在の体操競技のルールとは異なる点があルことをご留意ください。


初めまして。翔です。
体操競技のファンやらせてもらってます。

以前はアメーバなんていうところでブログをやっていたのですが、
この度noteで記事を書いていこうということになりました。
特に理由はありません。よろしくお願いします。


さて、もういくつ寝るとオリンピックが始まりますね。

体操競技はメダル獲得の期待がかかっていて、オリンピックが近づく時世にはメディアで取り上げられることも多いです。

お読みの皆さんは体操競技って何をしている競技なのかわかりますか?

「なにやらスゲーことをしているが、何がどう凄いのかはわからない」
「内村さんと白井くん以外わからない」
そんな認識の方ばかりだと思います。えぇそうだと思います。
「俺モリスエ知ってるよ!」と思われた方。素晴らしいです。

体操競技は見た目の迫力や華やかさとは裏腹に、とても複雑なルールで成り立っています。
実際、体操競技を熱心に応援しているファンの皆さんも、はっきりとルールを理解している方は少ないです。
これはつまり、ルールなんか理解しなくても体操は楽しめるということの証左でもあります。
僕としては、「無理にルール理解しない応援の仕方」も正しいと思うんですよ。
野球やサッカーなどの球技はどうなのかわかりませんが、体操競技はゼロ知識でも楽しめるスポーツの一つだと思います。

それでもオリンピックで画面越しに体操競技を見られる方は、
少しでもルールを知っておきたいという方も多いと思うので、
体操競技の基本的な情報とルールを数回に分けて紹介します。


体操競技とは


体操競技に関してよくある勘違いが、
男子がやる体操=体操
女子がやる体操=新体操
 というもの。
これは大きな間違いです。
女子の体操もありますし、日本では男子の新体操もあります。

なんと、この勘違いを朝日新聞デジタルがやっちゃってるんですよね。
競技紹介の「新体操」をクリックすると「女子体操競技」の村上茉愛選手の画像が使われています。

せめてこれだけでも覚えてくれたらこの記事は閉じて構いません。

でも、体操のことをもっと知りたいという良い趣味をお持ちの方はもっと読んでください.


国際体操連盟(FIG)の管轄する競技は様々あります。
「体操」とひとくくりにしてもその中には・・・

・体操競技
・新体操
・トランポリン
・アクロ体操
・エアロビック
・パルクール

と様々な競技があるわけです。

ここからさらに分けると・・・
・体操競技⇒男子/女子
・新体操⇒個人/団体
・トランポリン⇒トランポリン/タンブリング/ダブルミニ
・パルクール⇒スピードラン/フリースタイル

と分けることができます。
更にこれらを種目で分けると・・・
体操競技⇒男子⇒団体総合/個人総合/ゆか/あん馬/つり輪/跳馬/平行棒/鉄棒
    ⇒女子⇒団体総合/個人総合/跳馬/段違い平行棒/平均台/ゆか

・・・という風に分けられます。
ざっと図にするとこんな感じです。


体操連盟管轄_

最 初 か ら 出 せ

そしてこれらのうち、オリンピック競技に採用されていて、且つメダルを獲得できる種目は・・・

メダル

これだけなんですね。


ちなみに先ほど男子も新体操があると書きましたが、国際体操連盟(FIG)が管轄しているのは女子の新体操のみで、男子新体操は競技自体は存在するものの国際体操連盟(FIG)の管轄する競技ではないという状態です。
男子新体操の話をすると長くなってしまうので割愛します。

「体操」に関連する競技でもFIGの管轄していないものは複数あります。
一口に「体操」というだけでも様々な競技があるということは承知しておいてください。
JOCの競技紹介のページを見てみると、
「体操・体操競技」「体操・新体操」「体操・トランポリン」と書かれていることがわかります。


体操競技の基本ルール

体操競技ってなんとなく10点満点のイメージがありますよね。
しかし、現在のルールは上限を設けておらず、難しい技をやればやるほど、美しく実施するほど、高い得点が得られるものとなっています。

体操競技が現在のルールに変更されたのは2006年。15年前のことです。
それまでの10点満点制度が廃止され、Aスコア、Bスコアの合計が決定点となりました。北京五輪後、2009年以降はこれが「Dスコア」と「Eスコア」にそれぞれ差し替えられ、現在に至ります。

前述のとおり、体操競技は男女とも、各種目DスコアとEスコアで構成され、その合計が決定点となります。
では、「Dスコア」「Eスコア」とは何なのか。

Dスコアは「difficulty」=難易度
Eスコアは「execution」=実施
それぞれの頭文字をとっています。
つまりDスコアは技の難しさ、Eスコアは実施の正確さを表した点数になるわけです。
ではでは、Dスコアの点数はどのように決まるのか、説明します。

Dスコアは技の難易度を表す点数なわけですが、その中身は「難度価値点」「グループ点」「組み合わせ加点」の3つの構成要素で成り立つ加点方式です。ひとつずつ理解していきましょう。

▼難度価値点
体操競技の技にはそれぞれ難度が設定されています。
例えば、男子ゆかの「後方抱え込み宙返り」はA難度、「後方伸身宙返り3回ひねり」はD難度、「後方伸身宙返り4回ひねり(シライ/グエン)」はF難度という風に、アルファベットの順番が若いと簡単な技、大きいと難しい技、という風に難しさが設定されています。2021年現在、男女通じて最高難度はJ難度です。

この難度設定がDスコアにどういう影響を及ぼすのかというと、ある一つの技を実施するごとに、難度価値点というものが加算されていきます。先ほど述べたA,B,C,Dというアルファベットそれぞれに価値点が与えられています。以下の通りです。

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このように、アルファベットの順番が大きくなると価値点も高くなります。
もちろん、この先K難度なんていうものができたら価値点は1.1になるわけですね。
これらは技一つ一つに設けられており、演技者は、難度表に載っている技を10技(女子は8技)そろえて演技構成とします。
その10技の価値点の合計が1つ目の要素「難度価値点」です。

白井健三選手の2017年世界選手権予選の演技を例に見てみましょう。

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白井選手のこの演技では11技行っています。しかし、Dスコアにカウントされる技は10技までと定められているため、最も難度の低い後転とび(バック転)は対象外となります。
後転とびを除いた10技の価値点の合計は4.9になりました。

▼グループ点
技を10技そろえるのって結構大変なことなんですけど、なにも好き勝手に技を10そろえれば良いというわけではありません。そこには制約があります。
体操競技の技というのは、いくつかのグループに分けられています。
種目ごとに主に4つのグループがあり、すべてのグループに属する技を10技に入れなければなりません。
男子の6種目はそれぞれ4つのグループによって成り立っています。
例えば鉄棒は以下の通りです。

●鉄棒
Ⅰ:ひねりを伴う、または伴わない車輪技
Ⅱ:手離し技
Ⅲ:バーに近い技
Ⅳ:終末技

10技を構成する際、この4つのグループに属する技をそれぞれ必ず1技は入れなければなりません。そして、ひとつのグループの技は最大で5つまで入れることができます。グループⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳの技をそれぞれ1つでも入れられれば、ひとつのグループにつき加点が0.5ずつ獲得できます。これがグループ点です。つまりグループ点は最大2.0まで得ることができます。(跳馬を除く)

ここでややこしいのがゆかです。
実は、ゆかのグループは3つしかありません。

●ゆか
Ⅰ:アクロバット以外の技
Ⅱ:前方系の技
Ⅲ:後方系の技

ゆかと跳馬以外の種目はグループⅣが終末技になるのですが、ゆかの場合は、グループⅡ,Ⅲどちらかの技を終末技にすることで、最後に実施した技が、その技グループグループⅣ:終末技を兼任するという特殊な構造になっています。
先ほどの白井選手の演技構成を再び見てみましょう。

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このように、ひとつでもグループに属する技を実施すれば、都度0.5点が獲得できます。同じグループの技を1つやろうが5つやろうが一律0.5点です。
しかし、グループⅣ:終末技だけは、A難度=0.1、B難度=0.2、C難度=0.3、D難度以上=0.5という風に、難度に応じてグループ点が変わります。
白井選手の演技構成は、4つのグループ要求を満たしているので最大の2.0点獲得です。
しかし、大概の選手は終末技をD難度にしてグループ点をしっかり2.0獲得するので、これに関しては特に珍しい話ではなく、白井選手だからできるとかそういうわけではないです。

▼組み合わせ加点

もうひとつ重要なのが組み合わせ加点です。
一定の難度以上の2つの技を連続して実施することで、ボーナスがもらえる仕組みです。これが組み合わせ加点です。
組み合わせ加点はゆかと鉄棒でのみ得ることができます。

ゆかの場合、0.1点稼げる組み合わせと0.2点稼げる組み合わせがあります。
以下の通りです。
・D難度以上の宙返り技+BorC難度の宙返り技=0.1の加点
・D難度以上の宙返り技+D難度以上の宙返り技=0.2の加点

しかし、ゆかでは加点が得られる組み合わせは最大2回までと定められています。
つまり、ゆかの組み合わせ加点は最大でも0.4点までしか稼ぐことができません。
この白井健三選手のゆかでは何点稼ぐことができるでしょうか。

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白井選手は③+④=0.2、⑤+⑥=0.1、⑧+⑨=0.1の3つの組み合わせを行っています。しかし、ゆかで組み合わせ加点が得られる組み合わせは最大2回までなので、このうち3つ目の組み合わせ加点はカットされ、組み合わせ加点の合計は0.2+0.1=0.3となりました。

鉄棒の場合の組み合わせ加点は少し勝手が異なります。
鉄棒の場合は、手離し技と手離し技でのみ組み合わせ加点が得られます。
得られる得点は以下の通りです。
・D難度以上の手離し技+C難度の手離し技=0.1
・D難度以上の手離し技+D難度以上の手離し技=0.2
鉄棒はグループⅡが手離し技のグループなので、手離し技は最大5つ入れることができ、それらをすべてD難度以上で連続すると最大0.8のボーナスが得られることになります。
しかし、これを実際にやった選手はいません。

さて、Dスコアを構成するすべての要素を説明しました。
難度価値点・グループ点・組み合わせ加点のすべてを足した白井選手のDスコアは4.9+2.0+0.3=7.2となるわけです。
ゆかでDスコア7.2というのは、現行ルールで世界最高になります。
4年前の2017年からこれを超えるDスコアは実施されていません。

ここまでがDスコアです。
Dスコアについてなんとなく理解できたでしょうか。


続いてEスコアです。
Eスコアはざっくり、実施の美しさ・正確さを表す点数です。演技が美しければ高い得点が期待でき、落下など失敗すれば点数は低くなります。
このEスコアというのが、従来までの10点満点制の名残であり、10.000点を満点とした減点方式になっています。
しかし、Eスコア10.000というのは出ないものと思っていてください。

減点項目はわかりやすいものを挙げると
・肘が曲がる
・膝が曲がる
・脚が割れる
・器具から落下
・無価値な動作
・動作の無価値な停滞
・要求からの逸脱
などがあります。

実際にはもっともっともっと項目がありますが、書いているときりがないので代表的なものを挙げました。
種目や技によって項目は様々ですが、美しくない、正確でないと判断された動きには逐一減点が施されます。
技は10までカウントされますが、減点は技に関わらずすべての動作に対して評価されるものなので、この減点を少しでも少なくするのが「演技」というものなのです。

もちろんひとつの技を完璧に実施して減点0に抑えられればそれに越したことはないですが、ひとつの技を0.1の減点に収められれば、10の技を行ったときのEスコアは9.0になります。
Eスコア9点台の演技というのは誰が見ても美しい演技と言えるでしょう。

あん馬では旋回、鉄棒では車輪と、基本の動作も1回やる度にEスコアの評価の対象になるわけです。だから内村選手はなるべく車輪の数を少なくしようと演技をしているのです。

ちなみに先ほどの白井選手のゆかはEスコア8.566でした。
素晴らしいスコアです。

そしてDスコア、Eスコアともう一つ、体操競技の得点の要素としてペナルティがあります。
多くの場合はペナルティ0ですが、
よくあるのが、ゆかと跳馬における「ラインオーバー」です。
指定のエリアから足が1歩でも出るとペナルティが科せられます。
片足が出ると-0.1、両足が出ると-0.3です。

このほか、反則行為にもEスコアとは別に減点が科せられます。
審判に挨拶をしてから既定の時間を超えて演技を始める、審判に挨拶をせずに演技を終える、など細かな反則規定があります。
実際に大きな国際大会でこれらの反則行為で金メダルを逃した事例があります。

体操競技の得点は、加点方式のDスコア、減点方式のEスコア、ペナルティによって決定点が出されます。
今回紹介した白井選手のゆかの演技は
Dスコア=7.2 Eスコア=8.566 ペナルティ=0.0
決定点=15.766 となりました。

白井選手はこの年の世界選手権種目別ゆかで見事金メダルを獲得しています。


今回は体操競技の初歩的なルールについて説明しました。
次の記事では、体操における各種目ごとの基本的な情報や技、ルールについて書いています。
今後ともよろしくお願いします。

東京オリンピックが少しでも楽しいものになるように、僕もこのnoteを通して力になれたらと思います。


追記:この記事を書いてる途中、白井健三選手の現役引退が発表されました。永きに渡り体操界を盛り上げてくれた白井選手、本当にお疲れさまでした。

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