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2021年東京オリンピック ROC(ロシアオリンピック委員会)男子の予選の演技

ロシアの団体といえば、1996年のアトランタ五輪で優勝、2000年シドニー五輪で銅メダルを獲得してから、アテネ、北京、ロンドンとメダルからは遠ざかります。
そして2016年ついにリオ五輪で日本に次ぐ団体銀メダルを獲得しました。以降団体としての力を付けていき、2019年世界選手権には団体金メダルを獲得するまでになりました。
ロシアは東京オリンピック・パラリンピックでは組織的なドーピング問題でROC(ロシアオリンピック委員会)RPC(ロシアパラリンピック委員会)の代表として、国旗も国歌も使用を許されていません。
しかし、個人でやっているこの記事には関係のないことなので「ロシア」と表記させていただきます。
10年間代表に入り続けるベテランとオリンピック初出場の若手が混在するパワフルなチームの予選での演技がどのようなものだったのか。見てみましょう。

※当記事では、動画資料としてNHKの見逃し配信を使用しています。配信期間が未確定のため、しばらく経つと配信停止により見られなくなる場合がございます。ご承知ください。

第1ローテーション:つり輪

▼ダビド・ベルヤフスキー(00:10:25~)

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つり輪は苦手種目としていましたが、近年は中水平を取り入れたり終末技を伸身新月面にしたりとDスコアを上げてきました。
1技目はE難度の振り上がり中水平をやっていましたが、F難度の①後転中水平に難度を上げています。
その流れでアザリアンを②ナカヤマ十字に変えています。こちらは難度の変動はありません。
⑥ホンマ十字の精度も良くなっています。終末技の着地も止めました。
トップバッターとして完璧な役割を果たします。

▼ニキータ・ナゴルニー(00:13:40~)

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2017年からずっと変わらない演技構成をここでも披露します。
本来なら14.500は狙えるナゴルニーのつり輪ですが、思うようにEスコアが伸びません。⑦振り上がり開脚上水平で少し動いたのが響いたのでしょうか。⑨後ろ振り倒立でも倒立が上手くハマっていないように見えます。着地は1歩動きましたがこれは許容範囲内でしょう。
このような細かいミスでEスコアが引かれるのでどんなに長年やってる熟達された演技構成でも油断はできません。

▼デニス・アブリャジン(00:16:15~)

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種目を絞って出場するマルチタレントのアブリャジン。中国の鄒と同様、団体にはありがたい人材です。
➀ヤン・ミンヨン⑥振り上がり上水平はつり輪っ子らしく閉脚で決めますが、若干脚の位置が低くなってしまいます。静止してから脚を水平に持ち上げるような実施になっていますね。
②後転中水平③蹴上がり中水平⑦ナカヤマ十字では手首を巻き込まず、一番遠い位置で輪を握る理想的な力技を見せてくれます。
④ヤマワキ⑤ジョナサンの振動技、⑧後ろ振り倒立⑨翻転倒立といった倒立技でも、ほかの選手にはない雄大さが目を瞠ります。
終末の⑩伸身新月面も余裕のある着地。
高得点を出して種目別決勝に進みました。

▼アルトゥール・ダラロヤン(00:19:10~)

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ナゴルニーと全く同じ演技構成。ナゴルニーとダラロヤンは旧知の親友でもあります。
ダラロヤンは終末技を伸身新月面に変えたこともありましたが、ここでは⑩抱え込みの新月面に落ち着いています。
力技の止めがはっきりしていてメリハリが効いている良い演技ですね。
ナゴルニーよりも高いEスコアをマークしました。

▼アレクサンドル・カルツェフ(00:21:25~)

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19歳の若手カルツェフ。もともと団体メンバーとしての代表選出でしたが、アブリャジンと交替して個人での出場という事になりました。
ヨーロッパ選手権ではロシアの大陸枠獲得の当事者となりましたが、個人総合の力は世界と戦えるほど高いというわけではありません。ロシアにはナゴルニー、ダラロヤンという世界チャンピオンに加え、今も尚個人総合で高い水準を維持するベルヤフスキーというベテランもいます。
カルツェフのつり輪はまだ発展途上という印象。先に演技した4人よりもDスコアはかなり劣ります。しかし、Eスコアは良い点が出ていて、ゆかが得意な選手らしく、終末はきっちり⑤新月面で降ります。


アブリャジンが種目別決勝進出を決めたつり輪では、ロシアは全チーム中唯一の43点台、種目別トップの点数で終えました。
ナゴルニーが1種目めの長年変わらない構成にも関わらず、いつもの調子が出ていないような印象も見られたところが唯一不安材料となっています。
時間的に朝イチの演技だったことも影響しているかもしれません。
ベルヤフスキーも苦手種目ながら14点台に乗せる健闘を見せました。
ロシアにとっては得意種目が続く前半ローテーション3種目のひとつ目が終わりました。

第2ローテーション:跳馬

▼ダビド・ベルヤフスキー(00:29:30~)

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ロペスを跳び始めたのは2017年から。それまでは屈身で後方に2回宙返りをするル・ユーフという技を跳んでいました。Dスコアは変わりませんが、世界選手権の個人総合決勝でル・ユーフの跳躍に失敗したことがあり、こちらの方が成功率が高いと判断したのかもしれません。
ロペスを跳んでからは、試合によっては難度を下げてドリッグスにすることもあり、安定しているとは言えないようです。
ここでの実施は、脚割れが目立つ空中姿勢、着地時のに明確なひねり不足が見られます。Eスコアにも大きく響いて9点台を割ってしまいます。

▼ニキータ・ナゴルニー(00:32:00~)

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跳馬の種目別決勝を狙う選手は予選で2本の跳躍を揃えなければなりません。1本目は個人総合でも使っているドラグレスク。実施は良好で着地は前に1歩。
2本目はル・ユーフ。ナゴルニーはシニア1年目の頃はロペスを使ってヨーロッパ選手権の種目別跳馬で優勝しています。やがて、ベルヤフスキーとは逆にロペスからル・ユーフに変えて世界選手権の種目別跳馬を制します。
2本目のル・ユーフは空中での脚割れはありますが、着地をほぼ止める素晴らしい跳躍で2本ともEスコアは9点台。種目別決勝に進みます。

▼デニス・アブリャジン(00:34:35~)

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こちらも種目別を狙うアブリャジン。
1本目は前転とび2回半ひねりのヨー2。高さも飛距離も空中姿勢も良く、着地もほぼ止める素晴らしい跳躍。団体の得点には1本目の跳躍が反映されます。
2本目はナゴルニーと同じくル・ユーフですが、着地がつんのめって前に大きく1歩動きました。Eスコアは9点台に届きません。
2本の跳躍の平均が種目別跳馬予選の得点になります。アベレージではナゴルニーに届きませんが、アブリャジンも種目別決勝に進出します。

▼アルトゥール・ダラロヤン(00:37:45~)

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4月にアキレス腱を断裂し、東京オリンピック出場すら危ぶまれたダラロヤンが衝撃の跳躍を見せます。
出場はできても脚の負担を伴うゆかと跳馬は回避するかと思われましたが、跳馬を跳んできました。それもDスコア5.6の大技をです。
ダラロヤンが跳んだのはル・ユーフとは反対で、前方に屈身で2回宙返りをするブラニクという技。膝の緩みと脚の開きから綺麗な屈身姿勢とは言えませんが、着地は小さく1歩にまとめます。
アキレスがギリシャ神話の英雄であるように、ダラロヤンは不死のアキレス腱を持つ英雄なのでしょうか。(?)

▼アレクサンドル・カルツェフ(00:39:40~)

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空中姿勢もきれいで着地は小さく1歩。Eスコアも高く出ていて、決定点はロペスを跳んだベルヤフスキーよりも高く出ています。
Dスコア5.2の技を跳ぶにはEスコア9.0では心許ないんですよね。これくらい綺麗な実施でEスコアは9.3が出せれば14点台後半に乗せられます。
ドリッグス使いとして理想的な実施と点数が出ていると思います。


団体メンバーはそれぞれ技が違えど全員が5.6を跳ぶという強さを見せます。
4月のダラロヤンのアキレス腱断裂の報はすぐに体操界に伝播し、東京五輪には出られないのではないかと皆が落胆しました。それから3カ月。東京五輪に姿を見せたダラロヤンの跳躍には体操界隈皆が衝撃を受けました。
跳んで成功させただけでなく、しっかりチーム得点にも貢献します。
つり輪に続いて跳馬でも予選全体トップのスコアでした。

第3ローテーション:平行棒

▼ニキータ・ナゴルニー(00:55:00~)

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先陣を切るのは個人総合チャンピオン、ナゴルニー。
冒頭は②シャルロをやろうとしていますが、単棒倒立が止まりません。この場合はE難度のシャルロは不認定D難度の②棒下宙返り倒立として認定されます。
ナゴルニーは②シャルロの後に単棒ヒーリー(E難度)をやるのが本来の演技構成ですが、単棒倒立が成功せず、単棒ヒーリーが構成から抜けてしまったために補填として同じグループⅠから⑨ツイスト倒立を入れています。
シャルロ~単棒ヒーリーの流れが成功していればこの⑨ツイスト倒立はやりません。
シャルロでのミス以外は特に演技が詰まることはなく、Eスコアは高く出ています。鉄棒と違って、平行棒はEスコアが割と甘めに出ている印象です。
フルの演技だとDスコアは6.4ですが、シャルロ(E難度)棒下倒立(D難度)になったことで-0.1、単棒ヒーリー(E難度)が抜けた代わりにツイスト倒立(C難度)をやっているので-0.2。合計0.3点をDスコアから落としています。

▼ダビド・ベルヤフスキー(00:57:30~)

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ベルヤフスキーの得意種目。リオ五輪で銅メダル、世界選手権でも銅メダルを獲得している種目です。
③リチャード④アームマクーツといった腕支持系の技をいれ、冒頭には今まで入れたり外したりして模索していた➀棒下ひねりを入れてDスコアは6.6と大台の6.5を超えるスコアになりました。
⑤ティッペルトからの流れは長年やっているものなので危なげもないですね。
終末技の⑩前方ダブルハーフも脚が閉じられていて着地も小さく素晴らしい実施です。
Eスコアが9点台に乗ることもありますが、今回は届きません。
種目別は予選を8位でギリギリ決勝に進めました。

▼アルトゥール・ダラロヤン(01:00:30~)

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冒頭に珍しい➀横向きでの逆上がり倒立を実施します。
その後も高難度の技をキレキレの動きで次々成功させます。
終末技は先にベルヤフスキーのものを見てしまっているので脚の開きが気になりますが着地はピタリと止めています。

▼デニス・アブリャジン⇒棄権

▼アレクサンドル・カルツェフ(01:04:00~)

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終始落ち着いたこなしで演技を完遂します。
Dスコアはロシア勢で最低ですが、Eスコアはロシア勢最高の8.900を記録。
15点には届きませんが、素晴らしい実施と高い得点で平行棒を終えます。

▼ヴラジスラフ・ポリャショフ(01:07:05~)

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個人枠で種目別に出場するポリャショフ。
種目別ワールドカップ予選では中国の尤浩と平行棒で争いましたが、その枠は尤に明け渡し、ポリャショフはロシアが既に獲得してた個人枠で出場します。
序盤には珍しい③ピアスキー(車輪単棒倒立)からの④単棒ヒーリーを成功させます。
ラストには⑨爆弾宙返りで腕支持受けから前振り上がりの勢いを使ってそのまま終末の⑩前方ダブルハーフに繋げて着地も止めます。
ダラロヤンやベルヤフスキーのようなキレはありませんが、終始しなやかで滑らかなさばきをする選手です。


団体メンバーはナゴルニーにミスがあり、14点台にとどまったものの、後続がきっちり15点台を出してチーム得点は45点台を維持します。
個人での出場となるポリャショフは15点台に乗せますが、団体メンバー2人を上回ることができず、1国2名ルールにより種目別平行棒はこの時点で予選落ちとなります。

第4ローテーション:鉄棒

▼ニキータ・ナゴルニー(01:16:10~)

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ここでもナゴルニーが先陣を切ります。
手離し技は⑥トカチェフ⑦リンチを繋げてきました。C難度とD難度の組み合わせは0.1の加点が得られます。
③モズニク⑦リンチのトカチェフを半分ひねる技はしっかり車輪に繋げられていて後処理も綺麗です。
手離し技以外のひねり技、④アドラー1回ひねり⑤アドラーひねり、さらに⑧ツォ・リミンも倒立にしっかりとハマっています。
⑩伸身新月面の着地も見事に決めて種目別決勝に進出します。

▼ダビド・ベルヤフスキー(01:18:55~)

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4月のヨーロッパ選手権の種目別鉄棒で優勝したベルヤフスキー。
とはいえ、爆発的な点が取れるわけではありません。しかし、安定して14点台が取れるという点で重宝されています。
Eスコアが厳しく取られている今大会において鉄棒でEスコアが取れるベルヤフスキーの演技は安心感があります。ここでも8点台を安定してマークして14点台に乗せます。
④伸身トカチェフ⑤リンチ⑥ヤマワキの流れに無駄がなくて綺麗ですね。

▼アルトゥール・ダラロヤン(01:21:45~)

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脚の怪我を感じさせず、Dスコアは従来のままの構成で挑みます。
➀カッシーナを掴むところで脚割れがありましたが、その後は目立ったミスなく演技を通し切ります。
平行棒に続き着地を止めました。Eスコアも8点台に乗せて14点台を確保します。

▼デニス・アブリャジン⇒棄権

▼アレクサンドル・カルツェフ(01:26:20~)

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手離し技はナゴルニーと同じ5つの技を揃えますが、⑤トカチェフの後のリンチで落下してしまい、難度不認定となってしまいます。
さらに、⑦はD難度の順手背面車輪をやろうとしたものが認められず、B難度⑦シュタネイマンという技として認定されているのだと思われます。
順手背面車輪がグループⅠ:振動技なのに対し、⑦シュタネイマンはグループⅢ:バーに近い技に当たるので、グループⅠの技を1つしか入れていなかったカルツェフは、グループ点の0.5も失うことになります。
順調に通していればDスコアは6.2まで上げることができそうですが、ミスが重なってDうコアは5.0と判定されています。落下が響いてEスコアも7.000です。


団体メンバーはEスコアが厳しい中で全員が8点台を記録する好演技を繋ぎました。チーム得点は日本に次ぐ予選全体2位で終えます。
ここからロシア、特にダラロヤンには我慢の種目が続くので、種目別決勝に進むほどのナゴルニーの高得点はその後のダラロヤンにとっても救いとなる一手でした。

第5ローテーション:ゆか

▼デニス・アブリャジン(01:36:50~)

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リオ五輪が終わってから、アブリャジンはつり輪1本で世界選手権に出場していました。アブリャジンが世界大会でつり輪以外のゆか・跳馬を演技するのはリオ五輪以来のことです。
2014年に白井健三を抑えて種目別世界チャンピオンにもなったゆかでは、ルール変更の影響もあり、難度をかなり下げています。
かつてはグループⅠの技に十字倒立を使っていましたが、⑨フェドルチェンコに変えています。
冒頭の➀伸身ムーンサルトで勢いあまってラインオーバーがありましたが、そんなことは気にならないくらい➀伸身ムーンサルトの雄大さに目を惹かれます。

▼ニキータ・ナゴルニー(01:40:00~)

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冒頭で映像が切れていますが、リプレイを確認するとF難度の➀前方屈身ダブルハーフを実施していて、着地を止めています。
いまや代名詞となった3回宙返りはここでは温存。高難度の連続技に加えて、ひねり技の3連続も見せます。着地をビタビタ止めて高いEスコアを出し、決定点は15点を超えました。
種目別ゆか予選は2位で決勝に進出しました。

▼ダビド・ベルヤフスキー(01:42:35~)

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冒頭の➀前方ダブルハーフは姿勢が低くなりますが、まずまずのスタート。
しかし、直後のひねり技の組み合わせでミスが出ます。
ベルヤフスキーの本来の構成は②+③で②後方1回半ひねり前方2回ひねりを組み合わせています。それがここでは③前方伸身1回ひねりでC難度になってしまいます。これでは難度が下がるだけでなく、組み合わせ加点も失う事になります。(僕には抱え込みに見えますが、抱え込みでB難度だと計算が合わないのでこうしています。なので鵜呑みにしないでください。)
後半には十字倒立の脚の戻りが表れてしまいます。静止時間も短いのでこれは難度不認定と判断されているのだと思われます。
次の連続技でも普段は⑦後方2回半+前方伸身1回ひねりをやっていますが、前方伸身1回ひねりは既にでやってしまっているため、同一技の繰り返しになってしまうこことを避けるために⑧前方半ひねりにしているのだと思われます。組み合わせ加点は得ますが、ここでも従来より難度が下がってしまいます。
2度の五輪を経験するベテランが精彩を欠き、脚に不安を抱えるダラロヤンに望みを繋ぐ形になりました。

演技構成が合っているか不安なので間違っていたらご指摘ください。

▼アルトゥール・ダラロヤン(01:46:50~)

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2018年の種目別ゆか世界チャンピオンのダラロヤン。本来ならばもっと難度を上げた構成を準備していました。脚の怪我も影響したのか、思うような演技構成ができずに項垂れてしまいます。
脚を怪我しているとは思えない冒頭のダイナミックな②屈身ダブルのビッグタンブリング。③前方1回④前方2回半の組み合わせでは、③前方1回ひねりの着地時に正面を向いている局面がはっきりと確認できて、ひねり不足の全くない実施が見られます。直後の⑤後方2回半⑥前方1回半は、いつもならば後方2回半+前方2回D難度+D難度で0.2の加点を得られていたところ。
ここではD難度+C難度になってしまい、組み合わせ加点は+0.1。ですが、ゆかは組み合わせ加点を得られるのは2回までと決まっています。既に0.1の加点が得られる組み合わせを2つやっているので、ここでは加点は付きません。
⑧後方2回ひねりも、いつもならば抱え込みの新月面をやっていたところ。決勝でも後方2回ひねりを実施しているのでここは予定通りだったのでしょう。
脚を怪我する前はDスコア6.5まで上げていたダラロヤンですが、もともとこれより難度を下げていた上に予定通りの演技ができず、大きく点を落としてしまいます。

▼アレクサンドル・カルツェフ(01:51:05~)

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冒頭の➀屈身ダブルハーフは高さと迫力があって豪快な実施ですが、片足のラインオーバーがありました。
冒頭のビッグタンブリング以外はC難度とD難度の組み合わせで冷静に堅実にひねり技の組み合わせを成功させます。滞空時間が長くてひねりが安定していますね。
終末の⑩3回ひねりもゆったりとした助走から滞空時間の長い宙返り。若干のひねり不足と2度目の片足ラインオーバーがありました。
2度のラインオーバーにより-0.2のペナルティが入ります。


過去の種目別チャンピオン2人を擁し、役者は揃っていただけに、得意種目のゆかでの失点は悔やまれます。
ベテランのベルヤフスキーと怪我明けのダラロヤンは本来の演技構成から難度を下げたうえに予定のDスコアを取れずに終わるという結果になりました。
一方で、ナゴルニーが3回宙返りを温存していながら大台の15点台に乗せています。
最終ローテーションを残してダラロヤンが項垂れて泣いている様子からは、見ているこちらも団体の行方が心配になります。

第6ローテーション:あん馬

▼アルトゥール・ダラロヤン(02:00:55~)

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Dスコアは高くはないものの、③ブスナリからの④横向きシュピンデル⑤開脚での横移動と、見せ場を作ります。
ゆかの演技が思うようにいかず項垂れて泣いていた直後の演技で、やるべき仕事をしっかりこなしました。
縦向きの移動技では足先が不安定な旋回ですが、リズムは崩れる事はありません。Eスコアは8点台をキープ。ダラロヤンにとっては及第点です。

▼ニキータ・ナゴルニー(02:04:00~)

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見た目はつり輪っ子体系なのにあん馬もできちゃうのがナゴルニーの凄いところ。リズムも良く危なげのない演技で通し切ります。
ここでは④Dコンバインをやっていますが、過去にEコンバインも試合で使っています。
⑥ウ・グォニアンは馬端外向きから始めてポメルを使って2周回りながら移動する珍しい実施を見せます。
スムーズで綺麗な実施に見えましたが、存外Eスコアは伸びませんでした。

▼ダビド・ベルヤフスキー(02:06:55~)

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ナゴルニーよりも少しテンポアップした、小気味良い心地良いアップミドルの旋回です。
あん馬の得意な選手らしく、③Eコンバインを軽やかに決めます。その直後にはナゴルニーと同様、馬端外向きから始まってポメルを使った④ウ・グォニアンを実施。⑤ロスでバランスを崩しかけていますが、問題なく対処して旋回に繋げています。⑥マジャールシュピンデルからの⑦Eフロップには抑揚があって良いですね。
抜群のテクニックで演技を通し切り、種目別決勝に進みました。

▼デニス・アブリャジン⇒棄権

▼アレクサンドル・カルツェフ(02:10:45~)

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脇が締まっていて安定した旋回です。
旋回技の冒頭にはナゴルニー、ベルヤフスキーもやっていた②ショーンを決めますが、④Dコンバインで姿勢が大きく崩れてしまいます。
その後は焦らず臆せずリズムを崩さず落ち着いた旋回演技を通します。
やはり脚割れが響いてEスコアは8点を割ってしまいます。

▼ヴラジスラフ・ポリャショフ(02:13:35~)

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冒頭は➀とびひねりセア②セア倒立でセア系のバリエーションを見せます。
旋回技はまず閉脚で③ショーン④Eフロップ、さらにF難度の⑤ブスナリで熟達したテクニックを見せます。
⑤ブスナリは倒立に上げる・倒立でひねる・おろして旋回、すべての要素が流麗で卓抜した実施に惹かれます。
⑤ブスナリの後は開脚旋回ブロック。まずは旋回で1回ひねる⑥横向きシュピンデル、横向きのまま横方向に移動する⑦正面横移動、更に縦向きで⑧⑨開脚前後移動、そして⑤ブスナリのように滑らかな⑩終末技で演技を終えます。
⑥横向きシュピンデルでは半分ひねったところでひねりが止まってしまい。B難度の⑥1/2シュピンデルになってしまいます。
⑨開脚でのシバドは縦向きで行う技なのですが、このカメラアングルでお腹が見えてしまうくらい斜めを向いて後ろ移動をしています。
あまりに角度をつけてしまうと、審判によっては縦向き後ろ移動ではなく横向きの横移動と取られかねません。しかし、ここではしっかり縦向き後ろ移動で認定されているようです。
Dスコア6.4を持つスペシャリストですが、⑥横向きシュピンデルでのミスによって0.2落としてしまいます。実施の割にEスコアが出ていないのはおそらく⑨開脚シバドでの旋回の向きの角度が大きく影響しているのだと推測できます。


ロシアのあん馬は、アブリャジンがもともと演技はせず、ダラロヤンは点が取れる選手ではないので、ナゴルニーとベルヤフスキーに懸かっていました。2人の健闘で平均14点となる42点超えは守り抜きます。しかし、日本・中国・イギリスとあん馬の得意なチームに上をいかれます。
ダラロヤンが取るべき点をしっかり取ってくれたことで後続の気持ちが和らいだと思います。



ロシアは団体を3位で予選通過。
2019年世界選手権の金メダルチームであり、個人総合金メダリスト2人を擁する、団体金メダル最有力とされました。4月のダラロヤンの怪我の報せは、その期待が音を立てずに割れて失くなってしまったかのように思えました。
しかし、東京に姿を見せたダラロヤンはゆかも跳馬も演技し、期待以上の衝撃を我々にもたらしました。
2019年の個人総合チャンピオンであるナゴルニーは小さなミスが重なりながら87点を獲得し、個人総合を2位で通過します。
ベルヤフスキーも全種目演技しました。上位24人が決勝に進める個人総合では、ベルヤフスキーは10位に付けます。しかし、ナゴルニーとダラロヤンの得点を下回っていたため、1国2名ルールにより個人総合は予選落ちとなってしまいます。
ポリャショフはあん馬でミスがありましたが、平行棒で会心の演技。しかし、平行棒の壁は高く、種目別決勝へは進めませんでした。
カルツェフは19歳で初めてのオリンピック。団体から外れて、6種目をのびのびと精一杯頑張りました。
カルツェフに変わって団体入りしたアブリャジンはつり輪と跳馬で種目別決勝に進んで期待以上の活躍を見せています。
スペシャリストとしてオリンピックを2度経験しているアブリャジンは、スペシャリストのメンタルの持ちようをを心得ているのでしょうね。

ロシアチームは団体決勝、個人総合決勝、さらに種目別ではすべての種目で決勝に進出するという素晴らしい結果を残しています。
ロシアの選手の色の豊富さ、すべての種目において強さを見せられる事を知らしめました。




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