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2021年東京オリンピック イギリス男子の予選の演技

自国開催だった2012年ロンドンオリンピックでは団体銅メダルを獲得したイギリス。イギリスが団体で銅メダルを獲るのは100年ぶりのことでした。
更に2015年の自国開催の世界選手権では団体銀メダルを獲得しています。
イギリスが団体でメダルを獲得したのはこの2015年が最後。
リオ五輪の代表メンバーはほとんどが引退し、五輪経験者はリオ五輪で個人総合銅メダル、種目別ゆか・あん馬2冠のマックス・ウィットロックのみになりました。
そのマックスが個人総合から退き、新たにジョー・フレイサーを団体の要に、そして爆発力のジャーニーとバランサーのジェームスを置いた4人の若きイギリスチームがロシア・中国・日本の3強に抗います。


第1ローテーション:つり輪

▼ジェームス・ホール(00:08:50~)

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➀アザリアンはゆっくりと、②振り上がり中水平は足が少し下がってしまいます。③ホンマ十字も良い実施。⑥振り上がり開脚上水平は腰の伸びた美しい姿勢。力技はまずまずの実施を見せます。
⑧後ろ振り倒立では倒立からの逸脱が見られますが、すぐに修正します。
終末は⑩新月面で着地はまずまず。若干ひねり不足が見られます。

▼ジョー・フレイサー(00:11:55~)

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➀後転中水平から②蹴上がり中水平、少し肩の位置が高いでしょうか。
⑥振り上がり開脚上水平は腰がまっすぐ伸びています。⑦後ろ振り倒立の収めも綺麗でケーブルの揺れもほとんどありません。
終末は⑩新月面で小さく1歩。14.400というスペシャリスト並みの高い点を出します。

▼ジャーニー・レジニ・モラン(00:14:40~)

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➀振り上がり開脚上水平から入って②翻転倒立③後ろ振り倒立と倒立技を連続。ここからケーブルの揺れが少し目立ちます。大きな力技はありませんが、基本的な技を着実にこなして終末は⑩新月面。着地は小さく1歩。

▼マックス・ウィットロック⇒棄権


イギリスにはつり輪のスペシャリストであるタロックという選手がいますが、彼が団体から外れたことでつり輪は我慢の種目となりました。
しかし、ジョーが14.400という高い得点を出して得点源となります。
ひょろひょろしてたジョーが筋肉隆々になってつり輪でこんなに点が獲れるようになるなんておじさんは驚きました。

第2ローテーション:跳馬

▼ジェームス・ホール(00:28:30~)

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着手の脚の開きも小さく、高さも余裕のあるドリッグス
ひねり不足もなく、上半身が高い位置で着地しています。小さく1歩にまとめました。

▼ジョー・フレイサー(00:29:45~)

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高難度のロペスを跳びますが、空中で脚が割れるのが見て取れます。軌道も曲がっていてライン外に直接着地してしまいました。ひねりも強引にひねりきっている感じですね。
マットの外に大きく1歩動いてしまい、Eスコアを大きく落としてしまいます。

▼ジャーニー・レジニ・モラン(00:32:00~)

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ヨーロッパ選手権の種目別で銅メダルを獲っているジャーニーの跳馬。
1本目は➀ロペス。高さも十分でひねり不足もありません。空中姿勢は少し足割れがありますが良好な跳躍。着地は後ろに1歩。

2本目は②ドラグレスク。助走の勢いは良かったものの、高さがあまり出ず、着地で前に潰れてしまいました。ひねり不足も見られます。
ヨーロッパ選手権の再演とはなりませんでした。

▼マックス・ウィットロック⇒棄権


ロペスを跳んで得点源になるはずだったジョーがEスコアを大きく落とし、チーム得点となる1本目は決めましたが、種目別を狙った2本目で沈んでしまいました。ジェームスのドリッグスもEスコアが伸びず、ここでチーム得点に遅れをとります。

第3ローテーション:平行棒

▼マックス・ウィットロック(00:51:10~)

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リオ五輪の個人総合銅メダリストが今回は種目を絞っての出場。
モリスエなどの派手な技を抜いて、従来よりもDスコアの低い構成を披露します。
とりわけ得意種目とは言えませんが着実な実施で、⑦Dツイストからの⑧単棒横向き閉脚シンピ倒立もスムーズな流れでさばきがカッコいいです。

▼ジャーニー・レジニ・モラン(00:53:55~)

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冒頭の➀ホンマは浮力があって滑らかに倒立まで上げています。
直後に②リチャード(アームディアミドフ)を実施してトレンドも抑えます。
⑤Dツイストは単棒倒立がしっかりハマっていて⑦バブサーも滑らかな実施。
先のマックスの演技と随所に技のさばきが似ていておもしろいですね。

▼ジェームス・ホール(00:56:50~)

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前半の③棒下倒立で腰が反ってしまいます。
⑤マクーツ⑥ヒーリーはお手の物、⑦Dツイストはフワッと滞空時間があって手馴れた実施。
演技の後半に世界でもやる人がほとんどいない⑧爆弾宙返り支持を成功させました。
終盤の⑨ツイスト倒立は倒立にハマらず流れる実施になりましたが、終末の⑩前方ダブルは着地を止めました。さすがのリカバリー。

▼ジョー・フレイサー(00:59:45~)

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2019年世界選手権種目別平行棒金メダリスト。
金メダルを獲った時とは、技の順番を変えていて、②タナカ③タジェダを冒頭に持ってきています。
⑥ピアスキーからの⑦単棒ヒーリーは後半に持っていきますが、倒立に持っていく時に力を使う局面が見られます。
それでもEスコアは高く出て15.400という高得点をマーク。チャンピオンの威厳を見せて種目別決勝に進みます。


比較的皆が点を取れる種目ですが、決定点で劣るマックスを先頭に出すことで、ほか3人の休憩ポイント且つチームの士気向上且つミスが出たときの保険にもなっているわけですね。
マックスの好演技に続いて3人とも好演技を続けました。直近の種目別チャンピオンであるジョーは得意種目で爆発してチーム得点を爆上げします。しかし、平行棒は割とどの国も得意としているので、差を縮めることはできません。

第4ローテーション:鉄棒

▼ジャーニー・レジニ・モラン(01:09:25~)

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冒頭に①屈身コバチからの②抱え込みコバチ。どちらも雄大に決まっています。
⑤アドラーからの⑥大逆手車輪、さらにそこから⑦ロシア式車輪へ繋げる流れも淀みなく遂行。
⑩伸身新月面は迫力があります。

▼ジェームス・ホール(01:11:55~)

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冒頭に①カッシーナ②コバチ③コールマンと、華のある技を次々繰り出します。高さは出ていませんが、キレのあるひねりと宙返りでしなやかなさばきを見せました。
ひねり技も手馴れていて、倒立に近い位置で収めようとしている姿勢がよく見えます。
⑩伸身新月面は着地への準備が不十分ですが問題なく着地へ向かいました。
14点超えでチーム最高得点、得意種目でしっかり貢献しました。

▼ジョー・フレイサー(01:15:00~)

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冒頭に珍しい前方系の手離し技②ペガンを完璧に決めます!
③伸身トカチェフからの④カッシーナ⑤コールマンといった華やかな手放し技も流麗に決めました。
片手車輪の⑥ツォ・リミンも美しく雄大に、⑩伸身新月面は足割れもありますが、着地は小さくまとめました。
ジェームスと同じDスコアですが、Eスコアでは及ばず、13点台にとどまります。

▼マックス・ウィットロック(01:18:05~)

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➀エンドー1回ひねり大逆手から入ります。大逆手を掴んだ時の角度は倒立に近い位置で掴んでいて素晴らしい実施。
直後の②ヤマワキはキレがあって迫力のある実施。
最近ではやる選手が減っている⑤リバルコを実施。こちらも良い角度で収めています。⑨ホップターンの手さばきも独特でカッコいいです。
終末の⑩伸身新月面は着地を止める会心の演技。
減点されやすいひねり技を多用していながら、Eスコアは予選全体で5番目に高いスコアを出しました。


鉄棒でマックスの得点がチーム得点に反映されました。大会を通してEスコアが厳しく取られている中でこれだけのスコアを出せるのは素晴らしいです。ジャーニーの鉄棒は派手さの割に点が出ないので、マックスのEスコアでカバーする。マックスが種目を絞ったことで団体での役割が明確になっています。
鉄棒を得意とするジェームスはここでチーム最高得点を出して貢献しました。

第5ローテーション:ゆか

▼ジェームス・ホール(01:30:00~)

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前転とび(ハンドスプリング)後転とび(バック転)を多用して演技にメリハリを持たせます。
冒頭の2回宙返り系、①前方屈身ダブルと②新月面は高さがあって良好な実施。
ひねり技の連続は④前宙ハーフ⑦伸身前宙といったB難度の技で着地を確実に収めます。
終末の⑩3回ひねりも小さく1歩にまとめました。

▼ジョー・フレイサー(01:33:05~)

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冒頭に①前方ダブルハーフ②後方2回半+③前方1回半でひねり技の連続、そして④新月面と続きます。
2019年には後半にやっていたひねり技の組み合わせを頭の方に持ってきました。
中盤のひねりの連続、⑤前方2回ひねり+⑥前方半ひねりでは踏み切りが詰まったような実施になりました。
終末の⑩月面宙返りは着地をピタリと止めます。
着地は全体的に胸の位置が低い姿勢になっていますが、安定感が見える演技でした。終末技の着地が止まると気持ちいですね。

▼ジャーニー・レジニ・モラン(01:36:20~)

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冒頭からF難度の①伸身新月面を実施!しかし着地時に片足のラインオーバーがありました。
そこからダブル系の技をさらに3つ、②抱え込みの新月面③前方屈身ダブルハーフ④前方屈身ダブルと高さと迫力のある実施が続きます。
宙返りの派手さと着地の強さが光ります。
ひねりの連続は⑤前方2回ひねり+⑥前方ハーフの1コースのみ。ここでもしっかり着地を止めます。
終末の⑩3回ひねりも小さくまとめて高得点を出しますが、種目別決勝には0.1届きませんでした。
ラインオーバーが悔やまれます。

▼マックス・ウィットロック⇒棄権


リオ五輪で種目別金メダルを獲っているマックスはゆかは演技せず。
ここはジャーニーの頑張りどころです。
3人とも着地が良くまとまっていて素晴らしい演技を繋げました。
Dスコアの低めな2人が着地を丁寧に止めて、3人目のジャーニーもそれに続いて着地をまとめて高いEスコアで得点源になりました。

第6ローテーション:あん馬

▼ジョー・フレイサー(01:53:25~)

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すべての技をD難度以上でそろえてDスコアは6.3とハイレベルな演技構成。
冒頭の➀バックセア倒立②セア倒立の2つは停滞がなくスムーズに倒立に上がっていて素晴らしいです。
⑤ウ・グォニアン~⑥馬端1080°~⑦ロスの下向き転向(ロシアン)系のブロックでは旋回を挟むことなく、ロシアンを続けたまま3つの技を繋げています。高いバランス感覚がなせる業ですね。
決定点は14.666と高いスコアが出ています。
種目別決勝には0.067点届きませんでした。

▼ジェームス・ホール(01:56:00~)

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➀セア倒立を成功させた後は怒涛のE難度攻め。
②Eコンバインで他との一線を画し、③Eフロップで確実に、④ショーンでテクニックを見せて、⑤ウ・グォニアンから直接⑥ロスに繋げてヌルっとD難度ブロックに移行します。
④ショーンの前に旋回を余計に多く回っていた事で減点が重なってしまったのか、Eスコアは8点を割ってしまいました。

▼マックス・ウィットロック(01:58:40~)

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2016年リオ五輪のあん馬チャンピオンであり、直近の世界選手権のあん馬チャンピオンでもある正真正銘のディフェンディングチャンピオン。マックスの本業であるあん馬です。
演技初めのコンバインはひとつのポメル上で2回旋回した後に下向きで3周(1080°)回るGコンバインではなく下向きで2周(720°)回る②Fコンバインに難度を下げています。
大技④ブスナリはさすがの安定感です。失敗する気配がしません。
⑤開脚での前移動から単純な後ろ移動ではなく、後ろに移動しながら1回ひねる⑥ウルジカ2で個性を見せます。
直後の⑦ロスで脚が割れてしまいますが、すぐに立て直して⑩終末技もE難度からD難度に下げて通しました。
フル構成ではD7.0のところを、予選ではD6.8に下げて確実に演技を通して無事種目別決勝に進みます。

▼ジャーニー・レジニ・モラン(02:01:30~)

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順調に旋回技を続けた後にF難度のブスナリに挑戦しましたが落下してしまいました。難度不認定でDスコアから0.6と、Eスコアから1.0をを失います。
旋回から倒立の上げ方がスムーズで質の良い実施なことが⑩終末技からもうかがえます。
落下したブスナリの代わりにA難度の旋回がDスコアに反映されてDスコアは5.3。
通していればDスコアは5.8まで上げることができました。決定点も12点台に沈んでしまいます。


イギリスといえばあん馬と言われてきました。
世界チャンピオンのマックスのほかにルイス・スミス、ダニエル・キーティングスと、世界トップクラスの選手がそろっていたイギリスはあん馬では敵なしでした。
今ではスミスもキーティングスも引退し、かつての爆発力はなくなりました。
それでもイギリスはあん馬が強かったのです。
ジョーはヨーロッパ選手権の種目別あん馬で銅メダルを獲得するなど実績を残し、ここでもスペシャリスト級の高得点を出すほどに強くなりました。
ジェームスもE難度を積んでDスコアを上げ、14点台を維持する活躍。
そしてマックスは小さなミスがありながらも種目別に残る高得点を出して仕事をやってのけます。


若返ったイギリスチームは予選を終えて全体5位で団体決勝へ進みます。
予選で6種目すべての得点がチーム得点に反映されたジョーとジェームスは個人総合決勝へ。ジョーは個人総合予選5位通過という素晴らしい結果を残しました。
種目別ではあん馬でマックス、平行棒でジョーが決勝へ進みます。ジャーニーのゆか、ジョーのあん馬と、あと少しで決勝進出という惜しい結果もありました。
若いイギリスもまだまだ団体で戦えることを示せた予選になったのではないでしょうか。

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