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2021年東京オリンピック ウクライナ男子の予選の演技

ウクライナの絶対的エースであるオレグ・ベルニャエフが、ドーピング違反と判断され、東京オリンピックへの出場を叶えることができず。それでも団体権を獲得しているウクライナは団体を戦わなければなりません。
ロンドンオリンピックでは銅メダル獲得かと思われたのも束の間、日本のインクワイアリ―が認められて順位が繰り上がり、ウクライナは4位に終わるという悔しい過去を持ちます。
絶対的エースを欠き、新たに加わったのは東京オリンピック出場選手中最年少で17歳のイリア・コフトゥン。既に4月のヨーロッパ選手権で個人総合3位という結果を残す超新星です。
大会最年少と代表歴10年になるベテランのラディビロフ、そしてアゼルバイジャンへの移籍を経てウクライナに戻ってきたパフニュクと、色んなものを背負ったチームの戦いが始まります。


第1ローテーション:あん馬

▼エフゲン・ユデンコフ(00:10:15~)

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初めの①逆セア倒立は力を使うような実施でスムーズではありません。
旋回技に入り、②フクガから③ショーンへ。③ショーンの終わりで脚が割れてしまいます。
⑤後ろ1/2移動で馬端へ下がってからは下向き転向(ロシアン)ゾーンに入ります。
⑥トンフェイで逆馬端へ移動してからは⑩終末技のロシアンおりまで旋回を挟むことなくロシアン転向を続けます。⑧ロス⑨ウ・グォニアンで脚割れが見られますが、流れはきれいで失速はしていません。着地前の腰の伸びが良いですね。

▼ペトロ・パフニュク(00:13:25~)

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①逆セア倒立②セア倒立は脚の開きが派手に見えますが、少し慌ただしい実施になっています。
⑤マジャール移動⑥シバドと、あわや横向きに見えなくもない縦向きの旋回になっています。上体が前のめりになっていて不安定な旋回をしています。
後半はユデンコフと同様、下向き転向、ロシアン系の技を連続で実施します。こちらも⑨ウ・グォニアンで派手に脚が割れてしまいました。
Eスコアは7点を割ってしまいます。

▼イリア・コフトゥン(00:16:10~)

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E難度の技が盛りだくさんの演技構成です。
ヨーロッパ選手権の時よりも難度を下げています。
③Eフロップから④Eコンバイン、そして⑤倒立に上げて開脚支持に降ろして⑥真ん中でロシアン転向
次は何をしてくれるんだろうとわくわくする演技構成です。
⑤中技でやっていた倒立技は、手を着きながら移動する場面で若干の停滞、⑩終末の倒立技では倒立に上げる局面で若干の停滞委がありました。
セアから旋回に繋げるこなしは独特の動きを見せていて個性的な演技です。

▼イゴール・ラディビロフ⇒棄権


1種目めはあん馬の得意な最年少に救われる形になりました。
スペシャリストであるラディビロフが演技をしていないことで、3人全員の得点がチーム得点に反映されてしまいます。
この状況下でベテランの2人が精彩を欠き12点台が2つ出てしまいました。
得点源のコフトゥンもEスコアが伸びず、14点台に乗りません。
厳しいスタートになりました。

第2ローテーション:つり輪

▼エフゲン・ユデンコフ(00:29:40~)

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冒頭に珍しい①バランディン1から入ります。さらに②振り上がり中水平で中水平を2本。少し肩の位置が高いですが、静止はバッチリです。
後半の力技では振り上がり局面で肘が曲がっていたり、静止が短かったりと不十分な実施が目立ちます。
終末に向かう⑨後方車輪の体の伸びが良いですね。
⑩新月面の着地はあわただしくなりましたがなんとか持ちこたえました。

▼イゴール・ラディビロフ(00:32:55~)

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ここでスペシャリストの登場です。
冒頭にヤン・ミンヨンを持っていますが、ここでは回避します。
冒頭に持ってきたのはF難度の①後転中水平。姿勢も止めも素晴らしいです。さらに③十字倒立を実施します。減点されやすい十字倒立をこの場面で実施する勇敢さには敬服するばかりです。
振動技と力技を巧みに織り交ぜます。スペシャリストらしく、中盤に⑥振り上がり中水平を持ってくる強さを見せてくれます。
終末の⑩新月面は前かがみになり、前に大きく1歩。
ようやく14点台が出ました。

▼イリア・コフトゥン(00:35:50~)

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①振り上がり開脚上水平から入ります。②ヤマワキ③ジョナサンはゆったりと。
④脚前挙から⑤シンピで倒立に上げて⑦⑧振動倒立技を2つ続けます。倒立はグラついていてケーブルの揺れも見られます。
終末の⑨新月面は着地姿勢が低くなってしまいました。
Eスコアは十分ですが、Dスコアが4点台で決定点は12点台。

▼ペトロ・パフニュク(00:38:50~)

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冒頭は①後転中水平から②蹴上がり中水平、中水平を2本続けました。少し静止時間が足りてない気がします。④ヤマワキ⑤ジョナサンは高さのある雄大な実施です。⑥振り上がり開脚上水平は腰がまっすぐ伸びていて美しさが見られます。
終末は⑨前方屈身ダブル。屈身姿勢が綺麗で膝が曲がっていません。着地も小さくまとめていて素晴らしい演技です。
中水平を入れていますが、A難度が入っていたり、技数が9しかないので、Dスコアはそれほど高くありません。


つり輪の苦手なオールラウンダー勢を助けるようなラディビロフの高得点が光ります。
ラディビロフは、2016年リオ五輪では種目別つり輪の決勝に進んでいましたが、今回は難度を落とした影響で決勝には進めませんでした。
コフトゥンもパフニュクも技数が9つしかありません。苦手ながらよく頑張りました。
このところつり輪での活躍が見られるユデンコフが13点台後半にのせたかったところでしょうか。

第3ローテーション:跳馬

▼エフゲン・ユデンコフ(00:53:05~)

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ここもトップバッターはユデンコフ。こじんまりとした印象の跳躍です。
着手時の脚割れに加え、空中でも脚割れが見られます。着地は最小限に抑えました。

▼イリア・コフトゥン(00:54:20~)

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ユルチェンコ2回ひねりを実施。助走のスピードをそのままに跳躍に向かい、空中姿勢も良く、着地も小さく1歩。Eスコアは9点台にのせました。

▼ペトロ・パフニュク(00:55:40~)

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スピード感と飛距離のあるドリッグス。前向きの難しい着地ですが、1歩にまとめました。高さが出なかったのと、若干のひねり不足があったでしょうか、Eスコアは9点台にのりませんでした。

▼イゴール・ラディビロフ(00:57:10~)

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2012年ロンドンオリンピック種目別銅メダル獲得経験のあるラディビロフの跳馬。
1本目は10年以上跳び続けている①ドラグレスク。高さは抜群、着地に向かう準備局面も見られて余裕がうかがえます。着地は確実に決めたかったところですが、2歩動いてしまいました。
ワールドカップやヨーロッパ選手権では屈身のドラグレスク「リ・セグァン2」を披露していますが、ここでは実施しませんでした。
2本目は着地の難しい②ル・ユーフ。こちらも10年以上跳び続けている技。
高さと姿勢は十分で迫力のある跳躍。しかし、着地で前かがみになり、そのまま前に歩いてマットに手を着いてしまいました。
Eスコアは8点を割ってしまい、種目別決勝への道を断たれてしまいます。


ラディビロフの2本目は残念な結果になりましたが、チーム得点には1本目の得点が反映されます。
Dスコアの高い技を持つラディビロフとパフニュクが成功した事で、チーム得点はほかと引けを取らない得点に落ち着いています。

第4ローテーション:平行棒

▼エフゲン・ユデンコフ(01:17:15~)

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初めに②アームツイストから入ります。脚割れが目立って力を使っているのが見受けられます。③棒下ひねり倒立はスムーズに倒立まで上げていて素晴らしい実施。
演技後半にE難度の⑦マクーツを入れているのが良いですね。
倒立の止めの表現が少なく、慌ただしい演技という印象を受けてしまいます。
終末は⑩前方ダブルで着地はきれいに収まっています。本人も満足そう。

▼イリア・コフトゥン(01:19:45~)

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初めに新技申請した①腕支持からのDツイストを実施しました!どうやらF難度で認定されているようです。単棒倒立の止めが短く、姿勢も良くはないので減点はそれなりにされているでしょう。
その後は、②棒下ひねり③シャルロ④単棒ヒーリーとE難度を連発。
③シャルロでは肘が曲がったり腰が反ったりしています。
ディアミドフ・ヒーリー系のバランスが必要なひねり技を多用していますが、安定感は感じられません。
F難度が2つ、E難度が4つでDスコアは6.8という驚異の演技構成を披露しましたが、Eスコアは大幅に減点されて15点にはのりません。

▼ペトロ・パフニュク(01:22:45~)

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初めに自身の名が付けられた腕支持からの爆弾宙返り①パフニュクを実施しました!熟練度が感じられる素晴らしい実施です。
さらにE難度技が続きます。②シャルロ~③単棒ヒーリー、とても落ち着いていて危なげのない実施です。④マクーツでは倒立からヒーリーで下ろす時に足先が若干割れてしまいます。⑤棒下ひねり倒立は倒立で静止せずにすぐに⑥車輪に繋げていて流れるような実施になりました。
終末の⑩前方ダブルハーフは小さく1歩に抑えます。
高いDスコアを無事に通して種目別決勝に進みました。

▼イゴール・ラディビロフ⇒棄権

ここはウクライナの力の見せどころでした。
パフニュクが15点台にのせて種目別決勝に進出。コフトゥンもハードな構成を通し切りました。
ソ連より独立してから3人ものオリンピックチャンピオンを輩出しているウクライナの平行棒。その底力を見せました。

第5ローテーション:鉄棒

▼エフゲン・ユデンコフ(01:36:55~)

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初めにヤマワキを実施していますが、腰が折れていて屈身と判断されているようです。
⑤アドラー1回ひねり⑥アドラーハーフと、アドラー系は問題なく実施出kています。
終末の⑩伸身新月面はひねり切りが早くて着地への準備ができている良い実施です。
元々低いDスコアをさらに落としてしまったのは痛いです。

▼ペトロ・パフニュク(01:39:30~)

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②チェコ式車輪から入りますが、C難度のケステには繋げられず、B難度の③シュタネイマンがDスコアに反映されます。
⑤トカチェフ⑥リンチは開脚度合いも良く、つま先が伸びていて美しいと思える実施です。
⑦アドラー1回ひねりは片逆手でD難度ですが、倒立にハメた直後に手を握り変えています。難度は獲れますが、慌ただしい印象を与えてしまいますね。

▼イリア・コフトゥン(01:42:45~)

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冒頭に①伸身トカチェフ+②リンチと、トカチェフ系の連続技で0.2の加点を得ます。しかし、②リンチの実施で少し失速し、脚が割れています。
そしてさらにシュタルダーから直接トカチェフをする技⑤ピアッティを実施。
さらに珍しい⑥ピアッティひねりも実施しました。トカチェフ系で確実にDE難度を取りに来ています。
E難度の⑦アドラー1回ひねりは僅かながら倒立からは逸脱していますが、綺麗に決まっています。

▼イゴール・ラディビロフ⇒棄権

鉄棒で点が獲れるコフトゥンがEスコアを大きく落として14点台にのりませんでした。
ユデンコフもパフニュクも本来取ろうと思っていたDスコアを取れておらず、平行棒の勢いを繋げることができません。

第6ローテーション:ゆか

▼エフゲン・ユデンコフ(02:00:30~)

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初めに①前方ダブルハーフ。回転にキレがあって着地も綺麗です。
②前方2回+③前方ハーフ④後方2回半+⑤前方1回と、ひねり技の連続技で加点を得ます。着地も問題ありません。
中技に⑥月面宙返りを入れてきました。ここでダブル系を入れてくると演技に張りができますね。
その後はC難度のひねり技を丁寧に決めてまずまずの演技。

▼イリア・コフトゥン(02:03:35~)

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冒頭に①後方3回半ひねりからの連続技を実施しましたが、②前方宙返りひねりで着地に失敗してしまいます。ここはいつもは前方伸身宙返りひねりでB難度を取って0.1の加点を得ているところなのですが、姿勢が抱え込みになったことでA難度になり、加点を得ることができません。
直後の③後方2回半+④前方1回は着地を止めます。⑤前方2回半ひねりも良い着地。
そして終盤に開脚旋回の⑧シュピンデルゴゴラーゼから⑨ゴゴラーゼと繋げます。あん馬の得意な選手だけあって旋回が大きいですね。
冒頭のミスが響いて決定点は12点台。

▼ペトロ・パフニュク(02:06:40~)

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初めの①前方1回+②前方2回ひねりは宙返りに勢いがあって良いですね。
中盤に⑤ダイビングダブル。短いコースでも確実に着地しています。
ひねり技にキレがあって着地にも余裕がある素晴らしい演技でした。

▼イゴール・ラディビロフ⇒棄権


ここでも得点源となるコフトゥンのミスで大きく点を落としてしまいます。
ベテラン2人はミスなく確実に演技を通し切りますが、爆発力に欠け、ゆかのチーム得点は全チーム中最下位の点数となってしまいました。


ウクライナ団体は8位でギリギリ予選を通過しました。
前回のリオ五輪でもベルニャエフがいながら団体は8位通過でした。
今回はベルニャエフを欠きながらも予選を通過できたことは大きな成果だったと思います。
新しくウクライナの主力として入った最年少のコフトゥンは、全種目満遍なく点が獲れる選手ですが、この予選ではその力が発揮できませんでした。
個人総合で決勝に進んだのは最年長のパフニュクと最年少のコフトゥン。
種目別決勝には平行棒でパフニュクが進出しています。
種目別要因だったラディビロフはつり輪・跳馬ともに予選落ちとなってしまいました。

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