見出し画像

5/5【COSO:5回シリーズ(第5回)】 内部監査人は、なぜCOSOを理解・習得する必要があるのか

本稿は、5 回シリーズの最終回です!かなり力が入りました。

第1回:はじめに(健康診断のメタファー)

1/5【COSO:5回シリーズ(第1回)】 内部監査人は、なぜCOSOを理解・習得する必要があるのか|TAIZO (note.com)

第2回:COSOの特徴と内部監査人にとっての重要性

2/5【COSO:5回シリーズ(第2回)】 内部監査人は、なぜCOSOを理解・習得する必要があるのか|TAIZO (note.com)

第3回:リスク管理と内部統制の違い

3/5【COSO:5回シリーズ(第3回)】 内部監査人は、なぜCOSOを理解・習得する必要があるのか|TAIZO (note.com)

第4回:COSO内部統制フレームワークとは

4/5【COSO:5回シリーズ(第4回)】 内部監査人は、なぜCOSOを理解・習得する必要があるのか|TAIZO (note.com)




第5回:COSOフレームワークの活用(例:情報漏洩リスクへの対応)

情報漏洩リスクは、現代のデジタル化されたビジネス環境において、企業が直面する最も重大なリスクの一つです。日本でも個人情報保護法の厳格化や、サイバー攻撃の高度化により、その重要性は年々増しています。

本稿では、COSOフレームワークを活用して、この情報漏洩リスクにどのように対応できるかを解説します。


1. 5つの構成要素を用いた情報漏洩リスクへの対応

 a. 統制環境:

  • 経営陣による情報セキュリティの重要性の認識と明確な方針の策定

  • 情報セキュリティに関する組織構造の確立(CISO職の設置、PDCAサイクルの整備など)

  • 従業員の情報セキュリティ意識向上のための教育・研修プログラムの実施

 b.リスク評価:

  • 情報資産の洗い出しと重要度の評価

  • 潜在的な脅威や脆弱性の特定(外部攻撃、内部不正、ヒューマンエラーなど)

  • リスクの影響度と発生可能性の分析

  • 新たな技術やビジネスモデルに関連するリスクの評価

 c. 統制活動:

  • アクセス制御の実装(最小権限の原則、多要素認証など)

  • データの暗号化(保存時および通信時)

  • セキュリティパッチの適時適用

  • 物理的セキュリティ対策(入退室管理、デバイス管理など)

 d. 情報と伝達:

  • セキュリティに係るインシデント報告プロセスの確立

  • 従業員向けセキュリティポリシーの周知徹底

  • ステークホルダーとの適切なコミュニケーション(インシデント発生時の対応など)

 e. モニタリング活動:

  • 定期的なセキュリティ監査の実施

  • 第三者によるセキュリティ評価の定期的な実施

  • ログ分析や異常検知システムの導入

  • インシデント対応訓練の実施と評価


2. 内部監査人の役割
(1) COSOフレームワークを活用した情報漏洩リスク対応の評価

  • 組織基盤の適切性を評価

  • リスク評価プロセスの妥当性・網羅性を評価

  • 統制の設計・運用の有効性を評価

  • 情報と伝達の適時性・正確性を評価

  • 組織全体の情報漏洩リスク対応の有効性を評価

内部監査は、5つの要素に関連する上記の評価に加えて、経営陣への情報漏洩リスクを含むリスク報告や戦略的アドバイスの提供も期待されています。

(2) COSOフレームワークを活用した根本原因分析と改善提案

  • 内部監査において情報漏洩リスクに関する不備が発見された場合、COSOフレームワークの要素、17の原則、87の着眼点を活用して根本原因分析を行い、効果的な改善提案を行うことができます。以下に、そのプロセスと具体例を示します。

【プロセス】:根本原因分析と改善提案

  • 不備の特定と初期分析

    • 発見された不備を、いったんCOSOの5つの構成要素のいずれかに分類

    • 関連する17の原則を特定

  • 根本原因分析(5 Whysなど)の実施

    • それぞれの「なぜ」の段階で、COSOの87の着眼点を参照

    • 着眼点を活用し、より深い洞察を得る

  • 改善提案の策定

    • 特定された根本原因に対応するCOSOの原則や着眼点を活用

    • 組織の状況に合わせた具体的な改善策を提案

【具体例】:顧客データの不適切な取り扱いによる情報漏洩

  1. 不備の特定: 顧客データが監査時点では権限のない従業員によってアクセスされ、外部に流出した(※不正リスクへの考慮も必要)。

    • COSO構成要素:統制活動(※ただし、他の要素にも影響あり)

    • 関連する原則:原則10「統制活動の選択と整備」

  2. 根本原因分析(例)

Why1:なぜ権限のない従業員がアクセスできたのか?

  • アクセス制御が適切に設定されていなかった(着眼点:アクセス制御の実装)


Why2:なぜアクセス制御が適切に設定されていなかったのか?

  • アクセス権限の定期的なレビューが行われていなかった(着眼点:定期的な評価・更新)

Why3:なぜ定期的なレビューが行われていなかったのか?

  • レビューの責任者が明確に定められていなかった(着眼点:責任の割り当て)

Why4:なぜ責任者が定められていなかったのか?

  • 情報セキュリティに関する組織体制が不明確だった(着眼点:組織構造の確立)

Why5:なぜ組織体制が不明確だったのか?

  1. 根本原因:経営陣や管理職の情報セキュリティに対する認識が十分でなかった(着眼点:経営陣の姿勢)

  2. 改善提案

    • 統制環境の改善:経営陣や管理職への情報セキュリティ研修の実施、CISO職の設置

    • 統制活動の強化:アクセス権限の定期的レビュープロセスの確立、責任者の明確化

    • モニタリングの強化:情報セキュリティ監査の定期的な実施

このように、COSOフレームワークを活用することで、表面的な問題だけでなく、組織の根本的な課題を特定し、より効果的な改善提案を行うことが可能となります。

情報漏洩リスクへの対応は、単なる技術的な対策だけでなく、組織全体での取り組みが必要です。COSOフレームワークを活用することで、包括的かつ効果的な対応が可能となり、内部監査人はその過程で重要な役割を果たすことができます。


さいごに(まとめ)

COSOは、単に内部統制のフレームワークを提供するだけでなく、あらゆる企業・組織において求められる内部統制の指針を示しています。

また、上述の通り、内部監査で識別した発見事項の根本原因を究明する過程でフレームワークを活用し、効果的な改善策を導き出すこともできます。

内部監査人がこのフレームワークを深く理解し、適切に活用すれば、組織全体の内部統制システムの継続的な改善に大きく貢献することができるのです。


【おまけ】自己評価チェックリスト

[ ] 内部統制の3つの目的や5つの構成要素だけでなく、17の原則と87の着眼点を理解・習得しているか
[ ] リスク管理と内部統制の違いを説明できるか
[ ] フレームワークを用いて、組織の情報セキュリティリスクへの対応等の内部統制を評価できるか
[ ] フレームワークを用いて、不備(発見事項)の根本原因分析を行うことができるか
[ ] フレームワークを用いて、不備(発見事項)の再発防止につながる改善提案ができるか


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?