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【詩】スケープ・ゴースト・シップ

舟に揺られていました。
あんまり得意ではないので
ぼくはすぐに酔ってしまいます。
船頭に取り付けた行燈が
暗い光を放っていました。

ぱたりと音がして
足元を見ると、
いちまいの蛾の羽が見えました。

ああ、きっと
もう片方の羽も、
あのふっくらとした身も、
ぼくが踏み潰してしまったのだ。

なんて、どきりとしたのですが、
実際は綺麗に死んでいて、
なんだか少し残念でした。

綺麗な死に方ってなんでしょう?

嫉妬したのです。
ぼくには出来ない事だった。

川岸にずらりと月下美人が咲いています。
なのに月は出ていません。
岸に寄せた舟の行燈に照らされる花は
仄暗く、顔色が悪い。
匂いだけが格別に良いので
なんだかちぐはぐでした。

船着場で
ぼくは舟を降りました。
街の灯りが見えています。
さらばスケープ・ゴースト・シップ。
無人の舟が漕ぎだします。


舞台『スケープ・ゴースト・タウン』の原作詩、1篇目です。
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