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【アークナイツ考察】戦地の逸話"公正の存続"。荒野の少女と、ラテラーノの無機質な執行人

サムネイルはアークナイツ公式チャンネル「オムニバスストーリー 戦地の逸話 アニメPV」より
【注意】この考察は非公式であり、ネタバレや個人の見解、推測を含んでいます。2020年4月時点の情報を元に執筆しているため、今後の実装次第で公式設定とはかけ離れた考察となる可能性がある点を予めご了承ください。

荒野の少女は袋小路で生きようともがき、少女を救わんとする者は人情を解さない。

鉱石病に身体を蝕まれながらも懸命に生きる狩人の少女と、プログラムされた機械の如く無機質に仕事をこなす執行人。コミュニケーションを取るのが不器用な二人の織りなす物語は、"復讐"という重たいテーマの中にほんの少し喜劇が溶け込み、味わい深いものとなっています。

このエピソードはヴァーミルとイグゼキュターがロドスへ着任する前の話であり、メインストーリーで敵対するレユニオンは一切登場しません。しかし、彼女・彼の会話と回想からそれぞれの歩んできた道筋を垣間見ることができ、アークナイツは決してロドスとレユニオンの存在だけで成立している世界観ではないことが分かります。

今回はそんな2人について考察を進めていきます。

ヴァーミルのモチーフ

ヴァーミル(Vermeil)は英語で朱色を意味し、大陸版では"红云"と表記されています。英語に訳すと、レッド・クラウド(Red Cloud)。レッド・クラウドは、北米インディアン・オグララ・スー族として、インディアンの歴史に名を残す人物です。
レッド・クラウドは幼少期から戦争に明け暮れ、当時の米国政府による征服に抵抗し続けたインディアンとして語り継がれています。

ヴァーミルの過去は後述しますが、森に住まい、幼少期から戦いを繰り広げてきた彼女の生き様は、インディアンとして誇り高く戦い続けたレッド・クラウドと共通するものがあります。

そして冒頭の歌の中には、紅色の雲という表現が出てきました。

かみなりのおとが きこえるかい?
あめにふられて おやまはみえない
だれがわたしを つれてきたのか
とうのむかしに わすれちゃったよ
とおくにうかぶ べにいろの くもさん
わたしをふるさとへ つれていって

前述の「レッド・クラウド」をそのまま日本語に訳した表現です。そして、歌の中では「わたしをふるさとへ」という表現があります。彼女のプロファイルを見ると、出身地は不明となっているものの、第一資料からは住んでいた集落の名前をコードネームとしていることが分かります。

彼女は名を「ヴァーミル」と名乗っているが、それは本来集落の名前であり、彼女が羽織っているマントもヴァーミルの集落で作られたものである。(ヴァーミル第一資料)
三年間、ヴァーミルはかつての名前を捨て、荒野の中で復讐に必要な力を磨いた。(ヴァーミル第二資料)

資料を読み進めていくごとに、彼女の重たい過去が明らかとなります。

ヴァーミルの種族、出身地

ラテン語でvulpesは狐を意味します。恐らくこの言葉に由来し、狐をモチーフとしている種族がヴァルポです。ヴァーミルのプロファイルに、彼女の種族がヴァルポであることが記されています。出身地が不明なのは、彼女の住んでいた集落が地図上からその名を消されているためでしょうか。

彼女によると、帰属していた集落がシラクーザの荒野に踏み入ったウルサス傭兵団と紛争を起こし、最後には武力報復へと変化し、結果としてウルサス人の手によって集落は全滅したという。(ヴァーミル第二資料)

以前投稿した戦地の逸話"無名氏の戦争"記事の中で、ウルサスは皇帝が代替わりしてから国家そのものが変質してしまったことに触れました。

ヴァーミルの戦闘経験が2年であること、そして前述の第二資料「三年間」という記述から、集落が襲撃されたのはそれほど昔のことではありません。(訓練1年、ロドス基準で認定する実践経験が2年、といったところでしょうか。)

以上より、ヴァーミルの故郷が全滅した原因は代替わりした現皇帝によって狂ってしまったウルサスの国家体制にあると推測することができます。

両親、兄弟、友人…全てを失ったヴァーミルは、とあるラテラーノ人と出会うまで、ウルサス人に対する強烈な復讐心に駆られています。

イグゼキュターの名前、ラテラーノの事情

大陸での名前は「送葬人」。直訳すると「弔問客」(故人の死に弔意を示すため、遺族のもとを訪ねる人)となります。種族は天使に似た特徴を持ち、銃の扱いに長けているサンクタです。サンクタ(英語:Sankta、ラテン語:Sanctus)は「神聖な」「聖なる」という意味を持ちます。

日本語名のイグゼキュター(Executer)は英語で「執行者」を意味し、文脈によって「遺言執行者」と訳されることもあり、その名の通り物語中でヴァーミルに遺言を届けています。

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イグゼキュター:ラテラーノ公証人役場の公証人であり、今回の遺言の執行者です。「イグゼキュター」とお呼びください。
ヴァーミル:ラテラーノ……?
イグゼキュター:「ヴァーミル」様、あなたは受遺者なのです。
ヴァーミル:どうしてオレの名前を知っている?
イグゼキュター:あなたの名前は遺言者のデュレンマット様より伺っております。

ラテラーノ公証人役場がどのような組織であるかは、イグゼキュターのプロファイルに記載があります。

公証人役場はラテラーノの行政機関のひとつだ。
一方では、世界中のラテラーノ公民から費用を徴収し、公民が法律上定められた義務――遺産相続、養育や後見、公証済契約の執行などを含むが、
それらに限定されない義務――を履行するよう督促する。
もう一方では、ラテラーノ公民のための様々な権利保護を提供している。
よって、ラテラーノ公証人役場には特殊な従業員が必要だ。
彼らを各都市に派遣し、各種事務の解決及び実行の推進と監督を任せている。
イグゼキュターはその一員である。これらの業務に従事する彼らは「執行人」と呼ばれ、ラテラーノ公証人役場の意思を代弁している。(イグゼキュター第一資料)

イグゼキュターが従事してきた任務の中には、41名もの犯罪者を粛清するものや建物が損壊するほどの戦闘が行われるような大掛かりなもの、果ては要職が命を落とすような激しい戦闘を伴うものがあり、公証人役場が最も手を焼く問題にイグゼキュターを派遣していることがわかります。

そんな彼には特別な権利が与えられています。

ロドスにも銃を扱うサンクタ人はいるようですが、私とは違います。彼らは禁止令により同族に銃口を向けませんが、私は必要とあれば、相手が同族であっても躊躇わずに引き金を引きます。とはいえ、今のところこの拳でなんとかなっているので、そんな必要もありませんが。(イグゼキュター昇進後会話1)

現時点で実装されている、サンクタのロドスオペレーターはエクシアとアドナキエルです。それぞれのプロファイルを見ると、

ラテラーノ国民であり、第一条から第十三条までのラテラーノ国民特権が適応される。(エクシア個人履歴)
ラテラーノの国民。ラテラーノ第一条から第十三条までの国民特権が適応される。(アドナキエル個人履歴)

第一条から第十三条までの国民特権が適応される、という表記があります。それに対して、イグゼキュターのプロファイルには

ラテラーノ公民であり、ラテラーノ公証人役場法定執行人。
第一項から第十三項までの公民権が適応されており、多種類の言語と法律に精通している。(イグゼキュター個人履歴)

第一項から第十三項までの公民権が適応される、と記されています。

ラテラーノは厳格な法治国家であることが伺え、特にサンクタはラテラーノ国外であってもその規則に縛られると推測されます。

仮にその規則を破ってしまったらどうなるのか。

その答えのヒントは、大陸版で実装されているオペレーターであるモスティマが握っています。彼女の種族は伏せられていますが、黒を基調とするサンクタのような見た目です。

モスティマ

サンクタであれば本来輝いているはずの光輪や翼の色は燻み、まるで堕天してしまったかのような出で立ちです。彼女の第四資料には、同族へ銃口を向けたことが書かれており、それが原因でこのような姿になったと推測することができます。

同族に対して躊躇なく銃の引き金を引けるというイグゼキュターのセリフは、彼に適用されている"公民権"がいかに特別なものであるかを物語っています。

※追記 「国民特権」と「公民権」の違いについて改めて考察しました。


イグゼキュターのモチーフ

時には同族をも粛清するイグゼキュター。そんな彼が使用している銃に注目してみます。

ショットガン

ウインチェスターM1887。
アメリカのウィンチェスター社が1887年に製造したショットガンです。レバーアクション式を採用した珍しい散弾銃であり、銃全体をくるりと回転させてリロードします。

この銃は、1991年公開のSF映画『ターミネーター2(原題: Terminator 2: Judgment Day)』で、アーノルド・シュワルツェネッガー演じるT-800が使用した武器としても有名です。

ターミネーター2は、未来から送り込まれた殺人アンドロイドT-1000に命を狙われる少年ジョン・コナーを、同じく戦闘アンドロイドであるT-800が守り、戦争が勃発する「審判の日」を食い止めるべく奔走する映画です。

T-800はアンドロイドであるが故に表情が無機質で、多感な時期にあるコナーの意図をうまく汲むことができずに、コミュニケーションで苦労する様子が描かれています。

"公正の存続"エピソードにおけるイグゼキュターも、(ターミネーターよろしく)機械のような人だと評され、感情を露わにするヴァーミルとは対照的です。会話をした、というよりは一方的に情報を伝え、強引に自身の任務を遂行する姿勢にヴァーミルからは

あああ! この変人め、いつかぶっ飛ばしてやるー!

と言われる始末。

そんなチグハグな二人を結び付けているのは、デュレンマットという名のラテラーノ人です。

2人を繋いだデュレンマット

ラテラーノの執行人に対し、デュレンマットは依頼を告げます。

デュレンマット:ある日、私はシラクーザの森林で隻腕のヴァルポの少女と出会ったんだ。あの子は過去への復讐に溺れ、あの血に染まった場所に心を囚われてしまっていた
あまりにも不憫で、私はあの子を助けた。あの子のプライドを傷つけてしまったかもしれないが、その何事にも屈しない正への執着に、感動させられてしまったんだ。
後になって気づいたが、私の気まぐれの援助は、あの子の復讐に対する執念をより強いものにしただけだったんだ。それに気付いてからというもの、寝るにも寝られなかった。
だから私の全てをあの子に遺してあげたいんだ。私に残っているのは、少しばかりの悲しい遺産だけだが。

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"公正の存続"では「復讐」という言葉が繰り返し使われており、このエピソードのテーマになっているとも言えます。

デュレンマットはかつて、ヴァーミルに復讐以外の生きる意味を見出すよう告げました。

熟練のハンター(デュレンマット):復讐か……君の宿命にケチを付けるつもりはないが。だがこの腕で弓を引く時に考えてみてくれ。復讐以外に、私たちが生きている理由を。

デュレンマットがヴァーミルを助けたときのエピソードについて、ヴァーミル自身もドクターへ語りかけており、彼女のプロファイルにも記載があります。

俺の左腕は、狩りの最中に野獣に引きち切られちまったんだ。だが運がいいことに、ある機械師が義手を作ってくれてな、おかけで今もこうして弓を引けてるってわけさ。(ヴァーミル会話2)
ある日、野獣との戦いで彼女は意識不明になるほどの重症を負った。
幸い通りがかった老ハンターに救出されたが、命を守るためには、重い傷を負った腕を諦めるしかなかった。
目を覚まし状況を理解すると、彼女は驚くほどのスピードで身体機能を回復させた。
そして苦しみを克服し、義肢の不便さにも慣れていった。
その後、ヴァーミルははぐれ者をターゲットにしながら、復讐の旅を続けた。(ヴァーミル第二資料)

二次創作ですが、アナカシコさん(@ana_kashic0)が、野獣との戦いでヴァーミルが傷つき倒れる様子を漫画で描いており、イメージがつきやすいのでご紹介します。

デュレンマットがヴァーミルに対して復讐を止めるよう説いたのは、彼自身が復讐に囚われてしまった結果、自らの人生が狂わせてしまったことに起因していると推測されます。デュレンマットはイグゼキュターに自身の想いを吐露しています。

あの子を君たちが泥沼から引き上げてやってくれ。私と同じようにならないように
正義? 私の行いにだって正当性はあったかもしれないだろう。イグゼキュターさん、公証人役場がそれを察してくれればの話だが。
だがどちらにせよ、それは賞賛に値することではない。まさにそのせいで、私が人生の道を踏み外すことになったのだから。

デュレンマットがどのような最期を遂げたのかは明らかになっていません。しかし、ヴァーミルに対しては自身の最期を隠すよう要請したこと、そして手紙にはデュレンマットの血の匂いが染み付いていたことから、ラテラーノ公証人役場によって下された命で死刑を執行されたことが分かります。
誰によって死刑が執行されたのかは定かでありませんが、少なからず彼の死に際にイグゼキュターが立ち会っていたと考えられます。

デュレンマット:あの子には私の過去を教えないでくれ。何か適当にごまかしてくれればいい。例えば……手術台で死んだというのはどうかな?
イグゼキュター:ーその必要性は理解できませんし、あなたの立場から見ても相応しくありません。あなたは公証人役場から何年も逃げ続けただけでなく、銃殺まで……。

イグゼキュターは渋りながらも、最終的にはヴァーミルにそう告げるのが正しいと考え、「デュレンマット様は手術台の上で亡くなられました。安らかとは言えない最期でした。不治の病を患っていたのです。」と説明しています。

デュレンマットはヴァーミルが自分と同じ結末を迎えないように願い、莫大な資産を鉱石病を患っていた彼女のために注ぎ込みました。彼の財産は公証役場へ手数料として、そしてヴァーミルを治療するための費用としてロドスへ支払われ、ロドスはイグゼキュターと共にヴァーミルを受け入れます。

ーーー

戦地の逸話"公正の存続"は次のように締め括られています。

あの子は私の遺産なのだ。
そして私の希望でもある。
彼女にどうか加護のあらんことを。


そして彼の遺志は、確かに、ヴァーミルへと受け継がれました。


相手に慈悲を与えるなど考えられなかった彼女であったが、唯一の例外は、既に引退し、膝元に子孫がじゃれついている老傭兵であった。
相手は左腕と傭兵の名誉勲章を差し出し、自身と家族の命を乞ったという。
ヴァーミルはそれ以降、ウルサス人に対する復讐をやめた。(ヴァーミル第二資料)
ヴァーミルは恩人に関する情報は口を閉ざし何も語らないが、当時の出来事を話す時の態度から見るに、心の中でそのラテラーノ人を尊敬し感謝し続けているようである。
本人が明らかにするつもりがない以上、この話はヴァーミルの心の中に深くしまわれることになるが、それは一つの良い選択なのかもしれない。(ヴァーミル第四資料)

参考リンク


再びアナカシコさんの二次創作漫画をご紹介。ロドスへ来てからも「ヴァーミルを生かし続けろ」という遺言を忠実に守り続けるイグゼキュターと、ドクターから任せられた仕事を懸命にこなそうとするヴァーミルが描かれています。



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