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ガーゼという素材の良さをお届けしたい┃OVLOV 西澤真由美さん インタビュー

「やさしいガーゼ」の専門店として、浅草橋にお店を構えるオブラブさん。代表の西澤真由美さんにお話をうかがいました。

お話をお聞きした方


株式会社オブラブ 代表取締役 西澤 真由美 さん

株式会社オブラブ代表取締役。商品の企画・ディレクションを手がける。

武蔵野美術大学卒業後、ステーショナリー・インテリア・プロダクト等様々なデザインに携わる。1997年「クロスローズプラン」創業。2002年に自社ブランド「オブラブ」をスタート。「オブラブ」は一時ストップするも2014年に再スタートし、現在に至る。

オブラブ公式サイトに掲載しているコラムでは、商品の素材の話つくり手の話から、自身の経験や人柄が垣間見える記事を発信。2022年9月より、乳がん治療奮闘記を掲載している。

「赤ちゃんから大人まで全世代にいい素材を使って幸せな生活を送っていただきたい」


――「やさしいガーゼ」専門店ということですが、どのような商品を作っているのですか。

西澤 真由美 さん(以下、西澤):大きく分けると出産祝いで使うようなベビー用品と、大人の方も使えるブランケットやパジャマなどを扱っています。

最初はベビー向けの商品から始まりましたが、自分が病気になってガーゼ商品をいろいろ使った経験から、もっと大人向け商品を増やしてもいいかなと思っています。

元々、オブラブのコンセプトとして「赤ちゃんから大人まで全世代にいい素材を使って幸せな生活を送っていただきたい」ということも言っておりますので。

――なぜ、ガーゼという素材に注目したのでしょうか。

西澤:展示会で「六重ガーゼ」という素材に出会って、「ちょっとこの素材で何か作ってみようかな」と思ったところが始まりです。
オブラブを本格的にスタートしてからすぐに「これをブランドの柱にしよう!」と思い至ったわけではないんですけどね。

「交差点」から始まった-


――「オブラブ」というブランドはどういう意味なのでしょうか。
西澤
:ブランド名のOVLOV(オブラブ)は英語の「of Love(愛の)」の発音をとってブランド名にしました。当時はいろいろ愛について考えていた時期だったんでしょうね(笑)

1997年に創業したんですが、設立当初は商品をデザインして納めるという、ODMのような仕事をしていました。その時の会社名は「オブラブ」ではなくて、「クロスローズプラン」といいました。「クロスローズ」というのは「交差点」という意味で、色々な価値観を交差させて、混ぜ合わせてデザインを作るとか、お客さんと自分の素材提案やデザインを交差させる、というイメージでした。

でもいつか自分のブランドを作りたいと思っていて、創業間もないころから「オブラブ」という名前とロゴは考えていました。商標登録もかなり早いうちに済ませていました。

OVLOV(オブラブ)は英語の「of Love(愛の)」から

オブラブスタート、紆余曲折-


――「オブラブ」はどうやって始まったんですか。

西澤:2002年ころに一回「オブラブ」という名前で展示会に出ました。その時は中国に工場を持ち、生産は中国で行っていました。当時はガーゼ専門店でもなくて、ホームテキスタイルといいますか大人向けのパジャマとかリネンとか、本当にいろいろな商品を作っていました。

しかし、そうして4~5年展示会に出ていたら、ODMのお仕事の方が増えていって、自社ブランド「オブラブ」はいったん頓挫してしまいました。

その後2014年に「オブラブ」は再スタートするのですが、その時は、たくさんのアイテム数を扱って頓挫してしまった一回目の「オブラブ」の反省を生かして素材を絞って国内生産で行こうと考えました。

――2014年のリスタートではそれ以外になにか変化はありましたか。

西澤:商品を絞って「オブラブ」を広めていきたいと思い、展示会に出たりしましたが、エンドユーザーにもっと向かっていきたいなと思っていました。

そんな時、2013年の「モノマチ」が近所でとても賑わっていたのが印象に残っていて、2014年の「モノマチ」に参加してみました。
それまではお店のバイヤーさんとか、限られた人としかやり取りしていなかったんですが、「モノマチ」は完全にエンドユーザーが相手で、直接エンドユーザーと触れ合って商品を紹介するのは新鮮でした。

「モノマチ」とは?
古くから製造/卸の集積地としての歴史をもつ東京都台東区南部エリア(御徒町~蔵前~ 浅草橋にかけての2km四方の地域)を歩きながら、「町」と「モノづくり」の魅力に触れていただくイベントです。

モノマチ公式サイトより引用

「モノマチではお客さんとも繋がれたし、地元の「仲間たち」とも出会い、繋がれた」


――台東区についても、お聞きしてもよろしいでしょうか。

西澤:生まれ育ったのは台東区で、クロスローズの創業こそ江東区ですが、ほどなくして台東区に会社を移してきました。でも、ODMをやっていたころは中国に生産拠点があったこともあり、地元に目を向けることがあまりなかったんですよね。

台東区に目が向いたのは、モノマチに参加しはじめた時からだったと思うんですが、本当に「おもしろい街」だなぁと思いました。

――「おもしろい街」ですか。

西澤:ええ。モノマチのメンバーは、「役者揃い」だなって。メーカーさんも、職人さんも、デザイナーさんもいて、「身近にこんなすごい人がいたんだ!」「同じようなこと考えている人がこんなに近くにいたんだ!」という感じでした。

オブラブをもっと知ってもらいたくて参加したモノマチですが、お客さんとも繋がれたし、地元の「仲間たち」とも出会い、繋がれたのは大きかったですね。

――モノマチ出店の成果ですね。

西澤:台東区は生まれ育った場所ですけど、そんなによく知らなくて。モノマチをキッカケに地元の魅力を再発見して、人との繋がりもできて、より愛着がでてきました。

あと、台東区産業振興事業団の「商品プロモーション支援」を知ったのもモノマチの先輩から教えてもらったからなんです。その制度を利用させていただいて、モノマチで知り合ったデザイナーさんと一緒にパンフレットを作り、お店の前に置いていました。

そしたらある日、日テレの「ブラリ途中下車の旅」の取材をいただきました。反響はコロナ禍にも関わらず大きかったですね。ご来店いただく方も、ネットを見てくれる方も、本当に多くの方が来てくれました。パンフレットを作っておいてよかった!(笑)

オブラブさんのパンフレット。イラストはモノマチで知り合ったデザイナーさん作。

パンフレットは
▽ オブラブwebサイトからも見ることができます ▽


突然の「がん」発見、ガーゼのインナーキャップ


――最近のブログを拝読していたのですが、昨年「がん」が見つかり治療されていたと。

西澤:きっかけは台東区の乳がん検診です。去年の3月に8年ぶりに検診を受けたら「ちょっと怪しい」ということで、詳しい検査をしたところ4月に「乳がんステージ1です」ということがわかり…。最初の2週間くらいは何も手につかなくなりましたね。

ちょうどゴールデンウイーク連休もあって中々治療方針を決める検査や診察を受けられなかったりもして、ふわふわした感じでした。

――いろいろ調べて準備もされていたようでしたね。ガーゼでウィッグ着用時のためのインナーキャップを作られたり。

西澤:そうですね。最初の抗がん剤点滴を受けてから2週間ほどで脱毛が始まったので、「そろそろ帽子を作らなきゃ」と思って、図書館で帽子の本を借りて、まずはガーゼで帽子を作りました。

帽子をつくって、改良している時に、ウィッグ屋さんに「夏場はウィッグの下に汗取りパッドのようなものを入れた方がいいですよ」と言われていたことを思い出し、ガーゼが汗取りパッド役としてちょうどいいんじゃないかと思ったんですよね。

そして、実際に試作して、自分でかぶってみたらすごく使い心地が良くて、ほかの抗がん剤治療されている方々にも使っていただけたらどうかな、と思い始めました。

ガーゼのインナーキャップ。
同じ境遇でお困りの方に使っていただきたいと思い準備中。

――なるほど。商品化もお考えなのでしょうか。

西澤:そうですね…そう思って少しリサーチしてみたら、世間に出ているインナーキャップは、私のものとは少し作りが違うんですよ。なので、いきなり商品にするというのではなく、まずはモニターさんとして、他の方に無料で使っていただいて、ご意見をフィードバックしていただけたらな、と思っています。

こういうものづくりの仕方は初めての経験なのでどのようにやっていったらいいか悩んでいるんですけど、台東区に住み、台東区でお店を構えて、台東区の検診がきっかけで自分は早期発見ができたので、せっかくなら台東区のお近くでこういったことにお困りの方がいたら使っていただきたいな、と思っています。

「去年はとても幸せな年だったなと思いました」


――ブログを読んでいると、なんといいますか、ポジティブに治療に取り組んでいらっしゃったように見受けました。

西澤:確かに治療の過程を振り返ってみると、自分は本当にポジティブなんだな、と思いました。物事を軽く考える、というか(笑)。あとはもともと探求心が旺盛というか、治療中もいろいろトライ&エラーというか、自分の身体で実験しているような。

――今回のご経験で考え方やご自身のスタンスが変わったりすることはありましたか。

西澤:うーん…。全部の治療を終えて振り返ってみると、去年はとても幸せな年だったなと思いました。自分はこんな困難にも立ち向かえたんだ、という励みにもなりましたし、周りには自分を支えてくれる人たちがいることにも気づいて。そういう恵まれた環境・境遇に自分は置かれていたことに気づかされて、幸せだったな、と。

あとは、ガーゼという素材が、いろいろな人にとっていい素材だな、と改めて思いました。ベビー向けとか、治療に取り組む方向けだけでなく「多くの人に還元したい」「その良さをお届けしたい」と思っています。

編集後記


今回は台東区役所産業振興課の紫冨田(しぶた)が、産業振興事業団noteの場をお借りしてインタビューさせていただきました。

西澤さんとはモノマチで知り合ったのですが、ゆっくりお話しをお聞きする機会はほとんどなく…。今回はたっぷり2時間、商品のことやこれまでのこと、西澤さんの想いなどをお聞きして、とても暖かい気持ちになりました。

浅草橋のオブラブさんのお店は、優しさにふわっと包まれた「The place OF LOVE」でした。

モノマチを機にショールーム・ショップとなった空間。元々は倉庫だったとか。


インタビュー・編集後記:紫冨田
編集:紫冨田・中川
撮影:北川
写真提供:オブラブ様

店舗情報


やさしいガーゼ オブラブ(株式会社オブラブ)

住所:東京都台東区浅草橋4-6-8-101
web : https://www.ovlov.jp/
Twitter : https://twitter.com/ovlov_gauze/
Instagram : https://www.instagram.com/ovlov.gauze.linen/