見出し画像

「赤い公園」というバンド。

赤い公園というバンドがいる。

4人組のガールズバンドだ。

私は赤い公園の紡ぎ出す音楽が大好きだ。

ボーカル、ギター、ベース、ドラムというシンプルな楽器構成でありながら、鳴らす音楽は独創的。曲中で雰囲気がコロコロ変わったり、あえて不協和音を鳴らしたり。ガールズバンドという括りを取っ払ったとしても、こんなバンドはなかなかいないだろうと思えるバンドだ。

高校の軽音部で出会った佐藤千明、津野米咲、藤本ひかり、歌川菜穂で結成された赤い公園は、インディーズで活動している頃からその独創的な世界観と圧倒的な表現力が注目され、雑誌で特集が組まれ、複数のレコード会社が争奪戦を繰り広げるほどだった。メジャーデビュー後も、どんどんファンを増やしながら精力的に活動していった。


特に、赤い公園のほとんどの楽曲の作詞・作曲を担当しているギター津野米咲の才能に注目が集まった。2013年に津野が22歳にして、当時国民的アイドルグループであったSMAPに楽曲『Joy!!』を提供しているということからもそれが窺える。

そんな赤い公園にも危機が訪れる。

2017年に、ボーカルの佐藤千明が脱退してしまったのだ。

バンドにとって、ボーカルが脱退するなんて一大事件である。

8月23日にこの体制で最後、かつ最高のアルバム『熱唱サマー』をリリースし、4日後の27日に行われたライブ『熱唱祭り』を最後に赤い公園は3人になってしまった。


それでも彼女たちは「解散」という選択肢を選ぶことはなく、年明けすぐには3人体制のライブも行われた。

そして5月、新たなボーカルとして石野理子の加入が発表された。

アイドルネッサンスというアイドルグループで活動していた石野は、加入時点で17歳。他の3人とは10歳近く離れたボーカルの加入に、私はこれからの赤い公園がどんな顔を見せてくれるのかが楽しみな反面、それまでの赤い公園がもう見られない、変わっていくことに対する不安も覚えた。

しかし新体制となった赤い公園は、その不安をすぐに払拭してくれた。

新体制で初めて発表された『消えない』があまりにも素晴らしい楽曲だったのだ。

歌い出しから、石野の表現力に驚かされる。確かにそれまでとは違う、でも確かに「赤い公園」とわかる曲。気づけば、前体制と新体制、2つの「赤い公園」を比べることはしなくなっていた。新たな赤い公園の始まりにリアルタイムで立ち会うことができたことに対する喜びを覚えた。

EP『消えない』のリリース、シングル『絶対零度』のリリース、そして新体制初のツアーなどを経て、2020年4月15日に、『熱唱サマー』以来となるフルアルバム『THE PARK』がリリースされた。

ある意味セルフタイトルとも言えるこのアルバムは、最高傑作と言っても過言ではない、本当に素晴らしい作品だった。

加入からわずか1年半ほどしか経過していないにも関わらず、ボーカル石野理子の表現力が飛躍的にアップしていることにも驚かされた。そして津野が作り出す独創的な世界観の楽曲も健在だった。先行シングルにもなった楽曲『絶対零度』は、そんな赤い公園の特徴が詰まった楽曲であり、この曲をきっかけに赤い公園を知ったという人も多く見られた。

私は、赤い公園が近いうちにガールズバンドの頂点に立つことを確信した。

このアルバムを引っ提げた全国ツアー「SHOKA TOUR 2020 "THE PARK"」も決まっていた。

私は、新体制初ツアーに行けなかったということもあり、このツアーを楽しみにしていた。しかし、新型コロナウイルスの影響でツアーは中止となってしまった。残念に思いながらも、コロナが落ち着いた頃にライブに行ければ良いと考えていた。

ツアーは中止になってしまったが、赤い公園は精力的な活動を続けていた。

配信ライブを行ったり、ドラマ『時をかけるバンド』のオープニング/エンディングを担当するなど、バンドは勢いを落とすことなく活動していた。

11月にシングル『オレンジ/pray』がリリースされることも発表され、赤い公園はさらに勢いをつけようとしていた。

いつか更に大きくなった赤い公園のライブに行くことを楽しみにしていた。


しかし、もう赤い公園のライブに行くことはできなくなってしまった。


2020年10月18日。


津野米咲が亡くなった。



Twitterでこのニュースを知った。

全く文章の意味が理解できなかった。

赤い公園のことが記されているということはわかったが、あまりにも現実味がなく、全く内容が頭に入ってこない。

何度も読み返し、ようやくこの文章が示す意味を理解した。

しかし、その現実はまだ理解できない。

気付けば、この文章を書いている。

悲しいのは事実だが、それ以上にまだこの悲報を受け止められていない。

どうか、誤報であってほしいと思っていたが、この文を書いている最中に赤い公園のホームページが更新された。

つい先ほどまで一番上に表示されていたニューシングルリリースのお知らせの上に、「赤い公園に関するお知らせ」という項目が増えている。

開くと、津野が亡くなったということが記されていた。

この悲報が事実であるということを突きつけられた。


「なぜ」と言うことは簡単だ。

客観的に見れば、コロナ渦でツアーが中止になったことを除けば、赤い公園の活動は順調そのものにしか見えなかった。

だが、本人にしかわからない事情があったのだろうか。

間違いなく彼女は天才だったと思う。

しかし、もしかするとそんな周囲からの高い評価が彼女を苦しめてしまったのかもしれない。

考えれば考えるほどわからなくなる。


とにかく、惜しくて仕方がない。

これからの赤い公園がどうなるのか。残された3人がどんな道を歩んでいくのかはわからないが、今後も応援していきたいと思う。

ここまで書いた文章で私が一体何を伝えたかったのかは自分でもわからない。

何度も言うように、未だ現実を受け止め切れていない。

それでも、ただひとつだけ揺るぎないことがある。

赤い公園は素晴らしいバンドだということだ。

佐藤千明がボーカルを務めていた頃も、一時的に3人体制だった頃も、石野理子が加わった後も、それは変わらなかった。

たとえ、今回の訃報を機に赤い公園の活動にピリオドが打たれてしまったとしても、それは変わらない。

赤い公園が紡ぎ出した、津野米咲が生み出した楽曲はこれからも残っていく。

今この瞬間に赤い公園を知らない人が、後に赤い公園を知り、赤い公園の楽曲を聴き、赤い公園を好きになることだってあるだろう。

もちろん私はただの一般人だ。インフルエンサーでもない、ただの大学生だ。

それでも、もしかしたらこのnoteを読んでくれる人がいるかもしれない。

もしかしたらそんな人が、赤い公園を知り、彼女たちの楽曲を好きになるかもしれない。

そうなってくれれば嬉しい。

最後にもう一度だけ書かせてほしい。

赤い公園は、素晴らしいバンドだ。



津野米咲さんのご冥福をお祈りします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?