【まとめ】戦略の本質 戦史に学ぶ逆点のリーダーシップ

戦略の本質とは

戦略の本質は、存在を賭けた「義」の実現に向けて、コンテクストに応じた知的パフォーマンスを演ずる、自律分散的な賢虜型リーダーシップの体系を創造することである。
要するに、戦略は何らかの政治目的を達成するための力の行使であるので、対立する意志を持つ敵との相互作用がダイナミックに展開される。それゆえ、戦略の各レベルでは逆説的論理が水平かつ垂直的に作用する。さらに戦略はいくつかの位相から成る複雑系の性質を有し、その位相間の相互関係の変化に応じて、具体的な表れ方が異なってくる。

賢虜型リーダーシップとは、後述するアリストテレスが提唱したフロネシスを持つリーダー、つまりフロネティック・リーダーシップを指す。戦略とは、静的な状態をもとに机上で計算可能な自然科学・計算機科学的な要素よりも人間同士の意志の相互作用などによって構成される複雑系システムの中で的確な決断を連続的に行なっていくことであるとしている。

戦略の5つのレベル

大戦略
軍事戦略
作戦戦略
戦術
技術

各レイヤーは相互に影響しあっている。

各レベルには独自の解決すべき課題があり、固有の文脈(コンテクスト)を持っている。

上位になるほどマクロ的な視点になる。政策、国益など。
下位になるほどミクロ的な視点になる。兵器の攻撃力や防御力、質や量等。

技術レイヤーで製造された核兵器が大戦略レイヤー(政策)にも影響するように隣接レイヤーを超えて影響しているケースもある。

各レイヤーにおいて求められるリーダーシップが変わる。

同書のリーダーシップを見ると大統領・首相クラスのリーダーシップが取り上げられている。彼らは大戦略(政策)を起点に達成すべき目標を明確にシンプルに打ち出して、それを実現するために下位のレイヤーを整えていったというイメージだ。

戦略のメカニズム

作用ー反作用の因果連鎖は、不確実性と偶然性と摩擦とが横行する場で展開されるがゆえに、ルトワクが述べたように、逆説的である。目的達成のために選択すべき最も合理的な行為が、その目的達成につながらず、むしろ合理的でないと思われる選択が、望ましい結果をもたらす。
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作用ー反作用の因果連鎖が逆説的であり、非線形的であるがゆえに、主体間の相互作用はダイナミックなものとなる。

戦術レベルのリーダーシップ

実際の戦闘行動を可能にし、その帰趨を左右するのは、現場指揮官のリーダーシップである。場としての現地の特性をすばやく理解し、刻々と変化する戦闘状況を読みながら、構成メンバーから最大限の努力を戦場において引き出すことが、現場指揮官の役割である。戦闘という厳しい状況において個々人を支え、個々人の恐怖を克服するのは、集団凝集性と集団規律であり、その維持と発揮は現場指揮官の能力に依存している。

いわゆる会社の課長クラスの管理職としてのマネジメントに最も近いイメージがある。課長クラスは現場指揮官であることが多いように思う。

兵器、兵器システムの運用は、それに比べはるかに信頼性が低くかつ不確実性をはらんだ「変数としての人間」によって左右される。

つまり現場の社員のパフォーマンスは現場の指揮官である課長にかかっている。

戦略論とは・・・

人間世界を研究対象とする社会科学の一分野である。
社会科学と自然科学の重要な差は、対象としての人間が意図や価値をもち、その実現に向かって思索し、予測し、行動し、修正し、環境の影響を受けつつ、環境を変えていく、つまり単なる受動的存在ではなく、能動的であり、反省的であるということにある。
人間は主体的にコンテクスト(文脈ないし脈絡)や状況を察知し、その意味を言語化し、ダイナミックなコンテクストの中で持てる知識や技能を行使していく。つまり、人間の世界は客観的事実ではなく、その都度のコンテクストに依存する「解釈」によって成り立っている。

一方、自然科学は、事象を特定のコンテクストから独立させてとらえ、普遍妥当性の原理原則を追求するのである。

社会科学の面白さをここで知った。組織作りを業務の中で経験していく中で、書籍などに書かれているような方法を自組織に当てはめてもうまく機能しないことが往々にしてある。

なぜうまくいかないのかは、社会科学的な観点で考えれば明白であった。自然学的な発想を人間社会(社会科学)に当てはめようとしているわけだから機能しないのは当然で場のコンテクストを無視して適用していたからだ。

社会科学を学ぶことで良い組織作りに貢献できそう。なぜうまくいかないのかを感覚ではなく、より学術的なアプローチをしていくことで効率よく知見を蓄積できそうだ。

エリオット・コーエンのリーダーシップ研究

優れたリーダーは「状況一つひとつの独自性と具体的な違いをありのままに嗅ぎ分けけ認識する能力」があると同時に、より大きなテーマのなかで細部を総合する能力があるという。細部の認知は、より大きな目的に立ち向かわなければならないときに、現場の痛みや犠牲の苦しみを理解することにもつながる。人、物、自然の現実をありのまま直感することは、少なくとも背後にある本質に気づくことに貢献する。「神は細部に宿る」のである。

同書で戦場におけるリーダーシップのあり方として、フロネティック・リーダーシップ(賢虜型リーダーシップ)を提唱している。その要素である現場感覚と大局観を的確に説明しているようだ。

なぜ、一流企業は三現主義(現場、現物、現実)を重要視するのか。ここにヒントがあるように思う。

現場に身を置かなければ「肌で感じる」こともないだろう。

そのうえで、ビジネスや社会に提供する価値などの大局観と関連づけて、効果的な決断をタイムリーに実行し続けるからこその一流なのではないかと思うに至る。

直観力を磨くには

具体のコンテクストにおける経験の反省的実践を通して質量ともに磨かれていく。同時に万巻の書を読むことは、事象の本質と発展法則を洞察する素材を提供することになるだろう。

教養は必要であることを示唆している。
実践の中で内省を繰り返していくことは必須である。

チャーチルや毛沢東は戦時中であっても余暇での読書を続けて広い教養を身につけたそうだ。

対話こそ重要

戦略は「社会的に」創造される
より現実に近づく知の方法論としては、個人のメタ認知能力に依存するだけではなく、現実を複眼的に照射する開かれた対話を通じて真理に接近するアプローチが最も基本である。戦略は、そしてその正当性や真理性は社会的に創造されるのである。
自由に討論する開かれた対話

ここでいう「社会的」とはどのような意味だろうか。

3: of or relating to human society, the interaction of the individual and the group, or the welfare of human beings as members of society

個と集団との相互作用とある。対話だけでなく言動全てが相互に作用し合うのだろう。

直近で読んできた書籍で「多様性の科学」がある。第三者および第三者的視点を持つ者との対話によってアイディアの「融合のイノベーション」が発生すると論じられている。

毛沢東、チャーチル、スターリンは対話・議論によって理解を深めていったらしい。当人だけでなく対話に参加した者の理解も深まっていった。1回だけの議論ではなく、繰り返し取り組んでいたようだ。

メタ認知とは

自身の世界認識を客観化する、つまり主体の視点自体を反省的に捉え直し、自己自身を客観化することである。自己認識を客観化する能力をメタ認知という

フロネシス:リーダーシップに求められる素養

フロネシスとはアリストテレスの『ニコマコス倫理学』によって記載されているワードである。

アリストテレスは知識を三つに分類した。

1. エピステーメ
2. テクネ
3 フロネシス

3番目のフロネシスが、同書で語られているリーダーシップとしての重要な要素である。

実践的知恵として訳されている
状況認識能力を持つ
これは問題は何かを把握する問題設定能力であり、・・・

フロネティック・リーダーシップが求める素養は「現場のコンテクストにおいて適切な問題を設定する能力」である、自然科学が追求するコンテクスト依存ではなく普遍な問題設定ではない。

経験や直観の知を志向する

まさに実践的知恵である。

しかし、実践だけが重要なわけではないことに留意したい。同書で紹介されている偉人たちは読書家であり、幅広い教養を身につけていた。

哲学、歴史、文学・・・・。

その教養と現場感・政治観などから導き出されるビジョンと実践から得た知恵が融合されて大局観や現場感覚が洗練されていったのだろう。

以上。








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