庵野監督に学ぶ、憧れちゃいけない狂気と胆力

※この記事には、『シン・ヱヴァンゲリヲン劇場版𝄇』のネタバレは含みません。安心してお読みください!

2021年3月22日放送の『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見ました。

密着取材のターゲットは、アニメーション監督・庵野秀明さん。
公開中の映画『シン・ヱヴァンゲリヲン新劇場版𝄇』は、前作までの興行収入を超える勢い。
作品や監督の動向が注目される中、シリーズ史上初の密着ドキュメンタリー放送です。
Twitterでは放送中から翌日までトレンドにランクインし続け、高視聴率を記録したようです。再放送や完全版を望む声もあるとか。

さて、この記事を書く僕は、劇作家として物語づくりを仕事にしています。
まだまだ売れない、クリエイターの端くれです。
そんな身としても、名作の制作過程が気になり、番組を見てみることにしたのでした。

で、なんだ、この狂気は……!

「ダメ上司」の見本として

あえて手垢のついていない方法、新しい手段でやりたがる。
部下や若手に、予想外の答えを探させてみる。
しかし、その中から正解を見つけることはない。
問いに「わかんない」とだけ言い残し、会議に出ない。
最後は結局、自分で動き、完成まで引っ張っていく……

なんて日本的、最悪な上司だ……!

庵野監督の気まぐれな動向と、混乱する現場が次々に映し出されます。
「いつものことだから」「これで最後だから」と笑って流しているスタッフさんたち、すごいです。
僕だったらたぶん、音を上げてリタイアしているんじゃないでしょうか。

放送中の実況を見ていると、知り合いも「ダメ上司の見本みたい」と書いていました。
おそらく多くの視聴者が、同じ感想を抱いたに違いありません。

正解か、不正解か。

そんなシーンを見ながら、逆説的に面白いなと思ったのは……
それでも作品はきっちり完成しているということ。
作品の出来不出来は観客の捉え方によりますが、およそ結果は出ています。

途中、監督は何度も脚本を直し、構成を直すことになったようです。
振り回されるスタッフさんが大勢いたことは、想像に難くありません。

しかし、通常のアニメ制作とは違う工程での制作です。
いつも通りの設計図(絵コンテ)もないような状況から、完成まで持っていけたのは、庵野監督の手腕あってこそだと思いました。

つまり、庵野監督の中には、
作品のための「模範解答」が明確にあったんじゃないでしょうか。

それは、当初から緻密なものではなかったのでしょう。
でも、直感的に「正解か不正解か」を的確に判断することはできた。
だから、設計図がなくとも、作品がきっちり完成したのです。

「それがプロフェッショナルでしょ」
「キャリアがあるんだから当然でしょ」
そう言われれば、その通り。僕が言及するまでもありません。
しかし、これは僕らも作品をつくったり、プロジェクトのリーダーを務める時に必要な考え方だなと感じたのです。

緻密な設計図は、本当に必要か?

庵野監督の狂気を見ながら、考えました。

モノや作品をつくる時、本当に必要なものはなんだろう。
緻密な設計図はあれば便利だけれど、本当に必要か?
むしろ、修正や変化の可能性を狭めてしまうことにならないだろうか?

本当に必要なのは、「みんなで決めたからこれ」「前に決めたからこれ」ではなく、
出されたアイデアと模範解答を照らし合わせ、その場その場で決めるための覚悟なんじゃないか?
設計図をかなぐり捨ててでも完成に向かって推し進める、作品に対する執念と胆力なんじゃないか?

「映画の監督に必要なことって、覚悟だけだと思うので」
「全部自分の責任、自分のせいにされる覚悟があるかどうか」
「満足しない、ずっと探っていきたい」

――番組後半、庵野監督がぼそっと語っていたこの言葉。
数日経って、意味が少しだけわかった気がします。

作品を完成させるための執念と胆力。
決める覚悟。

ちょっぴり狂気的ですが、そんな視点も忘れずに持っていたいです。
まだまだ若手の僕らは、このやり方に憧れちゃいけないのだろうけど!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました! これからも応援いただけたらうれしいです。 (いただいたサポートは、作品制作のために活用いたします!)