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11月22日。 ”今日は何の日でしょう?” 昼前に起きると、ダイニングテーブルの上にメモ置きがあった。 三連休でも彼女は早くから仕事みたいだ。接客業とカレンダーは反比例。 メモの右下には「ごはん温めてね」とも。 葉子は、ほんとに優しい。 冷蔵庫の中から、フレンチトーストを取り出し、レンジで温める。 葉子の優しさを口に運びながら、問題の答えを考える。 なにか大事な用事を忘れていただろうか。それとも記念日? やばい、何も思い出せない。 同棲生活は、こういう小さなすれ違い
「夢ってさー、なんですぐに忘れちゃうんだろ」 電話の向こうから、ぶつぶつ聞こえてくる。 俺に聞くなよ調べろよ、と言いたいところだが。 「寝てる間に、記憶の整理をしてるからでしょうよ」 「覚えとかなきゃいけない夢、あると思うんだよね」 「まあ、そうかなあ」 この手の話に付き合うと、たぶん長い。 なので、俺は適当に相槌を打ちながら、参考書を進める。 「印象あったのになあ」 「忘れてんじゃん」 「起きた時、輪郭は覚えてたのよー」 「忘れてもいいような夢だったんじゃないの」
11月も折り返しを過ぎたのに、今日は暖かい。 窓を開けると、外は強い風が吹いていた。 こんな日に吹く風のことを、なんて呼ぶんだろう。 「秋風」だとちょっと味気ない。「晩秋の嵐」か、それとも―― そんなことを考えながら、ふわっと。 何年か前のこの季節にいた、きみを思い出す。 「今度の三連休、どこか行こうよ」 誘ってきたのは、きみだったはずだ。 マーマレードを乗せたトーストを器用に食べながら、僕に尋ねる。 「山登って、紅葉でも見ようか」 「なにそれ。オジサンみたい」
この春、秘密に悩む女の子のおはなしです。年齢はご想像におまかせします! ※この作品は #おうちで読もう に参加しています。朗読して、公開いただけたらうれしいです。 3つのひみつ作:尾崎 太祐 登場人物 女子学生 春休みの宿題を終わらせながら、きみと電話する。 ふと、きみをからかいたくなった。 「ねえ、『さんみつ』って知ってる?」 きみの声、呆れた返事。 そりゃそうか、最近さんざん見た言葉だ。 じゃあさ、わたしの――と続けそうになって、思わず黙り込む。 わたしの秘密、知
子どものころ大切だったものを思い出しながら、読んでいただけたらうれしいです。 ※この作品は #おうちで読もう に参加しています。あなたに朗読していただけたら、もっとうれしいです。 てのひらとえがお作:尾崎 太祐 冷たくて暗い箱の中から、 ボクを見つけてくれたのはキミだった。 はじめて見たキミは、とってもきらきらしてたね。 あの顔、「笑顔」っていうんだっけ。 その日から、キミのあったかい手のひらが、ボクの居場所になったんだ。 キミはいろんなことを、ボクに話してくれたね。