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死んでいないから笑えるのであって

ミカエル・ニエミ著、「世界の果てのビートルズ」(新潮社)を読んだ。原著はスウェーデンで大ベストセラーになった作品らしい。スウェーデンの人が書いた小説は読んだことないし、タイトルにビートルズって入っているから、という理由で買って読んだ。

ここからはネタバレ含む。

スウェーデンの北の村、パヤラ村は北極圏に入る。この村で主人公がビートルズに出会う前後の少年期から青年期に入る前までを描いたお話だ。

特におおきな展開があるわけでもなく主人公がゆっくり大人に近づいていくようにゆっくり話は進んでいく。スウェーデンの北の田舎の北極圏に位置する村なんてもちろん私は行ったことがないのだが、それでもその村の雰囲気、情景が浮かんでくるような文章だと思う。田舎の少年たちの話というのはたとえ遠い国の話でも同じような感じなのだろうかと感じる。さすがに少し現代の日本の田舎の少年たちの日常に比べると荒っぽいかもしれないが。

ところどころ個人的には笑ってしまう場面があった。一つは主人公の同世代の少年たちが酒の飲み比べをするシーンだ。日本でも雪国の人たちは若いころから友達と酒を飲んで時間を過ごすと聞いたことがあるからそれと少し似ているのかもしれない。この場面は誰が一番酒に強いかを競争する場面なのだが、とんでもなく強い酒を飲んでいき少年たちがどんな風にノックダウンしていくかが描かれている。この文章がなんだかおかしくて訳者の方の技量には脱帽する。ただ面白いシーンではあると思うのだが、誰も酒で死んでいないから笑えるのであって、もしアルコールで誰かが死んでしまっては笑えないし死んでしまってもおかしくないくらい酒を飲んでいるシーンだと想像される。もう一つ個人的に面白かった場面が主人公が同世代の友達と空気銃戦争で捕虜を捕まえるシーンだ。よくわからないが空気銃というものがあってそれでチームごとに戦いあうらしい。エアーガンみたいなものだろうか。主人公とその友達は相手チームの一人がうんこをしているところを捕虜として捕まえるのだがここを説明している文体が淡々としていてなんだかシュールに感じてしまった。

もちろん、タイトルどおり主人公はビートルズに出会ってロックンロールに衝撃を受け、最初は手づくりのギターを弾いていて、そのうち友人たちとバンドを組んで下手くそな音楽を鳴らす、といういかにもロックな話が全体の流れとしてはある。物語の中で十字路が出てくる場面もあるのだが、巻末の訳者あとがきによるとブルース歌手、ロバート・ジョンソンの「クロスロードの伝説」を踏まえているらしい。きっとクリームのクロスロードもそこから来ているのか、といまさらながら気づいた私であった。

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