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もしも、鳩が鳴いたなら。【第57回北日本文学賞3次選考通過】

 いつのまにかこんなところまできていた。わたしがたたずむのは白いたてじまで結ばれた横断歩道、ぱっぽぅ、ぱっぽぅ、のんびり鳩が鳴いている。信号待ちの交差点、吹きでるメロディに背を押されのろのろ進む。  向こう岸には祈りを捧げるよう、黒い日傘がふたつ並んでいた。だれ? 風にはためかない、身にきっちりついたワンピース。そう、たしか、お葬式のときに見たのだ。横目で知られぬように会釈しながら。もしかしたら、遠い知りあいかもしれない、わたしは通りすぎてゆく。  陽射しはわたしをこげつかせ

    • ほろほろしずくの散る、【短編小説】

       鳩の、飛んできた先がTOKUSHIMAであるとわかったのは。羽やすめたつばさにまろぶひとたらしから。かき鳴らされては散りゆく、琵琶の滝がおどったから。  地に伏した沙羅の花、たけきものもつひにはほろびぬ、あなたはるか、しのんでいるのだと。あいつらは汚いから、ぜったいにさわっちゃだめだよ。鳩の使う少女の、くちびるにあてた鳩笛が響いたから。  手にしたアルミのサッシは冷えていた。きゅうかいのベランダから身を投げる。二転三転、あしうらにふれたアスファルト、まっくらやみの夜、凶と逢

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    もしも、鳩が鳴いたなら。【第57回北日本文学賞3次選考通過】