見出し画像

棺桶と砲火 #06 #絶叫杯

 さて、俺のお話はおしまいだ。だから次は、お前のお話だ。

 あん? どうした、えらく神妙なツラしてやがんなオイ。
 なに? 「俺の頭の中で好き勝手なことを言っている、お前はいったい誰だ?」だと?
 やれやれ、アイツの子孫にしてはちょっと鈍いんじゃねえのか。心配だぜオイ。
 俺が誰かだと? 決まってるだろ。

 俺は、吸血鬼アルノルトだ。

 意外そうなツラしてんじゃねえよクソガキ。流れでわかんだろ流れで。そしてお前さんは、エドワード・バナーワース。あのクソッタレから数えて、13代目の子孫に当たる訳だ。
 ああ、そうだ。俺はお前の中から語りかけているんだぜ。正確には、お前の「血」の中からだ。
 俺たち吸血鬼にとって、血は魔力。その魔力を使って、俺達はさまざまなことを成し遂げてきたんだぜ。
 そう。たとえば、だ。殺しても殺したりねえクソ野郎に、自分の血液をぶっかける。相手の体についた血液は、意思を持ってそいつの体内に入り込み、そいつの血液と混ざり合い……そうして、時を待つってわけだ。そいつが死んだら、そいつが血を分けた存在へと移り住めばいい。そうやってただひたすら、来たるべき時を待つのさ。そいつが俺の、最後の策ってわけだ。
 そうそう、その時っていうのはな坊や。クソッタレの人類どもが、吸血鬼を根絶したと思い込み、クソ太陽を消し去って夜を取り戻し、そうして何年も、何百年もたって、吸血鬼がおとぎ話の中の存在にまで貶められちまった、そのときだぜ。つまりは……今だ。
 お、震えてやがんな。怖えのか? だが怖がる必要はないぜ。ちょっと鏡を見てみなよ。ほら、自分の顔をよく見るんだ。
 瞳が、血のように赤く染まっているだろ。口元に牙が生えてんのが、わかるかいクソガキ?
 おめでとう。お前さんは今日から立派な吸血鬼だ。
 だから、怖がる必要はねえって。ほら、自分の手を見てみろよ。すでに震えは止まってるだろう? 深く考える必要はないのさ。ただ、内なる衝動に身を委ねるんだ。
 そうだ。お前の内側、深い深いところで、俺のじゃない声が聞こえるだろう? そいつはこう言ってるはずだ――「吸い尽くせ」ってな。
 さあ、窓を開けて夜へと飛び出せ。行って、男も女も老いも若きも、その牙にかけてこい。
 そして高らかに謳おうぜ。「夜は俺達のものだ」ってな具合にな。

 地獄から見てるかい? ヴァーニ―・バナーワース。
 我ながら、粋な計らいだと思うぜ。吸血鬼の滅亡、その引き金を引いた男の子孫が吸血鬼となって、人類に牙をむく……なかなかのシナリオだと思わねえか?

 ザマを見やがれ。

【完】
 

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ