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Killer is Attitude, NOT Style.

 心得の三 「仕事」は静かに   

 その老人が割り箸を箸袋から取り出したのと、セーラー服を着た金髪の若者が公園に走り込んできたのは、ほぼ同時だった。その後ろから、いかにも堅気ではない連中が若者を追ってきていた。
「ジジイ! 獲物を誘い出したぜ!」
 男はそう叫びながら、老人に向かって一直線に駆けてくる。老人は目をつむり、ペットボトルのお茶を口に含んだ。
「おいジジイ! 寝てんのかジジイ!」
「心得の三」
「あ? えーと、なんだっけ?」
 若者が首をひねりながら、老人の前を走り抜ける。老人は溜息をつくと、大儀そうにベンチから立ち上がった。追ってきた男たちの前に、立ちふさがる格好になった。
 老人の手には、箸袋が握られていた。

 心得の五 「道具」は選ぶな

 1。先頭を走っていた男が、前のめりに倒れた。その拍子に、首が胴体から転げ落ちた。2,3,4。後続の男たちが先頭の男の死体につまずき倒れ、やはり首が転げて落ちた。

 箸袋の先端が赤く染まっているのを見て、老人は二度目の溜息をついた。

「おー、さすがはジジイ、おっと師匠。いい仕事しやがるぜ」
「……お前を弟子に持った覚えはないと」
「まーだそんなこと言ってやがんのかジジイ。まだボケるにゃ早いだろジジイ。そんなことより、さあ言うとおりにしたぜジジイ。だったらババアの遺言どおり、しっかり俺を一人前の殺し屋に」

 爆ぜる音がした。

 老人が振るった箸袋は、若者の顔のすぐ真横で、若者の両手に挟み込まれていた。
「お、これってあれだろジジイ。『ムコードリ』ってやつだろ」
「……無刀取り、だ」
「お、それそれ。今度ちゃんと教えてくれよ」
 老人は、若者のにやけ面を見据えた。教える、か。この天才に、今さら何を教えることがあろうか。
 短い逡巡。三度目の溜息。
「……良いだろう。ついてこい」
「ん? どこ行くんだよ」
「良いところ、だ。そこで『最後の心得』を教えてやろう」

【続く】

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ