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投稿小説

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「逆噴射小説大賞」をきっかけに書き始めた小説です。ペースは遅いですが書き続けていこうと思います。
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記事一覧

鵺の啼く夜

人類の感情の中で最も古く最も強烈なものは恐怖である 「どいつもこいつも、なんて顔して死んでやがる」  死んでいる女を見下ろし、俺は気怠げに呟いた。  実際疲れてもいた。この一週間で出たホトケは、計十体。外傷は一切なし。死因は心臓発作。その他、共通点は一切なし。  いや、共通点は二つある。一つは死に顔だ。老若男女、すべての被害者がひどく歪んだ死に顔をしていた。この世で最も恐ろしいものを見た、といった風情の。  もう一つは遺書だ。いや、遺言か。ある者はノートに、ある者はメモに、

長い休日 #同じテーマで小説を書こう

「シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。それは料理。フランス地方に古くから伝わる……」  一人の少女が詠うようにつぶやきながら、海岸線を歩いていた。 「シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。それは料理。フランス地方に古くから伝わる……」  金色に輝く髪が海からの風に揺れる。

~夏休み特別スペシャル~  アイカツ! VS プリキュア! キラキラかわいいとびっきりの最強大血戦! #AKBDC

「ローマ! アイ、カツ! ローマ! アイ、カツ!」   その日、コロセウムは熱狂の嵐に包まれていた。押し寄せた観衆は、皆コロセウムの中央に立つ一人の剣闘士に向かって、あらんばかりの声援を投げかけている。彼らの放つ熱は、はるか南、熱砂の王国もかくや、とばかりにコロセウムを熱く燃やしていた。  彼ら観衆の胸には、ある期待があったのだ。おそらく、この日この場所で、剣闘の歴史に刻まれるような戦いが見られるはずだ、という期待が!  だが、そんな常人では押しつぶされそうなほどの熱狂を一身

Sweets and Blade

 青い青い空の下、廃都シノガリの真ん中で、"僻耳<ひがみみ>"の腹が盛大に鳴いた。同時に、軽いめまいが襲ってきた。襲ってきたときにはすでに、彼の体は地面に倒れ込んでしまっていた。手にしていた杖が、乾いた音を立てて転がる。腹の虫が、また情けない悲鳴を上げる。  むう。  声なき声を上げ、"僻耳"はごろりと仰向けになった。廃都の空は遥かな高みにあり、どこまでも青く澄み渡っていた。滅びさった街には、似つかわしくない青空だ。  まあ、見えぬ"僻耳"には縁の無いものではあるが。  心中

誕生秘話 #同じテーマで小説を書こう

 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、 「あ」  と幽かな叫び声をお挙げになった。 「髪の毛?」  スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。 「ええ、こんなに」  そう言いながら、お母さまがスウプの中から上げてみせたスプウンには、黒々とした髪の毛がいやらしくからみついていた。 「料理長を、お呼びなさいな」  私は、声を荒げてしまった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「料理長、これはいったいどういうわけですの」  食堂に顔を出した権藤を待ち受けていたのは、

銃(ガン)とサーカス

 長い長い廊下、その闇の中を歩む。ひたすらに。  闇は好きだ。心が休まるから。静寂があればベスト。   今日の相手は誰だっただろうか。ここ最近、相手の顔や名前が覚えられなくなっている。戦う前も、戦ったあとも、だ。なんというか、印象に残らない。良くない傾向な気がする。僕にとっての戦いが、「特別なもの」ではなくなっているってことだ。  歩み続ける先、闇の出口が近づいてくる。  僕は懐から「仮面」を取り出す。刻まれた空虚な笑顔と目が合う。この仮面は僕を戦士に、そして哀れな道化

【習作】国無き姫と はぐれもの騎士団

「……遅いのう」 「……遅いですな」 「ったく、小便一つにどんだけ時間かけてんだか」 「今日はかなり空けておったからな。下戸のあやつにしては珍しい」 「下戸って、オヤジから見りゃそりゃあ下戸だろうよ……なんだっけ? あのダッセー二つ名」 「『樽重ねのボガン』。ダサいとは聞き捨てならんぞ。そもそもこの二つ名はワシが里の連中と」 「はいはい分かった分かった、ドワーフのセンスにはついていけねーのがよーく分かった。てか、何度目だっての、その話」 「私の記憶では、通算51回めですな」

【習作】会話劇、自作の紹介記事、または一刻も早い事態収束への祈り

しましたザウルス 「あら……ここは……一体どちらなのでしょう?」 「え? あれ? あれ? こ、ここは?」 「ふむ……見渡す限りの、見知らぬ景色。これはまたまた面妖な」 「師匠、あんたまたなんかやったの?」 「その物言いは誤解を招くぞ、我が一番弟子よ。まるで拙僧が、日頃からこのような怪事を起こして回っているかのようではないか」 「似たようなもんだろ」 「ええと、お坊様……これ、あなたの仕業なんですか」 「娘御よ。それは大いなる誤解と言うものだ」 「そうですよね! すみ、すみま

死に、飢えるは……

 夕刻、焦土ヶ原に陽が沈んでいく。  水平線の彼方まで視線を遮るもの一つない不毛の荒野が、その名の通り炎の赤に――いや、夕焼けの赤に染まっていく。帝都の絵師や唄い手の奴らなら、この光景に底知れぬ”美”を感じ、身を震わすこともあるんだろうな、なんてことを思う。  美か。  俺にはてんで分からない。俺がこの赤から思い描くのは、血、臓物、そして全てを焼き尽くす炎。それだけだからだ。  ……我ながら酷いな。荒んでやがる。まあ、師匠が師匠だからな! 仕方ない仕方ない。 「……何を笑うて

人々の祈りを、力に変えて

 侍女に先導され、「神事」の場に姿を表した少女を待ち受けていたのは、千を降らぬ人々の熱狂であった。剣の乙女、救い主、銀髪の君、戦巫女。数多なる二つ名の連呼は怒涛となって、立ちすくむ少女を包み込む。  少女は、大剣を抱え込む両手にほんの少し力を込め、再び歩みだす。人々の海を割り、広場の中央へ。そこに穿たれた星型の孔の前に立つ。  大衆の熱狂と怒号に背を押されるように、大剣を振りかざす。あとは、これを孔目掛けて突き入れれば儀式は完遂する――その段階に至ったところで、少女の動きが止

死に餓えるは、蛮勇なるか

 最初にやって来たのは、熱さ。  自分の血の熱さだと気づくのに、数瞬の間。  痛みは遅れて訪れた。  小汚い廃工場。地面に転がりのたうち回る俺を汚い足で踏みつけると、ガドウは下衆野郎のお手本みたいな笑顔を浮かべた。俺は切られた顔を右手で押さえながら、必死にヤツの顔を睨む。今の俺に出来る、唯一にして精一杯の抵抗だ――心底ムカつくことに奴の、我童<ガドウ>の嗜虐心を少々強める程度の効果しかなかったが。俺を踏みにじる足――醜く膨らんだ脂肪の塊だ――にこもる力が増していく。圧を受け

もこみち

俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。  あまりにも唐突な依頼だった。依頼者曰く、「われらが東京都の誇る超AI『ゆりこちゃん』が全都民を総合的・多角的・感覚的に分析したところ、あなたが最適だとのアンサーが得られたからです」ということらしい。そういうものだろうか。自分では正直良くわからなかった。  だが、ひと月ほど聖火と共に暮らしていると、ときどき「なるほど、そういうことか」と思うタイミングがあった。それは、一人で食事をしながらふと目をやったランタン

(連載小説)紅剣鬼 目次

インチキ剣戟小説(超不定期連載)です  あらすじ 武芸集団『美留禰子(みるねこ)流』。その次期師範代と目されていた男、「暁月(あかつき)」が、突如流派の総帥を斬り殺した上、宝刀を持ち出し出奔するという事件が起こる。宝刀と流派の名誉を取り戻すべく、少女剣士「東雲(しののめ)」を含む精鋭五人――剛刀の残雪(ざんせつ)、無剣の竜胆(りんどう)、旋風の野分(のわき)、電光の飯綱(いづな)が追手となって「暁月」を追う。 第一話   第二話 第三話 第四話 第五話(乞うご期待

汝、かにばること無かれ

初めて「人を食べてみたい」と思ったのは、確か6歳のときだった。父と遊んでいたときのことだ。 何をして遊んでいたかは、あまり覚えていない。覚えているのはひどく楽しかった記憶と、父への愛情と、目の前にあった父の手が、とても美味しそうに見えたことだけだ。 目一杯体を動かして空腹だった僕は、目の前にあったその「美味しそうなもの」に思わずかぶりついてしまった。 口の中に広がった、父の血、父の肉の味。きっと一生忘れないと思った。その後に響いた、父の情けない悲鳴も。 そのとき僕は、