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医学生、行政に飛び込んでみた

この記事は、医学生として、一学生としての行政インターンでの奮闘記です。
この記事がこれから新潟県庁インターン・厚労省インターンに参加される医学生の皆さんにも役に立つことを願います。
そして最後にインターンで感じた行政への思いを少し。


2023年7月10日から7月14日にかけて新潟県の福祉保健部でインターンしてきました。
また、2023年9月末より厚生労働省の医政局でインターンしています。

なぜこんな時期に書いているかというと、振り返りを毎日溜めてきたものの、外部に出すタイミングを失ってしまっていたので大晦日を絶好のチャンスと捉えたからです。計画性のなさと、ちゃっかりさが出ていますね。
(もっと言うとこれはLab-Cafeアドベントカレンダーの21日目の投稿のはずだったのですが…忙殺されておりました、申し訳ありません。)

個人的にこの記事の目的は以下の三つです。

  1. 今までのインターンの振り返り(まだやってなかったので…)

  2. 国家レベルと地方自治体レベルの行政から見えるそれぞれの役割について

  3. 今後行政インターンに参加する医学生が「遠足のしおり」的に読めるもの

新潟県庁インターン(2023/7/10-7/14)

そもそも、なぜ?

そもそもなぜ行政?なぜ新潟?
新潟県庁インターンについて話すと必ずこの質問をされます。

私自身新潟県とは何の縁もゆかりもなく、このインターンで初めて新潟の地を訪れました。
また、その多くが卒後に臨床医としてのキャリアを積む医学生にとって、行政のインターンはとても異色に見えます。
実は、新潟県庁インターンは一部の界隈では長らくトレンドなのですが、その界隈はそんなに大きいわけでもないです。

まず、なぜ行政なのか。
その根底には間違いなく医学生に対する「綺麗なレールに乗っている」と言われるイメージに対する大きな違和感と反発があります。人と常に違っていたいと思っていた私にとって医学部に入ると言う選択は矛盾しているとも言えるほどのものでした。そんな環境に身を置いた結果自分の人生を自分でコントロールする感覚が欲しい、レールに乗りたくないという思いが日に日に増していました。
実際に医学生がレールに乗っているわけではないと言うことを、自分がその言説のアンチテーゼを体現することで示してやろう、と思ったわけです。
そんな時に医学部を卒業しながら行政の世界で活躍する医系技官の存在を知り、その時にタイミングよく新潟県の松本福祉保健部長(当時、2023年8月より厚労省医政局の安全室室長)を紹介していただいたことが決め手となりました。

次に、なぜ新潟なのか。
最も大きな理由は新潟県が学生、特に医学生に対する分野横断的な経験・教育に対して力を入れてきたため、行政での経験を通じて学びを与えるための素地ができていたためです。
何も知らない私のような学生でも一人でインターンに乗り込めるように、ホームステイ先(新潟県の医師会長のご自宅)から移動のサポートまで用意されています。
また、県庁職員の方々がインターンのいる環境に慣れていたことも非常に助かりました。

新潟県庁インターン奮闘記〜医学生デザインを学ぶ〜

7月9日の日曜日の夕方、部活が終わると共に新幹線に飛び乗った…

そして午後8時ごろに新潟駅に到着し、夜遅くにもかかわらず県庁職員の方にお迎えに来ていただきました。
ホームステイ先の新潟県医師会長の堂前先生のお宅に到着すると一週間のインターンを共にする医学生の二人が先にいました。彼らの存在がインターンをより実りあるものにしてくれました。
ただ、この時はこの後に待っている試練を知る由もなかったのでした…

翌日朝からインターンがスタートしました。

インターンの業務としてまず割り振られたのが県主催のイベントや研修医プログラムの説明会の告知ポスターを作り、ツイートを考えることです。
最初は「こんな簡単なタスク、一瞬で終わらせられるだろう」と舐めてかかりました。ところが、そう簡単にはいきませんでした。
意気揚々と提出した案は華麗に却下されました。その時にデザインの基本や、読みやすい文章、情報密度を上げる方法など多くを学びました。
県庁でイベントを開く際、講演者のブッキングから告知、当日の運営まで全てを県庁で行う必要があるため、そのすべてをそつなくこなす必要があるのです。
他のインターン生が二人とも社会人経験者であったこともあり、作業の速さや処理能力などで圧倒されながらもなんとかついていきました。

2日目、3日目と日を追うごとにあらゆる業務を任せられるようになりました。一週間のインターンの終わりにかけて完遂した業務は主に二つでした。
一つ目が新潟県の新型コロナウイルスに関する医療提供体制の変更を説明するスライドの作成、二つ目が新潟県の研修医獲得戦略の提案でした。
だんだんと大きなものを任せてもらえ、そして県の政策そのものや公式資料の作成に携わっている感覚はまさに何者にも代え難いものでした。

病院見学の相乗効果

新潟県庁インターンに参加する医学生は途中で病院見学に参加することになります。
多くのインターン生は市街の近くの病院へ見学に行くのですが、私は病院を決める際に「地域医療の現場が見える病院がいいです」とお願いしたため、県立十日町病院の見学をさせていただくことになりました。

県庁でプレゼンを終えてそのままバスに揺られて2時間、十日町に到着しました。まだ3年生だったこともあり、病棟を回るのも初めてでした。
ただ、先生方に連れられて病棟を回るうちに新潟県の、地域の医療の現状を肌に感じました。
地域に押し寄せる高齢化と過疎化の波を目の前にして県庁インターンで自分の中では少し他人事のように思っていた政策に関する議論を初めて紛れもない現実として感じました。

それと同時に、地域を支える医師の強さと聡明さに触れて、地域での医療の捉え方が自分の中でガラリと変わったのを覚えています。

新潟県庁インターン総まとめ

新潟県庁インターンで人生が変わりました。

これは誇張でもなんでもない事実です。
新潟県庁インターンは次の二つの Life Changing な知見を得ました。

  1. 自分自身の当事者視点の欠如

  2. 「作用点」としての地域

まず、当事者視点について。
何か情報を出すとき、そこには常に伝えたいことがあり、多くの場合通したい要求が存在する。そして大事なのはどのような人がその情報を受け取るのか、受け手の視点から考えることだと学びました。
これはポスターの作成ひとつから政策提案やレクまですべてに通じる考え方です。
受け手がどこまで知っていて、受け手の需要と懸念(どこまでが譲れるポイントか)を理解する。
何か情報を発信する時に受け手のペルソナのようなものを細かく分析し定義しきれていなかったことに改めて気付かされました。

次に、作用点としての地域について。
地域の行政の現場を見て意外だったことが、国から降りてくる政策が抽象的だったことです。
国から出される政策はあくまでも方針でしかなく、それを具体的な施策に移すのが地方行政の役割だと気づきました。そして、その施策を実行に移すのが十日町病院のような各病院でした。

今まで国レベルの大きなところに入ることによって日本を動かせると思っていたため、漠然と国家レベルや国際的なレベルでないと何もできないと思い込んでいました。
ただ、どこで実際に政策が咀嚼されて実行されるのか、その「作用点」を知らなければ実際に現場を動かすことは不可能だと悟りました。
何かを動かしたい、変えたいのなら「作用点」の論理を知らなければいけないと強く思いました。

この5日間は今まで全く視界に入っていなかった地域の重要性を実感した経験として今後の人生に大きく役立つと思います。

これから新潟県庁インターンへ向かう方へ

最後に少しだけ新潟県庁インターンのおすすめポイントをまとめて新潟県庁インターンを迷っている方の背中を押したいと思います。

まず、地域の病院(特に十日町病院)での病院見学を行うことで一週間のうちに地域医療の現状を垣間見ることができるのはとても良い経験になります。この経験を学部生のうちにすることで自分の将来の考え方も変わるでしょう。

また、新潟県庁インターンでここまで多くのことを見せてもらえて、教えてもらえるのは学生のうちにしかできないことだと思います。
実際に社会に出たら本業で忙しい上に、あらゆる思惑や利益相反などが絡み、純粋に経験としてのインターンをすることは難しくなると思います。
このインターンをフルに活用できるのは学生の特権です。

そして最後に、新潟で一生忘れることのないような時間を過ごしつつ互いに高め合える仲間と出会えることです。
新潟で出会った堂前先生や十日町病院の先生方をはじめとする皆様、そして共に一週間を戦い抜いたインターン同期たちと共に過ごした時間は最高でした。

何か新しいことをしてみたい、色々な医師のキャリアを見てみたい、医師としてより広く社会に関わりたい、そんなあなたに新潟県庁インターンをおすすめしたいです。

そうだ、新潟行こう

厚労省インターン(2023年9月〜)

前述したように、8月から松本先生が室長として厚労省に着任されました。松本先生のご厚意で厚労省でのインターンが実現しました。
9月最終週に4日間うかがった後に10月からは継続的に週一回程度の頻度でインターンに伺っています。

厚労省で学生に何ができるのか?

厚労省の現場を見てみたいと思っていながらも厚労省のような大きな組織、しかも行政のプロ集団(強制労働省と揶揄されるほどの厳しさ)のなかで自分がどのような価値を出せるのか不安でした。
ただ、一回現場に入ってみると、すぐに実戦に投入されました。学生だからと言って明らかな手加減はありません。
厚労省では求められる水準の高さや作業の速さなどによって圧倒されることも多いです。
ただ、自分の能力不足は自分の伸び代を表していると思うと、常に高みを目指し続ける原動力になるのです。

今まで厚労省でのインターンの業務は広報誌のインタビューの計画作りの補助、レクや政策提案のためのデータの整理、プレゼン作成、海外からの来客対応と多岐にわたります。
これらどれをとっても、部分的であっても国家を代表しうる責任の重さを感じます。そして自分が作業する過程の前後ともに百戦錬磨のプロがいると思うと常に身の引き締まる思いです。

また、常にフィードバックしてもらえて、質問に答えてもらえる環境も厚労省インターンの大きな魅力です。
特に、法整備が与える影響や戦略的な部分など、現場でしか聞けないことを教えていただけたことはルールや規範を考えるのが好きなの自分にとってはとても貴重な機会でした。
厚労省の高い水準で自分の成果物や論理に対するフィードバックをもらえます。

厚労省(=実戦)で学んだこと

今の段階で厚労省インターンで学んだこととして以下の3つが主に挙げられます。

  1. スタンスを取ることの重要性

  2. 自分の能力の把握の重要性

  3. 情報の海を航海する能力の必要性

まず、現時点で厚労省インターンで学んだ最も大きなことがスタンスを取ることの重要性です。
厚労省のように常に情報量の多い場所ではスタンスをすぐにとりその立場を根拠と共に説明できる能力が求められます。
スタンスを「素早く」取ることを求められるため、誤ったスタンスをとってしまうこともあります。
それでもスタンスを取り、その根拠を探す時に見ている事象の解像度が格段に上がるのです。
素早くスタンスを取る、つまり決断を素早く下すことはエネルギーを要します。
また、それ以上に私がスタンスを取るにあたって最大の障壁となっていたのが、誤ったスタンスを取ることによって批判されることに対する恐怖です。
自分の意見への批判と人格の否定が別物だとわかっていてもそれを実際に納得するのはとても難しかったです。

次に学んだこととして、自分の能力を常に把握し続ける重要性です。
大きな組織では自分はより大きな流れの一部分を担当しているに過ぎない状況になります。
その時に、業務の流れを止めてしまい全体の動きを鈍化させることのないように、己の限界を知る努力が重要になります。
この考えはスーパースターによるワンマンプレイが効かないような大きな組織に所属して初めて見えました。

最後に、情報の海を navigate する能力についてです。
あらゆることが情報化された現代において、その情報をいかに整理し理解するかが大事になります。
そして厚労省のような国全体を考える場所で扱う情報量は膨大です。
その時に情報量を扱うのを得意とするAIをいかに使うか、どのようなデータ処理方法があるのかを知らないと情報の海に溺れることになります。
新たなツールを積極的に使いながら、情報の海の中から宝を見つける能力はとても重要です。
今までデータ分析に本格的に触れてこなかったのもあり、重要性が身に染みています。
今後の個人的な課題はデータと上手に付き合うことです。

最後に、行政への思い

最後に、新潟県庁のインターンと厚労省のインターンの両方を経験したことによって抱いた行政への思いを簡単にお話ししたいと思います。

行政のインターンで学んでこととして大きく二つ。
行政で働く方々のまっすぐさと、行政の思いもよらぬ自由さです。

行政で働いている皆さんの根底には社会を、国を、世界をよりよくしたいという強い思いが貫いています。
そして医師会の上層部にしても、各病院長にしても、中央のカウンターパートとなる人々は誰でも社会貢献の心を持っているように感じました。

そして、行政の自由さについて。
「県庁」や「官僚」と聞くとシステムの中にガッチリと囚われて自由のない環境を想像しますが、インターンを通して見えてきた現実は少し異なりました。
新潟県のイベントに代表されるように、組織として達成すべき究極の目的に向けてあらゆるクリエイティブな手法をとっていました。
国や自治体は幅広い事業に携わり、あらゆるコネクションがあるため、それだけできることの幅も広がるのです。

そして、個人的に感じたこととして、国レベルにしても、地方自治体レベルにしても結局与えている影響の総量に変化はないのではないかということです。
大きなレベルに携わると何か大きなものを動かしているように感じますが、実際はごく表面的なものに限られていることも多く、またとても限定された部分を扱っている場合も多いと思います。
外からは大きいことをやっているように見えない地方自治体が逆に人々の生活の本質的な部分をより良く変えることもあると思います。

結局、個々人の向き不向きとその時の運で世界のどの部分にどのように関わり、1番大きなインパクトを残すのかを考えることが大事だと今は思います。

今までのインターンで関わった全ての皆さん、そしてインターンに参加させていただいた松本先生には心から感謝申し上げます。


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