善意

何日ぶりだろうか。
まるでnote界の冨樫義博とでも言える
更新頻度だ。
違いがあるとすれば、
彼の物語は世界中で心待ちにされている
一方で、
このnoteは誰の目にも留まらない事くらい
である。
つまり誤差のようなものだ。

バイト先のラーメン屋に、
たまーにやってくる謎の老婆がいる。
店長と親しげに話している事もあった。
オーナー一家の家族なのか。
はたまたただのご近所さんなのか。
身元は分からないが、
決まって午後2時頃
他の客が誰もいない時間にやってくる。
そして店の定番メニューを温玉抜きで
頼むのもお決まりだ。

二度目に老婆が来店した時、
僕は事前に尋ねた。
「温玉抜きでよろしいですか?」
すると老婆は嬉しそうに、
「覚えててくれたんだね。」
と言って笑った。

なるほど。

接客業もなかなか悪くない。
基本的に自分のペースで動けないため、
飲食店のような業務は嫌いだ。
しかし、実際に働いてみることでしか
分からない世界がある。
何かを始めようとするとき、
やらない理由ばかり探してはいないか?
挑戦することは誰だって怖いのだ。
しかし、やらなかった後悔は何よりも重い。
迷わずいけよ。
いけばわかるさ。
元気ですか?

闘魂が燃え上がりそうになったところで、
ラーメンが完成した。
謎の老婆の眼前にスッと差し出す。
「お待たせしました」
いつもよりキーが半音高い声色で
言った。
老婆が一口啜る。
そして一言こう言った。

「兄ちゃん。今度から麺は
柔らかめにしてちょうだい。」

は?
は??

このババアは何を言ってやがるんだ?

温玉抜きを覚えていたのを良いことに、
まだ細けーことを覚えさせるつもりか?
この俺に?

こっちがたまたま覚えていただけで
てめーの趣味趣向を全て覚えておく
筋合いなんかねーよ。
こっちがちょっと優しくしたくれーで
つけ上がりやがって。
一回寝ただけでもう彼女ヅラかよ。

やれやれ。
困ったものだ。

ふと、
以前某コンビニで働いていた時の事を
思い出した。

タバコを買いに来たジジイがいた。
厄介な事にそいつは、
タバコを番号ではなく略称で注文してくる
タイプの生ゴミだった。
私は質実剛健な健康優良児であるからして、
タバコの名称など知る由もなかった。
何とかそいつのお目当てのタバコを
見つけ出し、会計を終えた。
その時、あのウンコ製造機が言い放った
セリフを生涯忘れる事はないだろう。

「俺これしか買わないから覚えといて。」

お前の事誰が好きやねん。
良い事ないねやろ。
生きてて。

知らぬ。
お前の事も。
お前が買うタバコの事も。
そんな事5分後には忘れる。
こっちは1日に何人相手にすると
思っているんだ。
未だに世界は自分を中心に回っていると
でも考えているのか。
そんな想像も働かない程度の知能しか
得られない人生ならば捨ててしまえ。
ホトトギス。

そんなこんなで、
どうやら老婆の食事が終わったようだ。
スコッティのティッシュで
口元を拭きながら立ち上がる。

「美味かった。ごちそうさん。」
そんなことを言えば許されるとでも
思っているのか。
まったく。


またこいよ。ババア。


F.WALT 
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