謎の男の手記

これは、ある音楽スタジオで発見された
一枚の奇妙な手記である。


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スタジオ練習をして朝を迎えてはならない。
決して。

深夜12時から朝10時までのナイトパック
10時間使用で一万円ポッキリ
破格の安さに魅了され、
僕らは意気揚々と予約をした。

当日、1時間も早く到着してしまったので
車内で少し時間を潰した。
予約時間が近づき、受付に声をかけるが
いくら呼びかけても返事はなかった。
試しに、スタジオのドアを開けてみると
鍵は開いていた。
まるで僕らを誘うように。

練習が終わってから払えば良いか。
そう思い、僕らは何の疑いもなく
スタジオに足を踏み入れた。

AM3:00
到着してから既に感じていた眠気が、
どんどん強くなっていく。


AM5:00
襲いくる睡魔との戦いだ。
今この文章も歩きながら書いている。
そうしなければ、
すぐに10時間程夢の中を彷徨う事だろう。



AM7:00
一通りセットリストを通した。
もう眠気も限界だ。
少し早いけど、切り上げて帰ろう。
そう思ったのに。
受付に誰もいない。
これじゃ支払いが出来ない。
俺たちはまだ帰れない。
ここにはフリーWifiも通っていないのに。
これはあまりにも致命的な問題だ。
インターネットを使えないだけで、
これ程までに耐えがたい暇に
さらされるとは。


AM8:00
地球の人口程もあろうかというくらい
生い茂っているすね毛を
まじまじと観察しても、
一向に時間は過ぎてくれない。
この苦痛が一生続くように思える。

これは天罰なのだろうか。
人間という罪深き存在に与えられた
神の裁きか。
毎日すね毛を一本ずつ差し出せば
贖えるのだろうか。
どうかお教えください。

アーメン




AM9:00
たすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけて


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手記はここで途切れている。
彼らがその後どうなったのかは、
誰も知らない。

お終い。



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