見出し画像

コロナ禍の小説家が出来ることを考えた

 タイトルどおりです。
 コロナ禍で変化する情勢と一緒に、すみっこ作家・田井ノエルが考えた結果と行動をnoteにまとめました。ぶっちゃけ、正解だとは思っていません。わたしはこうすることにした!という意思表明でございます。

世の中が変わりはじめてきた……?

 新型のウイルスがあるという話題は知りつつも、自分事ではなかった1月2月。わたしは端的に言うと、追われていました。5月発売予定の原稿を書いている真っ最中。ついでに、3月刊の改稿や校正も同時進行。夏秋以降の仕事についての企画も進めており、インフルエンザでもないのに発熱してブッ倒れ(花粉症が割と重症で、この時期発熱することがあります。アレルギー剤増やしたら完治しました)、滋養強壮剤飲んでPCの前に這い戻るという情けのない生活をしていました。そうだよ。ニュース見てる余裕もなかったよ!
 それでも、刻一刻と情勢が変わっているのは知っていました。
 やがて、2月後半になると不要不急の外出自粛が叫ばれるようになります。最初は感染予防策を講じて開催されるイベントの様子が報道されました。だんだん、中止になるイベントが相次ぎました。
 それでも、4月には落ち着くだろう……そんな空気。まだ、みんな明るい。
 でも、しばらくはイベントの類はできないだろうなぁ……ぼんやりと、5月刊のことを考えていました。

サイン会イベントは、たぶん無理

 ここで宣伝のようなものが挟まるけれど、自著で1番読まれていると思われるシリーズ道後温泉 湯築屋」(双葉文庫)の刊行にあわせて、毎回、地元・愛媛県松山市でのサイン会イベントが行われてきました。最後に行った年末のイベントでは、整理券60枚が捌け(配っていなかった時間もあったみたいなので、70くらいいたかも?)お連れ様も含めると100人は人が集まっていました。
 地方ですが……とてもじゃないけど、このご時世にやってもいいイベントではありません。4月にはおさまっていたとしても、たぶん、5月刊行の5巻にあわせてのサイン会はむずかしいだろう。
 サイン会を一緒に企画してくださる書店さん側からも、「通常のサイン会はむずかしい」と説明されました。そりゃそうだ。

じゃあ、別のイベントをやりましょう!

 地元の書店さん・紀伊國屋書店いよてつ髙島屋店さんからのご提案でした。
 サイン会がやれない。しょうがない。でも、そこで引き下がっちゃ駄目!絶対!
 とにかく、わくわくしました。双葉社からも、「やってええよ!任せる!」というご許可。
 店頭で配るノベルティなんてどうだろう?ステッカーなら、安価に作れるよね?特典SSくらいなら、何パターンでも書くぞ!注文から配送承ってもいいっすね!
「配送なら……(ここは詳しく言えないけど)交渉すれば受付フォームが使えるので通販で予約・配送販売できるよ!」
 今まで、サイン会は地元でしかやっていません。全国に配送できたら……とっても、素敵じゃない?
「田井さん。サイン書くところ配信しちゃおうよ!嫌だったらいいけど!」
 !?!?!?!?!?
 そうか……サイン会ができないなら、配信しちゃえばいいんだ……!
 わたしはYouTuberではないけれど、Twitterはまあまあの廃人である(自慢ではない)過去のサイン会も、集客のほとんどはTwitterに頼っている状態でした。それなら、ツイキャス配信で人もそれなりに集まるのでは……?
 ふんわりと構想が固まったところで、準備が進む。
 この頃、3月の中旬。まだ国内での感染者数も横這いで、ダイヤモンドプリンセス号がどうとか言っていた時期。外出自粛が叫ばれつつも、値崩れした高級ホテルに格安で泊まった報告なんかもあったころ。Twitterでは、みんな蘇を煮ていた。
 駅前などの書店さんは閑散としていたが、郊外店は盛況。巣ごもり需要もあり、出版業界はまだ大きなダメージを受けていませんでした。

書店休業

 4月に入って。
「サイン本、何冊書ける!?50冊くらい行っとくー!?腱鞘炎にならないかな!?」
「通常のサイン会だと、みなさん平気で既刊をお持ちになられるので明らかに100冊超えてサインしてます!何冊でもいいです!」
「そっか!近々告知出すよ!」
↑おいこれ、書店と作家の会話なのかよって感じですが、紀伊國屋書店いよてつ髙島屋店の店長さんは、名物おじさんというか……とにかく、特徴的な人なのです。いい人です。うん……「むつこい」って感じ?(方言です)
 でも、告知はされませんでした
 4月7日。7都府県を対象に緊急事態宣言が発令されます。
 翌日から、飲食店をはじめとして様々な施設やお店が休業に入ります。多くの書店さんも休業しました(のちに、書店は休業の対象外となりましたが、休むって決めて閉めちゃったお店を易々とは開けられないよね!)
 ちなみに、7都府県に存在する書店さんは、いわゆる、全国の売り上げトップを担う書店さんです。休業してしまうと、書籍の初速に大きく影響するわけで……端的に言うと、すべての書籍の売り上げが落ちます。ここに来て、大きい波が出版業界に襲いかかった形になります。
 この辺りから、作家さんによるSNSでの告知活動や、応援企画が活発になりました。出版社のほうでも、対策を急いでとりはじめます。
 電子書籍の売り上げは伸びているけど、紙の本が売れない補填をできるかと言えば別問題。全然足りない(漫画は知らん)本は余っているのに、買う場所がない。通販サイトは物流パニックが起きて、本の販売を制限してしまう始末。書店の通販サイトでも、扱えない本が続出状態。本が買えないから、開店している貴重な書店さんに人が集まって密を形成。みんな疲弊している……。
 そして、緊急事態宣言は全国へ拡大しました。
 あー……。
 あー…………。
 予期していました。うん、知ってた。
「ごめん、田井さん。明日から、いよてつ髙島屋が休業します。企画を進めるのは、むずかしい」

だからなんだよ

 緊急事態宣言の全国拡大で、なんとなく予期していました。いよてつ髙島屋は百貨店です。食料品売り場は開くにしても、紀伊國屋書店は7階のテナント。いくら休業要請の対象外と言っても、営業は無理だわー。知ってたわー。はい、知ってた知ってたー。
 予期していたからと言って、平気なわけがない。
 同時期に道後温泉本館の休館ニュースも見たせいか、ダブルパンチでマックス気落ちしておりました。作家仲間に1時間も2時間も愚痴を言いながらワーワー泣いて悲しい悲しいとお気持ちを表明しても飽き足らず、なぜか同居中の彼氏をクッションでボコボコにブン殴って大荒れの日々を過ごしました(暴れるなと正座で説教されましたごめん)
 このころには、全国の7割の書店さんが休業中という情報が出回ってきていました。5月刊の初版部数も知らされました。
 わたしは普段、自宅ではなく外で執筆するタイプの人間。この状況なので自宅にこもって書いていましたが、そのせいか原稿全然進まない。精神的なものも大きいと思う。発熱で頭もパンクするが、FGOしたらおさまった。シナリオ尊かった。原稿が進まないことに苛立って、また作家仲間に愚痴を吐きまくる。裏腹に、Twitterでは「自宅でパフェ作った~♪」「いちご飴美味しい~♪」とかいうキラキラ系ツイートが激増。作家仲間からは裏表の激しい作家だと笑われた。
 そんな大泣きフェーズを終えて、笑うしかない感じへ移行。
 一周回って、思考がポジティブになってきた。

自分の仕事はなにか考えろ

 作家の仕事はなんですかー!!!
 宣伝して本を売ることかー!!!否だわ!!否!!!それは営業さんと書店さんの仕事だって、散々言って聞かされたぞ!!!幸い、愛媛の書店さんは結構開いてるぞ!!!だいたい、作家がネットでいくら告知しても売り上げには影響しないのが定説だ!!!ネット見てる人と大多数の購入読者さんは一致しないからね!!!
 告知活動はすべきだが、売り上げについて足掻くのは、わたしの仕事ではない(断言)
 じゃあ、本を読んだ人……読者さんに報いるのは誰の仕事?
 今までのサイン会は読者さんとの交流イベントとして行ってきました。直接お話しできる貴重な機会です。わたしも、読者さんも楽しい。これは営業さんや書店さんに任せられない仕事です。
 そりゃあ、読者さんに対するサービスや交流は厳密に言えば必要ない仕事です。そこに報酬が発生することはありませんし、時間を消費します。コミュニケーションだから気を遣います。やらなくていいんです。
 だけどさぁ。
 せっかく準備を進めてきたんだし……やりたいじゃないですか。
 サイン会。

\\\サイン会やるぞ!!///

やるったら、やる!

 とりあえず……やれる読者さん向けのサービスは、やる!!!
 書店さんの協力はなくなったし、今から出版社と動くにしても限度があるから個人企画だ!!!オラオラオラ、やるぞ!!!
 一方、サイン会の告知準備中に、別の企画も進めました。
 前回のサイン会でスタッフさんに着用していただいたものと同じデザインでのTシャツ販売(販売はこちら)です。
 こちら、以前は自費で10枚だけ作っておりました。年末のプレゼント企画には150人あまりの方が応募していただいた代物です。販売希望の声が多かったので、この機に商品化しちゃえ!
 本当はこちらの発表は新刊と同時予定でした。でも、サイン会の告知を自前ですべてやることになったので、順番の変更です。
 ちなみに、売れ行き思ったより好調で少額ながら利益が出ました。ありがとうございます。
 こちらの利益を元手にマスクを購入して、懇意にしている書店さん数店舗に寄付させてもらいました。元は読者さんのお金なので、しょうもないことに使いたくないです。
 この時期に営業する書店さんは大変です。少しでも役立ててほしかったけど、本当に少量なんですよね。あまりたくさん送っても気を遣わせてしまうし、Tシャツ売った利益の範囲で。

在宅サイン会

 サイン会!!やるぞ!!
 こちらも準備していきます。とはいえ、今から他の方法で通販はできないぞ。
 んー……最近、サイン本企画とかやってる作家さん、たしかいたよな!参考にできないだろうか?
 出版社と方法を検討して、早速、交渉してみた。『千歳くんはラムネ瓶のなか(小学館)』の作者・裕夢先生のサイン本企画の手法をお借りすることにしました。
 ざっくり説明すると、読者さんが購入した本を出版社に送付してもらい、それを作家宅へ転送。サインを書いて返送するという感じ。転送費は出版社負担ですが、往復の送料は読者さんの負担になるという形式。期間を決めて回収した書籍にサインする様子をツイキャス配信します。
 この形なら、出版社OKが出ました。
 ということで、こちらが告知。個人企画なので告知画像もルールも、基本的には自分で作りました。出版社には荷物の整理と転送だけお願いする形です(それでも、そうとうな負担ですよ……)

 ツイート等の反応を見た担当さんが一言。
「こういうのは、プロ野球選手のバレンタインくらいは覚悟しておいてください。なにせ、既刊5冊送れる仕様ですので」
 そもそも、プロ野球選手のバレンタインって、どのくらいだよ。ピンキリじゃないかなぁ!すごい幅のある便利な比喩だなぁ!

誰もやっていないなら、やる

 自分の観測範囲で、こういうことをしている作家さんはいない。
 作家仲間からは「コスパ悪すぎる」とか「大変すぎる」とも言われました。このコロナ禍での出版。下手をしたら、作品の打ち切りが決まった状態なのに大量のサインを書く可能性すらある。逆に全然応募がない!というパターンもあるよね。作家がいくら宣伝しても売れない。知ってる。書店さんにマスクを少量送っても焼け石に水。そんなことするくらいなら一本でも多く原稿を書け。おっしゃるとおり。
 でも、それはそれ。これはこれ。
 むしろ、誰もやっていないなら……やってみたらいいじゃない。労力はかかるけど、たぶん、読者さんには喜んでもらえるし!
 これまで、地元にしかサイン本が存在しなかった作家なので(出版社を介して県外の書店さんに入荷したものも少数あります)全国を対象にした企画は本当に嬉しいです。今までに出版社に届いたファンレターも、意外なことに愛媛県外の人が多かったです。
 通販のほうが読者さんの送料負担も少ないし、システムも楽だったと思います。でも、この方法だったら、今まで買っていただいた既刊にもサインできます。すでにサイン本をお持ちの方には、為書きの追加もしますよ。
 利は薄いでしょうが、読者さんの心に残る企画がしたい。ここまで来たので半分以上は意地だったりもします。絶対負けないぞ。ここで折れたら、なんかこの先やっていけない気がする。コロナ禍でも、絶対負けなかったって言い張りたい……いや、知らんけど。
 という思いで在宅サイン会企画を進行中です。
 長文、お目汚ししました。この記事に意味はあったのか?知ってたか。意味など考える人間が、作家なんてしないんだぞ。これは自己満足の決意表明である。

 ありがとうございました。

※以下に文章はありません※


田井ノエルや記事が気に入った方は、ぜひサポートおねがいします。100円~10000円まで任意で設定可能ですから、少額で構いません♪ サポートでいただいた費用は日々のコーヒー代や取材費となります。まとまった額が集まれば、地元等への寄付金にする場合もございます。 よろしくお願いします