団地の遊び 思い出徒然 ニ

思い出徒然 ニ

 子供時代は、なんだか冬の記憶が、多いのだが、ほかの季節も、もう少し考えてみる。
 おそらく、暖かい季節だろう。ミミズが大発生した。団地の階段側の道が、ミミズだらけになった。
 踏まないと歩けない。踏むと、殺すことになるので、なんとなく嫌だったのだが、そうしないと前に進めない。夜は、ミミズ道になった。
 今、思うと、あれはなんだったのだろう?一ヵ月ぐらいそんな状態が、続いたような気がするーーー記憶が正しければ。
 ミミズのいる土は良い土と言われる。ということは、団地の土は良かったことになる。
 団地は、やたらと芝生だらけだが、その芝生はどうなっていたのかの、記憶がない。まさにミミズで埋め尽くされていたのか。
 いつもそういうことが起こるわけではなく、起きない時もあった。
 大人になっても、ミミズ大量発生はあった。そして、しばらくすると、なくなる。
 この現象は、実際団地にいたときは、なぜかあまり深く考えなかった。しかし、今思うと、これはなんなのか?と思う。
 次は台風である。川が氾濫した。いつも遊んでる団地の中の川である。四階の部屋から降りて一階に下りたときはビックリした。四段ある階段の手前まで、水が来ていた。驚いてすぐ四階に戻った。
 窓から外を見ると、雨風が強いーーー台風である。下を見ると、いつもの公園が、水浸しである。
 四階でよかったとつくづく思った。
 ところで、この話を人にすると、そんな事は起きてない、と皆が言った。あれほど鮮明な記憶なのに、誰もがーーー川なんか氾濫してない、階段の所まで水が来てたら大変じゃあないかーーーだから大変だったからーーーないって。
 となると、自分の記憶が怪しくなるのだが、やはり、そういう事が起きたような気がする。その気になって調べたら、わかる事案だと思うのだが、まだ調べてない。
 次は、野良犬事件である。犬の集団が、公園を占拠した。昭和の時代、野良犬は結構いた。
 四階の窓から見ると、公園に犬が、たくさんいた。回りを子供や大人が囲んでいる。
 下に降りて公園近くまで行くと、イヤなにおいがする。なんともいえない動物と腐敗が混ざったような臭いが公園からした。
 近くにキーちゃん(仮名)がいた。ーーーくさいだろ。コッチを見てそう言うので、頷く。
 怖いという気持ちはあったが、犬たちからはそんな危険なにおいはしなかったーーーくさい匂いはするけど。
 全部で十匹以上はいたと思う。すると、その犬たちが、合図したように一斉に走り出した。二匹か三匹ずつが組み、散り散りに走る。白と灰色の中型犬二匹が、コッチに向かってきて、一瞬、ヒヤッとしたが、なんか笑い顔みたいのを浮かべ、通り過ぎていく。くさい匂いが残る。
「行くぞ!」えっ?どこへ?キーちゃんが走り出すので、なんかつられて自分も走る。
 焼却炉の横を通る。ここは、猫の集会所でもある。やはり猫たちは、全員が壁の上に乗っていた。あきらかに、迷惑そうな顔をしている。
 自分たちは、犬を追いかけていた。キーちゃんが言う。バラバラになって逃げて、あとでみんなで落ち合う作戦だろうーーーなるほど、そうか、と思いはするが、今ひとつ納得できなかった。
 軽トラックが、あちこち停まっていた。水色の作業着を着た人たちが、気づくとアチコチにいた。保健所の人たちだった。 
 自分たちは、焼却炉の近くにいた。べつの公園に、さっきの犬二匹が、保健所の職員に、なんだかアッサリと捕まっていた。
 手で押さえつけ頑丈そうな紐の付いた首輪を、カンタンに装着している。 
 団地中が、なんかくさかった。
 ーーーアイツら殺されるのかな。キーちゃんが、犬を見てボソリと言う。その手の知識は、いくらかは持っていた。しかし、今ひとつピンとこなかった。虫と違って犬を殺すのは大変だろう、と思っていたーーーガスや注射で処分などという知識はなかった。
 焼却炉に戻ると、猫たちがさっきと違い、あきらかに緊張感なく、リラックスしていた。
 キーちゃんの飼ってる猫もいた。焦茶色したブサイクなメスなのだが、不細工というとキーちゃんは怒る。
 広い芝生の方に行く。犬のくさい匂いはせず、いつもの芝の香にホッとする。橙色の夕日が、落ちていくところだった。初秋の夕暮れだった気がする。
 まだ、あまり寒くないな、そんなことを思い、そばの銀杏の木を見て、それ程、色づいてない葉っぱに納得するのだった。



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