団地の遊び 学食

学食

 学食によく行っていたときは、昭和であった。
 メニューは豊富だった(この時代では)。定食、スパゲッティ、チャーハン、ラーメン、うどん、蕎麦、カレーなど結構あった。うまくもないし、落ち着かないし、騒々しいのに、どうしたわけか、案外覚えている。
 学食で一番食べたのは、カレーである。カレーが大好きというわけてはない。一番の理由は、運ぶのが楽だから、というもの。定食は、お盆が大きいのである。なんかひっくり返しそうで、席に着くまで怖くて仕方なかった。人がたくさんいる中を、大きく重いお盆を両手で持つのが、やけにしんどかった。
 よってカレーである。カツカレー大盛りというのが、学食で一番高いモノだった。確か三百八十円だったと思う。一回だけ、試しに食べてみた。自分がバカなのは、大盛りにしたところで、味は一緒なわけで、そのことに食べるまで気づかなかった。食べてから、量が多いだけじゃんと思った。我ながらすごいバカである。
 ダブルコロッケカレーというのも、人気があった。コロッケ二つである。そしてまた自分はバカなことをやる。トリプルコロッケカレーを頼んだ。トリプルコロッケ、と言っても、食堂のおばちゃんには通じず、コロッケ三つと言い直さなければならなかった。ちょっと恥ずかしかった。でも、結局、味は同じである。
 これから書くことは、人に言うと、みんな、ウソだろ、と言うのだが、本当の事である。
 学食でケンカが起きた。理由は知らない。すると、怒った一人が、チャーハンをケンカ相手の頭にぶっかけた。当然、身体中、米だらけになる。そしてコイツはこう言った。「ラーメンじゃなくてよかった」
 本当の話なのだが、あまり信用してもらえない。
 素うどんというのが、確か一番安かった、百円か百二十円と思う。一人、カツカレーを食べていたら、下級生がごはんのどんぶりとうどんを持って、対面の席に座った。そして、素うどんをオカズにごはんを食べ始めた。
 つい、ボーッと見てしまった。ラーメンライスは知ってるが、素うどんライスは、今まで見たことがなかった。べつに全然問題ないのだが、とりあえず初めて見たので、つい興味を引いた。
 下級生はバツが悪そうな顔をして食べている。悪いと思ったので、目をそらした。タンパク質がないではないか、そんなことを思った。
 ところで、カレーを頼むと、ソースをかけるヤツが結構いた。それも、ちょこっとではなく、結構ダブダブかける。
 ソースをかけるとうまくなるのか?とはじめは思っていたが、毎日食べてるとあきるから、という理由のほうが多い、と友人から聞いた。
 自分は一回もかけた記憶がない。もしかしたら、一回ぐらい試しにかけたかもしれないが、差し当たり覚えていないーーーまったくもってどうでもいいことだが。この雑文だかエッセイもそもそもどうでもいいことになるけど。
 チャーハンはまずかった。見た目は、まるで町中華の如く、おいしそうに見えた。ところが、食べてみると、なんともいえないジャリジャリ感があってーーー意味わかるだろうか?ーーーしかも後味が悪かった。
 ご飯の量が多く、腹一杯になるのはいいのだが、なんといってもマズい。これにはかなり失望した。
 ところが意外に人気があって、頼む奴が結構いた。多分、お腹一杯なるからだろう。これの大盛りを頼むと、まず、食い切れなかった。しかし、それを平然と食べる日頃から痩せの大食いと言われているW3N(仮名)がいた。
 たいがい、カレーだけでは腹一杯にはならなかった。なので、パンを買う。
 このパンを買うのは、大変だった。スゴい数の学生が押し寄せ殺到する。パン屋のおばちゃんはさばききれない。
 そこで自分は考えた。五十円のパン一個!そう言って五十円玉出すと、すぐに買えた。もちろんこれの難点は、パンを選べないことである。いったい何が来るかわからない。
 しかし、意外にハズれがなかった。パン名を忘れたが、人気のある生クリームサンドを手に入れた時は、結構、うれしかった。
「オマエはパン運がいいな」何人かの友人に言われたときは、一瞬嬉しかったが、考えてみたら、この程度のことで運がいいからといって、人生にどれほどのメリットがあるのだ?と考えた。
 学食のテーブルは、前の方の席が、一人で来たヤツ用みたいになっていた。そこで食べていると、よく会う奴というのが出てくる。そして話をするようになることもある。
 そこで映画「ゴッドファーザー」の事を熱心に話す奴がいた。若き日の、落語家立川志らく師匠だった。
 コイツは、カツカレーに、大量にソースをドバドバかける派の、ヤツであった。そして言った。
「やっぱ中濃だよね」






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