団地の遊び 冬の夜の悪知恵と警官
冬の夜の悪知恵と警官
多分、小学五年生だったと思う。
なんかイヤなことがあって、夜、家を出た。真冬である。シャツの上にセーターを着ただけの服装だった。
おそらく、何かして、怒られる可能性でもあったのだろう。そのへんは覚えていない。
お気に入りのミニカーを一つ持って出た。
とはいえ、小学生に、夜行く場所などない。友達の家なんかに行くと、連絡があり、すぐバレる。
なので、とりあえず、団地の中をブラブラした。大変、寒かった。
見つからない場所はどこか?と考え、広い駐車場に行った。ここは、ウチの号棟のすぐそばなのだか、意外に盲点で、しかも、回りに木が生えていたり、物置みたいのがあって、隠れ場所にも最適といえた。
街灯があちこちあって、それ程、暗くない。駐車場の下は、砂利みたいになっていた。端っこの、木が茂り、四角いゴミ箱の所に避難した。ここは、意外に暖かかった。明かりもいくらか届く。
なぜかゴミ箱のフタが、斜めになっていて、ここでミニカーを転がせば、楽しいのではないか、と以前から気になっていた所でもあった。
よって早速ミニカーを走らせたのだが、距離が短いのと、出っ張りがあって、途中で止まり、思った程おもしろくなかった。
それでも、何回か遊んだ。
手が、かじかんできたので、やめて、ゴミ箱のウラのほうにしゃがんだ。後ろは木で、もたれることができる。尻を地面につける。
だんだん、寒くなってきたし、眠くもなってきた。
街灯がある。その近くに街灯ぐらい高さのある所に、丸いアナログ時計があった。七時五十分だった。
凍死というものは知っていた。バカなクセして、こういう事は知っている。寝ながら死ねるとは、なんて素敵なんだろうと、本気で思っていた。ここで、死ぬのは悪くないと、マジメに思った。
ここは落ち着いた。昼間この辺で遊ぶことはあったし、何か空気感が良かった(森側の出入口はよくない気配なのだが)。
回りを見ても、車はたくさん停まってるが、人はいなかった。たまに、車が入ってきても、人はすぐにいなくなった。
そのうち本格的に眠くなってきた。
ふと顔を上げると、片目の犬、シロ(仮名)がいた。シロは自分の横に来ると後足を曲げ、くっついてきた。温かいゾというように。
「ここにいるって、わかるんだな」
犬には超能力がある、そう言っていたのは、MM2(仮名)だった。確かに、あるようである。団地のはずれの一軒家に住むクラスメイトの庭で、飼われている。時々抜け出して、会いに来る。元野良犬である。
シロに抱きつくようにくっついていた。暖かかった。
「何をしてるのよ!」顔を上げると、女学級委員山岡と、MM2がいた。
「ここで死のうと思って」そう答えると、「うん。悪くないな」MM2がシロをはさんでしゃがんだ。
「何が、うん悪くないな、よ。シロが教えてくれたんだからね。感謝しなさいよ」山岡もしゃかんでシロにくっつき言った。
山岡の家は団地の一階である。北側の自分の部屋で勉強していると、気配を感じたので、窓を開けたら片目の白犬シロがいた。
MM2のウチは、山岡の住む号棟の、公園をはさんだ横であった。三階である。よって山岡の家がよく見えた。なんとなく外を見たら、山岡とシロがいたので、なんとなく出てきた。
そしたらシロが、来いというように歩き出したので、二人はついて行った。そしたらここに着いた。
家に帰るのは不愉快だ、とかなんとかグチを言ったら、山岡が、「今、帰るとかえって怒られる。だったら、もう少し遅く帰って、心配させるのよ。子供が夜遅くまで外にいれば不安になる。冬だし」
なるほど。さすが成績学年一位の女である。MM2も納得する。山岡は以前にも、隣のクラスの奴三人にボコボコにされたヤツへ、「一人ずつ倒せばいい。夜とか、後ろからぶっ叩くのよ」そういうステキな復讐アドバイスをした(恐ろしい女だ)。
しかし寒かった。なので、三人と一匹で団地内をフラフラ歩いた。
すると、時おり見かける若い警官が、自転車に乗って前方からやってきた。「こらこら君たち。犬の散歩にしては少し遅くないか?」
すると山岡が、なんと素直に事情を説明した。するとなんと、警官は、「良い悪知恵だ。わかった。ぼくも協力しよう」そして、団地内パトロールを付き合う事になった。
死ぬ予定だったのが、妙な展開になった。
九時過ぎた。自治会長に連絡されると面倒だ、という話になり、帰ることにした。クラスメイトの母親が自治会長で、ヘタすると捜索隊が出かねないーーー過去あった。
結局、山岡の悪知恵ではなく、パトロールに付き合ってもらってと警官が言い、事なきを得た。
山岡とMM2は、お巡りさんの道案内をしていたと言い、警官も遅くに申し訳ありませんと言って、ノッてくれた。
昭和の平和な一コマであった。
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