団地の遊び 一階下のアナコンダ

一階下のアナコンダ

 団地の一階の下は、空間があった。なんといっても、四段階段を上った所が、一階なので、その空間がある。
 そこは、知る限り、絶対入れなかった。猫なら通ることのできる大きさの、鉄柵で囲われたのぞき窓みたいのが、何箇所かあるのだが、人が入ろうとするドア的なものは、知る限り、全く見当たらなかった。
 小さいのぞき窓で、一番見やすかったのは、団地の側面にあった。団地と団地の間には、細い道がある。その団地側面に、存在した。
 中を見ると、特に何もない。他ののぞき窓からの明かりで、真っ暗ということもなく、ただ、白い砂利みたいなものが敷き詰められているだけだった。人が入ることのできるスペースは、充分ある。立って歩けるスペースまではない。
 ここは、あまり近づくな、と言われていた。ゴキブリの巣窟、マムシの溜まり場と言われていた。
 そんなヤツらがいる上に住んでいる、というのもイヤな話だが、特にみんな気にしていなかったーーーように思う。 
 そこで、アナコンダ級の蛇を見た。
 これは、多分に誇張されている。それはわかっているのだが、自分がまだ小学生で小さかったからか、なんだかヤケにデカいヘビに見えた。
それとも、純粋な心を持つ子供にしか見えないモノだったのかもしれない。
 ともかく、と、ある号棟の、鉄柵の間から覗いたとき、バスケットボール程の頭の緑色したヘビが、コッチを見ていた。
 言葉もなかった。これは、例え幻覚であれ、なんであれ、ハッキリと覚えている。赤い目をしたヘビが、赤い舌をシュルシュル出して、コッチを見ている。
 それは、決して悪意は感じられないものだった。「ん?なに?」そんな感じで、自分たちを見ている。
 鉄柵があるから大丈夫という思いが、あったけども、考えてみたら、それほどデカいヘビならそんなモノはカンタンにブチ壊せるだろう。
「あれはアナコンダだ」当時、学級委員だったMM2が、確信を持って言った。
 自分もそう思った。なんといっても世界で一番デカいヘビはアナコンダである。
 とはいえ、マジメに言って、どこかから逃げ出した三メートルぐらいのニシキヘビだと思う。
 そこの号棟に行けば、いつも見られるというわけではなかった。地面に大きな穴が空いていて、そこから出入りしてるのだろうと推測した。
 MM2が言った。「何を食ってるのだろう?」
 当時は、野良犬、野良猫はちょくちょくいた。しかし、あれだけ大きいのだから、人間だって食えるだろう。
 ロシア人の木村さんが消息不明になったとき、MM2は嬉しそうに、「きっと食われたな」
 誰が見ても白人に見えるおじさんが、スーパーに買物によく来ていた。日本語は完璧クラスに上手く、木村さんとみんなから言われていた。ロシア人だという。
 その人が、ある日、突然、姿が見えなくなった。スーパーに来なくなった。理由なんぞは、いくらでも考えられるのだが、MM2は、「間違いない」と断固として絶対的に言った。
 それはいいのだがーーーいやよくないがーーーいつも遊ぶ川で、そのヘビを見た時は、腰を抜かしチビりそうなほど、驚いた。緑色に黒の斑模様の赤い目をした十メートル級のヘビが、土手の草むらを、かき分け現れた。
 いや、十メートルではない、正直二十メートルぐらいに感じた。
 夕方だった。もう、かなり薄暗かった。自分は土手にいた。ガサガサという大きな音がし、横を向くと、ヘビが草むらから現れた。自分の前を、長く太い体の大蛇が、横切っていく。いつまでたっても、長い体が続き、目の前を通っていく。なかなか尻尾にならない。
 やっと終わったかと思っていたら、そのまま川の中に入って行った。
「川の中に洞穴があるんだ」MM2が言った。きっと、団地の下とつながっているのだろう。
 そのうち、ヘビの姿は見なくなった。MM2は、もっと大きな川、多摩川に行ったんじゃあないか?そんなことを言っていた。
 何年かたって、川のもっと上流のほうで、五メートルのニシキヘビが捕まったというニュースが、流れた。まったく、似てないヘビだった。
 結局、あれはなんだったのだろう?子供時代の全てが幻のものだった、そんなことを大人になって思うときもあるが、実際、あの生々しい感は、ハッキリと五感で記憶している。それとも、見た夢を、記憶と、勘違いしてるのかもしれない。
 ところで、なぜ、自分たちを襲わなかったのだろう?そんなことを、ぼんやりと令和で考えるバカな大人だった。

#創作大賞2024
#エッセイ部門

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