団地の遊び 夜の団地

夜の団地

 子供時代、なぜかあまり夏の記憶というのを、思い出さなかったのだが、最近、じょじょに甦ってきた。
 そして、夏の記憶は、夜が多かった。
 冬は寒かった。昭和の冬は、大変寒く、夜なんぞは出歩く気にはならなかった。しかし、夏は、当たり前だが、暖かい季節は、問題がない。
 夜、外出するに関して、親は特に文句は言わなかった。たいがい団地内なら比較的安全だし、行く所も想像がつく。
 塾の先生のとこ行って聞いてくる、とか、山岡(女学級委員)の所で勉強のこと聞いてくる、とか、なんかテキトーなこと言って出かけた。いずれも団地内である。
 なんにも言わないで出ることもあり、自分が出かけたことに誰も気づかないこともあった。
 平和な時代だった。
 それに団地内は、明るい。街灯はあちこちあるし、家の明かりもたくさんあるので、真っ暗という所が少ない。
 MM2(仮名)が、集会所の明かりの下で、勉強していたのを見たときは少し驚いた。コイツのウチは、ある日突然貧乏になった。金かかるから、夜は電気はつけない、ローソクで生活してるとかで(ホントか?)よって外で勉強していた。
 集会所の窓の下に座り、曲げた膝の上にノートを広げている。ここは、軒下になっていて、上に電灯がある。雨の日も平気である。
「前に中学生にカラまれたよ」
 団地の中は、比較的安全とはいっても、やはりどこ行ってもガラ悪いヤツというのはいて、中学やら高校やら、夜遅くなるにつれ、出てくる。
 夜とはいっても、なんといってもまだ小学生だから、せいぜい九時頃までである。
 MM2の話を聞くと、カラまれたというより、からかわれたというのが適切といえた。どっちにしろ、気分いいものではない。
 MM2は成績が良い。こんな努力をしてるのか、と感心した。
 ところで、夏の夜は緑濃い所は歩くな、と言われていた。
 芝生はどこでもあるし、ともかく茂ってる所はたくさんあるので、そういうとこには、蛇がよくいる、と言うのだが、実際そんなには見てはいなかった。とはいえ噛まれた奴もいるが。
 八時過ぎに団地中央に行く。ストアやら商店街がある。でも、すでに閉まっている。ストアもパン屋も肉屋も、本屋も薬屋もその他も閉店している。
 昭和の夜は早い。しかし、その中で、クリーニング屋だけが営業している。
 なぜか知らないが、夜遅くまで、稼働している。つまりクリーニングしているのだ。
 ここは、ルーズな店というより愉快な、いや親切な店で、春頃、こたつ布団をクリーニングに出す。出来上がり日には取りに行かない。そのままほっといても、電話一本かかってこない。そして寒くなった頃、取りにいく。要するにあずかってもらってるわけである。学級委員Rがそう言っていた。
 店内の、保管場所というのが、どうなってるのか知らないが、それほど広くはないように見えるのだが。
 この店は、自分が大人になっても、やはり夜、稼働していた。それも真夜中、午前一時とかでも、煌々と明かりをつけ、仕事をしていた。
 ちなみに、団地の商店街というのは、やはり団地で、一階が店舗、二階が住居という建物だった。
 つまり、五階建ての団地の中で、商店の所だけ、二階建てなわけで、裏に回ると、一部屋ごとの階段がついていた。何号棟だか忘れたが、ちゃんと号棟の一つとしての、建物だった。住居のほうは一度も入ったことがなかった。
 それはともかく、夜、団地中央グラウンドに、何人かで、集まった。みんなラジオを持ってきている。 
 この頃、BCLという趣味を持っていた。海外のラジオ放送など聴くやつだった。グラウンドとか広い場所だと、特に夜は受信しやすいというので、みんなで集まったり、する時もあったーーー実際はそれ程ラジオ感度はよくならなかったが。
 自分の号棟は四階だったので、受信状態は良かった。むしろ、ここのグラウンドよりも、よかった。にもかかわらず、来ていたのは、やはりみんなと遊ぶのが、楽しかったのだろう。
 団地内は、明るいので、夜でも野球とかやってるヤツがいる。そういう奴らのいる広いグラウンドの、すみっこのほうのベンチで、みんなで固まってラジオを操作する。
 パコーンとかカキーンとかボールの音がする。いくら明るくても、やはり夜で、ボールの当たる音というのは、結構響き、すると、遅くまでやってると、クレームが来る。たいがいジャージのオッサンが、サンダル履きでやって来る。そして不思議なことにハゲばかりだった。
 とばっちりを喰って、コッチまで、さっさと帰れと文句を言われるときもあった。そしてMM2(仮名)が言った。「団地七不思議の一つに、クレームはなぜか髪のない人が多いって、入れてもいいな」


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