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警察人生_公衆電話編

今はスマホからの110番通報が圧倒的に多い
昔は公衆電話からの110番が多かった

海に近い交番に勤務した時の話
海岸の駐車場は海に夕陽が沈むのがきれいだったので人気のスポットだった
夕暮れにはカップルが集まり、週末には暴走族が集まった
駐車場の片隅に公衆電話ボックスがあり、そこから様々な110番通報があった

ある晩、男から通報があった
 「シャブを打った、苦しい、助けてくれ」
と言って来た
通報に基づき臨場すると、男が車中でシートを倒して寝ており、蒼白な顔でガタガタ震えていた
「大丈夫か」と声をかけると、男は
 「助けてくれ、病院へ連れて行ってくれ」
と言葉を何とか絞り出して答えた
冷や汗をかいて全身を振るわせていた
明らかに覚醒剤を打った時の症状だった
初めて覚醒剤を打ったようだ
覚醒剤が男の体に合わなかったみたいだ
病院へ搬送し点滴を受けさせたところ、回復した
その後、覚醒剤の使用で逮捕した
男は「懲りた、もうやらない」と言った

夕陽を見に来た男女のカップルからは
 「UFOが海の上を飛んでいる」
と通報があった
当時は110番センターと呼ばれる集中して110番を受理する施設がなく県下を3地区に分け、分離して指令していた
だから、110番を受理する警察官の判断で無線指令がおこなわれていた
110番を受理した係官は
 「とりあえず、通報現場に行き通報
 者に接触、事情聴取されたい」
と指令して来た
私は「まあ、通報者に接触して話を聞いてあげればいいか」と通報現場に向かった
現場に着くと、カップルが海の方を指さしている
 「お巡りさん、UFO、UFO」
と騒いだ
私がその方向を見ると、UFOの編隊がジグザグに飛んでいた
6機の編隊だった
航空自衛隊のブルーインパルスじゃないかと思った
しかし、高度を一気に上げたり下げたり、ジグザグに飛行していたのだ
ジェットエンジンの音も全く聞こえない
何よりも翼がなかった
飛行機ではない、円盤型だ
カップルに
 「UFOだよね、お巡りさん」
と言われても、私は言葉が出なかった
カップルが
 「ねぇお巡りさん、聞いている?」
と言った瞬間、UFOは消えてしまった
カップルは
 「あー、消えちゃったよ」
 「お巡りさん、これニュースにな
 る?」
 「テレビの取材来る?」
と矢継ぎ早に言って来た
私は
「報告するが、あとはわからない」
と答えるのがやっとだった
ミニパトに戻ると、110番指令が聞いて来た
私は無線で報告はできないと思った
なぜなら、UFOを見たことを無線で言ったら、どうなるか?皆が聞いているのだ
笑い者にされるのは明白だった
必ず、同期生から電話がかかって来る
私は
 「交番に帰所後、まるゆう(有線電
  話)する」
とだけ答えた
110番指令が知っていた人だったので、交番に帰って電話し事情は説明した
110番指令の係官は
 「航空自衛隊に確認は取ってある、
 レーダーには何も映っていないそ
 うだ、上には確認できなかったと
 報告しておく」
と言った
私が見たのはなんだったのか?

子供からは砂防林の中にマネキンの人形があると通報があった
110番指令はまたしても、「とりあえず見に行ってくれ」と言う
「とりあえず」というのは、しっかり聞いていないのだ、悪く言うと、現場に丸投げなのだ
ただ、この時の通報は嫌な予感がした
子供は見たくないものを見た時、言い換えることがある
マネキンの人形ではなく、たぶん死体だろうと思った
刑事課に連絡して、現場に向かった
砂防林に住み着いた浮浪者の遺体だった
たぶん、病死だろう、事件性はない
既にミイラ化して、かなり黒くなっていた
マネキンという表現は間違いではないが、明らかに死体だ
子供にとっては、さぞショックだったのだろう
検視に総合病院の女性医師と看護師が来た
いつもの警察嘱託医の先生は連絡が取れなかったらしい
女性で大丈夫だろうか?と思った
なぜなら、ご遺体がかなり腐敗が進んでいたからだ
日記をつけていたので、身元はすぐわかった
死因も予想できた、癌を患っていたのだ
現場では外見上を観察する、外傷の有無や出血の跡などである
口を開けた時だった
ウジ虫が大量に出て来たのだ
それを見て、看護師が卒倒した
しかし、女性医師は平然としていた
さすがだと思った
行政解剖の結果、胃の中は空っぽだった
餓死だった

公衆電話ボックスにも色々な物語がある

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