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フランシス・クリックから数学・物理出身の理論生物学者への警告


フランシス・クリックという 生物学者がいました。ジェームズ・ワトソンと共にDNA2重らせん模型を作った人です。20世紀の生物学者たちの内、 分子生物学の勃興を担った人々、たとえばシュレーディンガーやジャック・モノー、それからジェームズ・ワトソンなどまたデルブリュックなどとほぼ同時代に活躍した巨人です。この人が数学や物理学出身で、それから理論生物学へ、 転向して研究をした人たちに対して、フランシス・クリック自身も物理学から出発したんですが、 警告を著作の中でしております。その著作は「熱き探求の日々」(中村桂子訳)というものです。ちょっとその内容を紹介します。デルブリュックやシュレーディンガーも生物学に大きな貢献ができたはず、また実際にある程度 貢献もしたんですが、たとえばデルブリュックは実際ノーベル医学生理学賞も受賞していますし、
またシュレーディンガーが分子生物学のコアとなる遺伝子の研究の重要性というのを指摘したんですが、それでもやはり限界や問題があったというふうにフランシス・クリックは述べています。
 それはどういうことか、物理学者、物理学出身の人は整然とした数学的モデルを作ろうとするけれど、化学(Chemistry, ケミストリー)を量子力学を応用しただけのつまらない学問だって思ってしまいやすいせいで、化学の知見というものをあまり活用しないで、生物学の問題を解こうとしてしまう欠点があるということです。実際は、生物学では、なんかの現象の仕組み、メカニズムが解明されることが多いんですが、その時に必要な知識はややはり化学であることが多いと。そこには量子論の神秘的な側面というよりは化学に応用可能な、たとえば量子化学とかそういうものですね、シュレーディンガー方程式の応用的側面ですね、原子などがどうしてそういう構造や配置をとっているかなどに関する知見ですが、そういうものが有機化学とかそういうものとして、集大成されております。生化学もそうですね。
そういった化学に立脚した知識というものをもっと物理学者も活用しないと、生物学の仕組みを解明できるような理論を提案できませんよ、というのがクリックの指摘でした。
 それからもう一つはルネ・トムみたいな、数学のノーベル賞とよばれるフィールズ賞を受賞してから生物学に転向した人も、アイデアや直観はよかったのですがあまり大きな成果は上げられませんでした。大変優れた数学者だったのに勿体ないということで、フランシス・クリックが、ルネ・トムに関して、批判的なコメントをしているのは、ルネ・トムはポアソン分布など、確率統計の知識はあったものの、論文の実験の手順が書かれた部分をちゃんと丁寧に批判的、分析的に読んで、理解しようとしない傾向があったということです。そこが、生物学の理論を彼が作ろうとした際に問題となりました。
ということで大きくまとめると、以下の2点に気をつけましょうという警告でした:
1. 化学の知識を身につけましょう
2. さまざまな(生化学実験などを含む)実験手法の批判的知識を身につけましょう


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