2020実験実習(北大文学部行動科学2年生向け)
1. マイクロ・マクロ (Gough, 1806)
実験:
1.輪ゴムをひとつ用意する。
2.輪ゴムを伸ばしも縮めもせず、唇に当ててみて暖かさ(冷たさ)を感じてみよ。(おそら熱くも冷たくも感じないはず。)
3.輪ゴムを右手親指と左手親指で内側から開くように、勢いよく長めに引き伸ばしてから、すぐに輪ゴムの中心を唇に当てて暖かさ(冷たさ)を感じてみよ。
4.輪ゴムを引き延ばした状態から急に縮んだ状態にしてすぐに唇にあてて暖かさ(冷たさ)を感じてみよ。
目的:
ゴムをミクロスコピックに拡大してみると、図のように、向きをもった分子が長くつながったものである。このことから、マクロな変数である熱について、どんなことがいえるだろうか。分子一つは熱や温度といった性質をもたないミクロな存在である。一方、輪ゴムという、分子が多数集合したマクロな存在には、熱や温度、張力といった、各分子には備わっていないマクロな性質がある。これらの関係(マイクロ・マクロな論理)はどのようなものか、説明するためにエントロピーの概念S=klogWが重要であることを理解する。(熱統計力学を社会現象の解析に応用する計算社会科学や社会物理学への入門)
モチベーション:以下のような社会変動の予測モデルを考える際に、ゴムや気体のミクロな性質とマクロな効果との関係を比較する際のマクロ変数の性質やミクロとマクロを結び付けて考える方法を概念的に役立てたい。
※この実験課題の解説などを作成するにあたり、計算社会科学研究センターおよび社会物理学研究会(統計数理研究所)
の諸氏に大変お世話になったので、ここに感謝します。
出展: Gough Proc. Lit. and Phi1. Soc., Manchester, 2d ser., 1,288(1806)
解説:
2. 時間非整合性(Thaler 1981)
実験:
銀行で実施されているくじ引きで1500円があたりました。すぐもらうこともできますが、待ってからもらうこともできます。今すぐ1500円もらう代わりに、以下の3つの期間待ってからもらうには、その期間待ってから、いくら以上もらいたいですか。(自分が欲しい3つの金額a, b, cを回答せよ)
a 円以上なら3か月待ってもよい
b円以上なら1年待ってもよい
c 円以上なら3年待ってもよい
目的:
時間選好(主観的年利)が、待つ期間の長さによって
どのように影響されるかを調べる。(行動経済学のトピックのうち、時間選好、双曲割引への入門)
出典:Thaler, Richard, "Some empirical evidence on dynamic inconsistency"
Economics Letters Volume 8, Issue 3, 1981, Pages 201-207
※この実験課題に関しては、行動経済学研究センター(大阪大学社会経済研究所)の諸氏に議論を通じてお世話になりました。
解説:
3. アレの背理(Allais, 1953)
実験 以下の質問1と2の両方に回答せよ。
質問1:
以下のくじのうち、どちらを選びたいか。
くじA: 確実に1,000万円がもらえる。
くじB: 10%の確率で1,200万円、89%の確率で1,000万円がもらえ、1%の確率で何ももらえない。
質問2:
以下のくじのうち、どちらを選びたいか。
くじC: 11%の確率で1,000万円がもらえ、89%の確率で何ももらえない。
くじD: 10%の確率で1,200万円がもらえ、90%の確率で何ももらえない。
目的:
保険市場(リスクシェアリング)の理論である期待効用理論の公理のひとつである、
独立性公理が成立しない場合(AとDが選ばれる場合)に、(確率の代わりに)どのような変数や測度をもちいた理論(プロスペクト理論のこと)が必要になるかを理解する。(行動経済学のトピックのうち、プロスペクト理論への入門)
出典:Allais, M. (1953). "Le comportement de l'homme rationnel devant le risque: critique des postulats et axiomes de l'école Américaine". Econometrica. 21 (4): 503–546.
※この実験課題に関しては、行動経済学研究センター(大阪大学社会経済研究所)の諸氏に議論を通じてお世話になりました。
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