【簡易版】囚人のジレンマ:Shafir-Tversky実験の質問紙

Shafir-Tversky1992 の囚人のジレンマゲーム実験の追試は数多くおこなわれてきた。ここでは、その中でも手軽に実施できるpaper and pencilの質問紙バージョンを紹介する。ぜひご自分でも回答してみて、Savage's Sure-Thing Principleが成立するかチェックしてみると理解が深まるだろう。解説はこちらです→囚人のジレンマにおいては全確率の公式(サヴェッジ当然原理)が破れる Shafir-Tversky 1992|高橋泰城 (note.com)
出典:
「囚人のジレンマにおいてサヴェッジ当然原理の破れは存在するのか?」
Li S et al.,
Is There a Violation of Savage’s Sure-Thing Principle in the Prisoner’s Dilemma Game? Adaptive Behavior (2010) 18(3):377-385
において用いられた質問紙の日本語訳である。

以下の文章を読んで、(1)、(2)、(3)の各質問に対して選択して回答してください。(データ解析の仕方は後述)






(以上で実験は終了)

以下に実験データの分析方法を示す。Aが囚人のジレンマにおける協力C、Bが非協力Dに対応している。

(1)の回答を、相手が協力(A)か非協力(B)か不明という条件の下の自分の非協力率
とする。つまり P(自分D|相手不明)= (1) とデータに解釈を与える。

(2)の回答を、相手がC協力(A)という条件の下の自分の非協力率とする。
つまり P(自分D|相手C)=(2)とデータに解釈を与える。

(3)の回答を、相手がD非協力(B)という条件の下の自分の非協力率とする。
つまり P(自分D|相手D)=(3)とデータに解釈を与える。

このとき、もし、
回答者が返報性(reciprocity)をもっていて
P(自分D|相手C)<P(自分D|相手D)
Savage's sure-thing principleが破れていないならば、
P(自分D|相手C)
<P(自分D|相手不明)=P(自分D|Ω)=P(自分D)
<P(自分D|相手D)
が成立するはずである(このリンク先でその不等式の導出の仕方を説明しておいた)。
つまり、

「返報性reciprocityという社会的選好social preferenceの下で、Savage's sure-thing principleが成立する」
⇔(2)<(1)<(3)
⇔(1)の回答の数字が、(2)の回答の数字と(3)の回答の数字の間にくる

という論理的等価性がある。

果たして、みなさんの回答はどうだったであろうか。Shafir-Tversky1992論文の結果やLi et al 2010論文の結果では、(1)<(2)<(3)であった(相手の手が不明な場合に一番相手を裏切りにくかった(非協力的でなかった=相手不明条件でもっとも協力的だった))。すなわち
 P(自分D)<P(自分D|相手C)<P(自分D|相手D)
という不等式になってしまった(Sure Thing principleの破れが実在した)のである。

つまり、自分協力率の話になおして再度述べなおすと、
P(自分C|相手D)<P(自分C|相手C)<P(自分C)
であった。(注:Savage's Sure-Thing Principleが破れないのなら
P(自分C|相手D)<P(自分C)< P(自分C|相手C)のはず。なぜそうなのかは、このリンク先を参照のこと)
これは、
(1)確率論、意思決定論においてはSavage Sure Thing PrincipleやLaw of Total Probabilityの破れが実在した、という意味である。
(2)社会心理学においては以下のようなことがわかったことを意味する。
つまり、

「自分に協力してくれた相手には協力し返してあげたくなる返報性という心理学的効果による協力」<「手の内を明かさない相手に協力してあげたくなる返報性ではない心理学的効果による協力」

であることがわかったということである。これは、

条件付きの親切心(協力傾向)よりも無条件(無私無償)の親切心(協力傾向)のほうが強力である

ことを意味し、飼い主になつきやすい「犬」に対する親切心(P(自分C|相手C)よりも、飼い主になついているのかいないのかわからない気ままな存在である「猫」に対する親切心(P(自分C|相手不明))のほうが大きい(「猫」のほうが「犬」よりかわいがられやすい)というような話と関係するのかもしれない。


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