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放浪記②〜20代のころ少々放浪癖がありまして〜

今日は放浪記シリーズの第二話名古屋編です。

第一話から読みたい方はこちら↓


『第二話 名古屋の刹那の巻』


名古屋某店にて、僕はとんでもない目に遭った。

東京から横浜、静岡を経て名古屋に降り立った翌日である。


この旅もすでに10日以上経過し、徹底したイベント狙いによりようやく収支もプラス域に到達していた。

この日も朝から好調で昼前には既に2箱を積み上げていた。

そして昼過ぎ、2箱あった出球は既に8千円分くらいしか無くなっていた。

一旦トイレに行って気持ちを切り替えよう。

トイレに入った瞬間気づいた。
しまった。サイフを台に置きっぱなしにしてしまった。

すぐに台に戻った。
時すでに遅しである。

財布がないだと?

ポケットをもう一度見る。
いやないって。

それからいろんなとこ探した。

向かいのホーム
路地裏の窓
そんなとこにいるはずもないのに。


いやホントに探した。
山崎まさよしの名曲ほどではないにしろ。
椅子の下とか隣の台とか。

カウンターのお姉さんに『財布の落とし物届いてないですか?』って聞いてみたり。

お姉さん『ないですね笑』
時に笑顔の接客が憎らしい。
お姉さんまぢごめん。

一度冷静になってみる。
まずは今持ってるスロットのコインが現時点での僕の全財産である。

換金した。
きっちり8千円。

サイフを何者かに盗まれたのは最初から分かっている。

犯人の行動パターンを頭の中でトレースしてみる。

サイコメトラーエイジである。

まず僕の台にサイフが放置されているのを確認した犯人は僕が台から離れてトイレに入るのを確認すると、何食わぬ顔でサイフをポケットにしまっただろう。

そして、何食わぬ顔でパチンコ屋を出て行っただろう。

ここからどうするか?

僕が犯人なら現場を離れてすぐに人混みに紛れてから財布の中身だけを抜いてサイフを処分するだろう。

そこから導き出された答えは『隣のパチンコ屋のトイレ』である。

僕はすぐ隣のパチンコ屋のトイレへ向かった。
すると手洗い場の隅にゴミ箱があった。ふむ。


中を覗いた。
僕のバーバリーちゃんがゴミ箱の底でくの字に折れ曲がっていた。

涙が出た。
もちろん中に金はない。
翌日駅の改札で気づくのだがSuicaもパクられていた。

でもとにかくその他が無事でなによりであった。

笑顔の接客がモットーのお姉さんにも報告したらガムをくれた。

めでたしめでたし。


とここで終わらないのが僕なのである。
伊達にリコーダーのテストを口笛で乗り切っていない。



僕はその日100均で皮っぽいサイフと便箋、ボールペンを買ってホテルに戻っていた。

人のサイフに手を出すような不届き者を懲らしめてやるのだ。勧善懲悪である。

便箋に窃盗犯への想いをしたためる。 


親愛なる容疑者X様

お勤めご苦労様です。

窃盗は犯罪です。

あなたが今回の窃盗で得た対価=100円(サイフ)
あなたが今回の窃盗で犯したリスク=プライスレス


今後は同じようなことをなさらぬよう。
ご自愛ください。

敬具


追伸
私はあなたをずっと見ています。

文面はよく覚えてないがこのようなことを当時のありったけの文章力で書いた。

そしてバーバリーちゃんに詰まっていた大量のレシートを100均の財布に詰め込み、1番手前に便箋を忍ばせる。

翌日。

パチンコ屋でおもむろにサイフを台に置きっぱなしにして違う台で打っていた。


小一時間して見に行ったら案の定無くなっていた。

一応カウンターにも落とし物を問い合わせたが無かったので間違いなく誰かが持ち去っている。

世間には思った以上に悪人が多いのだと思った。

きっと犯人はこの手紙を見て後ろを振り返ったはずだ。

しばらくは人の視線が気になって仕方なかったはずだ。

本当に後を付けなかったのはせめてもの救いだ。
改心せい。
というかめんどくさかった。

なんだかスッキリしたような、腹立たしいような何とも言えない感情だった。

その日はパチスロの収支がどうだったのか全く覚えていない。

とにかく昼飯を食いに入ったラーメン屋のBGMが郷ひろみの『お嫁サンバ』だったことくらいしか記憶にない。

結論。
郷ひろみの声はやはり甲高い。


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